テラーノベル
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私に『泣いた赤鬼』という話を教えてくれたのは、職場の上司の史乃さんだった。
日曜日の仕事終わり、私は職場の人達と焼き鳥屋に飲み会に来ていた。
がやがやと、仕事終わりのサラリーマンや大学生の声がする。
私の横ではべろんべろんに酔った同僚の津井先ちゃんが
「私は将来お金貯めて起業したいんです!!」
とギャルメイク先輩に夢を語っている。
「史乃さぁん、真実の愛って何ですかねー」
カシスオレンジを飲みながら、私は史乃さんに思いきって聞いてみた。もしかしたら、おねえちゃんを救うためのヒントが見つかるかもしれない。
そんな一縷の希望を持って。
「真実の愛…….そうですね、真実の愛と聞いて
ぱっと思い付くのは、『泣いた赤鬼』の話でしょうか?」
真実の愛についてそれとなく聞いた私に、史乃さんはそう答える。
史乃さんは焼酎を数杯飲み、少し顔が赤らんでいた。
「どんな話ですか?」
「人間と仲良くしたい赤鬼のために、友達の青鬼が自ら悪者になって、赤鬼に退治されるの。赤鬼は皆から感謝されて青鬼は姿を消す。そんなお話です」
「青鬼かわいそう…….」
「きっと、青鬼にとっては、それだけ赤鬼が大切だったんじゃないかしら」
そう言って史乃さんが遠くを見つめる。
「…….私もね、昔好きな女友達がいて、その子が留学するかどうか迷ってる時、その子が迷わないように少しずつ疎遠になったの。だから私には青鬼の気持ちが少しだけ分かるんです。愛とは誰かを思うこと、愛とは献身なんじゃないかしら」
「愛は……献身…….」
私が史乃さんの言葉を繰り返す。
「どうしてそんなこと聞いてきたんですか?今付き合ってる、楓子さんのことで悩んでいるのかしら?」
史乃さんが三杯目の焼酎をくいっと飲みながら
横目で私の方を見る。
「え、いやーまー……そんな感じです」
真実を伝えるわけにもいかないので私は目を泳がしながら誤魔化す。
「地獄子ちゃんの恋愛は、個人的に応援していますよ。ただし、仕事にちゃんと集中すること。
最近ぼーっとしすぎですよ」
「はい、すいません」
おねえちゃんの姿に化けた私が平謝りする。
「だいたいねぇ…….」
くどくどと、史乃さんが説教を始めた。
史乃さんは一度説教のスイッチが入ると最低でも30分は説教を続ける。
史乃さんの説教と、津井先ちゃんの壮大な人生設計を聞きながら、私はおねぇちゃんのことを考えていた。
もし、おねぇちゃんに真実の愛を教えることができるとしたらそれは誰だろう?
おねぇちゃんの姿が見えて、おねぇちゃんが心を許していて、おねぇちゃんの魔力が暴走しても死なない相手。
…….脳裏に、楓子さんの涼やかな笑顔が浮かぶ。
青鬼は、きっとこんな気持ちだったのだろう。
飲み会が終わった後、私は楓子さんに大事な話があると連絡した。
月明かりが綺麗な夜、楓子さんの箒に乗せてもらい、一緒に夜空を飛ぶ。
「しっかり掴まっててね、天国美」
「……はいっ」
楓子さんの腰のあたりに抱きつき、背中に顔をうずくめる。
こうやって、楓子さんと一緒に箒で空を飛ぶのは
恋人である私だけの特権だ。
私だけの____
「……泣いてるの?」
心配そうに楓子さんが呟く
「あっご、ごめんなさい!!目にホコリがはいっちゃって!!いやーまいっちゃうなー!!」
私は涙を手で拭き、慌てて誤魔化す。
「……そっか」
楓子さんはそれ以上何も聴かず、いつもより少し遠回りしながら夜の空を飛んだ。
「それで、大事な話ってなんだい?」
アパートの屋上に着地した後、面と向かって楓子さんが聞いてきた。
満月は、灰色の雲に覆われて隠れてしまっている。
目を閉じ、楓子さんとの記憶を思い出す。
初めて携帯ショップで会った日に付き合った時のこと。
植物園で一緒にソフトクリームを食べたこと。
一緒に海に行ったり、ケーキを作ったり、夜空を箒で飛んだこと。
私の大事な初恋。
「楓子さん、お願いします」
「私と別れて、おねぇちゃんと付き合ってください」
私達の間に夜風が吹く。
楓子さんは少し寂しそうな顔をしている。
「ずっと考えてたんです。どうやったらおねぇちゃんの呪いを解けるのか、誰ならおねぇちゃんを救えるかって」
「…….楓子さんなら、きっとおねぇちゃんに愛を教えれます。私が好きになった楓子さんなら、きっとおねぇちゃんも好きになってくれます。
___だって、私はおねぇちゃんのドッペルゲンガーだから」
「天国美………」
「身勝手なことを言ってごめんなさい。だけどどうか、おねぇちゃんを助けてあげてください」
私は楓子さんに頭を下げた。
「…….すまないが、私には地獄子ちゃんに愛を教えることはできないよ」
楓子さんが目を伏せながら呟く。
「…..どうしてですか?」
「私にその資格はない。私に誰かを愛したり、誰かに愛されたりする資格はないんだ」
そう言って、楓子さんは右目から赤い血の涙を流した。
「ずっと黙っててごめんよ。私は君と同じドッペルゲンガーなんだ___主人である黒瀬楓子を殺して喰った、化物なんだ。」
楓子さんの影が、生き物のように蠢いた。
コメント
1件
読了したよ〜!!😭💕 第22話、天国美視点で泣いた赤鬼の話がここで来るのか...って震えた。史乃さんの「愛は献身」って言葉が天国美の選択に全部繋がってて、もう切なすぎるでしょ...。自分の初恋を犠牲にしてでもお姉ちゃんを救いたいって願う姿、本当に胸が締め付けられたよ。 でも最後の楓子さんの告白、まさかのドッペルゲンガーで本体♡♡♡て喰ったって...!?!?! 今までの優しさや遠回しな言動の伏線が回収された感じがして興奮が止まらない!!次が待ちきれないよ😭💕
きょうふ
115
comi
778
#可愛い
トド村
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