次の日、理紗子は朝から執筆に集中していた。
昨日は小説を書く時間がほとんどなかったので、今日はその分を取り戻すべく朝からパソコンの前に座っていた。
午前十時を回った頃、理紗子のスマホが鳴った。
電話は美月出版の磯山雄介という編集者からだった。
磯山は理紗子が初めて小説を出版した時のやり手の編集者で年齢は36歳。
理紗子が小説デビューした時から現在まで一番世話になっている編集者だ。
理紗子はこの業界に関して全くの素人だったので、デビュー当時から全て磯山の指示通りに動いている。
磯山のお陰で小説は無事書籍化、その後その小説は漫画化、映画化が決まり大ヒットした。
それがきっかけで仕事の依頼が増え、今理紗子は小説家一本で生計を立てられるようになったのだ。
元々はネットの小説投稿サイトへ素人として投稿していた理紗子の小説に磯山が目を留めたのがきっかけだった。
そこから理紗子はとんとん拍子にプロの世界へ入る事になる。
理紗子は磯山のお陰で小説家として独り立ち出来たと言っても過言ではない。
磯山は理紗子にとって恩人でもあり、最も信頼出来る編集者だった。
理紗子はすぐに電話に出た。
「はい、水野です」
「水野先生おはようございます、磯山です。今、大丈夫ですか?」
「おはようございます。大丈夫ですよ」
「新作の構想はどうでしょう? まとまりましたか?」
「はい、漸く書き始めましたがまだぼんやりとですね。これから徐々に詰めていこうかと」
「実は今日お電話したのは、水野先生の四冊目の本も重版が決定したのでそのご連絡なんです。いやぁ、四冊全て売り上げが順
調で我が社としてもありがたい限りです。そこで我が社から水野先生に何かプレゼントをという話になりまして、石垣島への航
空券と宿泊券をプレゼントさせていただこうかと…」
「えっ? 石垣島ですか?」
「はい。ちょうど新作の取材旅行にもなるかなぁと」
「…………」
理紗子は信じられない思いで固まっていた。
「もしもし? 水野先生?」
「あ、はい、すみません」
「それでですね、ホテルは先生のご希望の場所があるかなぁと思い、もしあるようでしたら教えていただければこちらで予約を
入れさせていただきますので…」
理紗子は嬉して今にも空に舞い上がりそうだった。
実は新作に本格的に取り掛かる前に、自費で石垣島へ行く事を考えていたのだ。
しかし今理紗子は中古マンションを一括で購入した直後だし、引っ越し等で出費が続きこれ以上預貯金を崩したくないと思って
いたので悩んでいた。
そんなところへ、タイミング良くこの話が舞い込んで来たのだ。
驚かないはずがない。
それと同時に、本当にそんなプレゼントをもらっていいのかと不安になる。
そこで磯山に聞いた。
「とても嬉しいお話なのですが、私なんかがそんなプレゼントをいただいてもよろしいのでしょうか? 小説に関してはちゃん
と規定の報酬もいただいておりますし…」
「もちろんですよ。あくまでも『取材旅行』のお手伝いという名目ですから。うちとしてはこれを機にまた新作をガンガン書い
て下さいという下心込みなので」
磯山は笑いながら言った。
それを聞いた理紗子は少しホッとする。
「じゃあ旅行から戻ったら死に物狂いで書かないとですね」
「はい。よろしくお願いしますよ。期待していますからね」
磯山は朗らかに言った。
それから理紗子は希望のホテルを磯山に伝えた。
理紗子がお気に入りのホテルは、市街地から少し離れた『底地シーサイドリゾートホテル』なので宿はそこでお願いする。
このホテルは、理紗子が好きな川平湾のすぐ近くにある。
部屋は全てオーシャンビューで、窓からは美しいエメラルドグリーンの海が見渡せた。
その後理紗子は希望する日程を伝えた後、磯山との電話を切った。
「やったー、石垣島に行けるわー! それもタダで!」
理紗子は嬉しさのあまりベッドにダイブする。
初めて石垣島を訪れたのは大学生の頃に女友達と。
二回目は四年前に洋子と二人で旅行に行った時だ。
今回は三回目になる。
そして一人で石垣島へ行くのは初めてだ。
「うわっ、大人の一人旅よ! カッコ良くない? 憧れの一人旅よー」
理紗子はそう呟くと、枕を抱きしめて興奮のあまり足をバタバタさせた。
前の会社を辞めて以降、理紗子はずっと小説三昧の日々を送っていた。
一度だけ洋子と箱根の温泉に一泊旅行に行ったが、本格的な旅は久しぶりだった。
(頑張ってよかった…)
理紗子は自分の努力で勝ち取った今回の旅を、思い出に残るものにしたい…そう思っていた。
コメント
3件
石垣島ご招待\(^o^)/やったぁ~‼️良かったね🥰💕 健吾さん、どうするのかなぁ~🤭
石垣〜🌊🌴やったね‼️理紗子ちゃん🙌健吾に伝えるよね?俺も行くとか言ってきたりして🤭
石垣島へご招待✈️✨ これは嬉しい😆💞 でもご招待だからおひとり様で行くのかな? 健吾さんはどうするだろ?