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宙
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宙
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きゆう
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え ー た ん !
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『城を止めるだけでは足りない』
投影壁の中で、シュエルの母はそう言った。
『中枢を停止すれば、防衛結界は消える。でも、鋼の城そのものに溜まった魔力はすぐには消えない』
映像が切り替わる。
城の断面図。
中央の中枢から、庭園へ何本もの線が伸びていた。
『停止後、残留魔力を庭園の根系へ逃がすこと。月白草を起点に接続弁を順に開き、土と水と根へ分散させる。これをしなければ、魔力は城内へ逆流し、鋼の骨組みを内側から壊す』
シュエルは息を呑んだ。
中枢で一つだけ試しに開けた弁。
あのとき中枢の脈動が弱まった理由と一致する。
『順番を違えないで。先に根系を全開にすれば、稼働中の中枢が生命力まで吸い上げる。必ず、中枢停止が先』
母は一度目を伏せた。
『三度目が来たなら、これは故障ではない。城の役目を終わらせる時よ』
映像が途切れた。
劇場に静けさが戻る。
「手順は分かった」
イアクが投影器を見ながら言う。
「ただし、今の中枢は不安定。停止命令を入れたら、根系へ逃がすまで時間は長くない」
「どのくらい?」
「数分」
シュエルは立ち上がった。
「十分です」
*
「城を止める」
トレヴァーは会議室で言った。
王都から届いた命令書は、机の上に置かれたままだ。
「王都の承認は?」
重臣の一人が問う。
「待たない」
「北部結界が消えます!」
「分かっている」
トレヴァーは初めて、誰かの顔色を見ずに答えた。
「近隣三砦へ警戒強化を要請する。城の警備隊も外周へ回す。結界停止後の空白は人員で埋める」
「責任は誰が取るのです」
「俺だ」
短い返事だった。
彼は封印解除命令へ自分の名を書き入れた。
「八年前と同じことはしない」
*
城内では役割が一気に決まった。
レーネは停止誓約と八年前の命令書を複写し、城内各所へ掲示した。
「記憶が抜けても、これを読めば何をしているか分かるようにする」
イアクは黄昏の映画館に残り、採光が尽きるまで停止手順を再生して書き写し、記憶硝子を保護した。
サンタナは警備隊を二つに分ける。
「第一班は住民と使用人を南門へ。第二班は地下経路を確保。倒れた扉や崩れた床は全部印をつけろ!」
指示を出し終えると、彼はシュエルの前へ来た。
「中枢まで一緒に行く」
「庭園側の根系も操作が必要です」
「分かってる。中枢停止までは俺が護衛する。そのあと、お前は庭園へ戻る」
「あなたは?」
「戻る道を守る」
シュエルは彼を見る。
地下水路へ向かう前は、危険だから行くなと言われた。
今は違う。
「止めないんですね」
「止めたい」
サンタナは苦笑した。
「でも、それは俺が怖いからだ。お前が決めたことを奪う理由にはしない」
彼は剣の柄へ手を置いた。
「戻る場所は俺が守る」
シュエルはうなずいた。
「では、必ず戻ります」
*
中枢は前より激しく震えていた。
記憶硝子の棚では、細かな亀裂が次々に広がっている。
「停止盤はあれだ!」
サンタナが道を開く。
シュエルは中央円筒の脇へ走った。
古い操作板には、中央円筒を停止する大きなレバーと、腐食した固定具が残っている。
イアクが映像から書き写した手順どおり、シュエルはレバーへ手をかけた。
「サンタナ!」
「いる!」
「三つ数えたら、右の固定具を押さえて!」
「了解!」
一。
二。
三。
二人同時に操作した。
轟音が走った。
城全体を満たしていた低い脈動が、急に消える。
「止まった!」
「庭園へ行け!」
シュエルは走った。
*
北庭園では、レーネが月白草の生き残りを守っていた。
城へ来た日に硝子片を見つけた、あの株だ。
「まだ反応してる!」
葉の裏が銀色に輝いている。
シュエルは根元の点検蓋を開いた。
地下へ続く三本の接続弁。
「一番から!」
最初の弁を開く。
地面の下で光が走った。
二番。
枯れていた草の根元が、淡く白く光る。
三番。
その瞬間、城壁全体から青白い光が噴き出した。
「伏せて!」
レーネと地面へ身を伏せる。
光は庭園の土へ流れ、幾千もの細い筋となって広がった。
黒く枯れていた根が、光を受け止める。
城は揺れた。
一度。
二度。
そして――止まった。
*
「シュエル!」
サンタナが庭へ駆け込んできた。
無事な姿を見て、シュエルは胸を撫で下ろす。
「戻りました」
「ああ」
二人は笑った。
その直後。
停止と同時に、投影器の回路へ固定されていた照合鍵との接続も切れた。
シュエルの頭の中から、何かがするりと抜けた。
暖炉の火。
白いシャツ。
雨音。
そこに誰かといたはずなのに、映像だけが急に白くなる。
「……何?」
サンタナも額を押さえていた。
「俺、今……何か忘れた」
シュエルは自分の胸元を見る。
植物図鑑に、見覚えのある文字が書かれている。
《雨の日。サンタナは八年前の失敗を話した》
《私は、失敗より次にどうするかを見たいと答えた》
自分の筆跡だ。
意味は分かる。
けれど、その場面だけが思い出せない。
サンタナも同じ顔をしていた。
「雨の日って……何だ?」
城は止まった。
約束は守られた。
代わりに、二人が照合鍵として差し出した夜だけが、きれいに消えていた。
コメント
1件
第11話、読み終えたよ…!!😭✨ 城を止める決断、サンタナが「止めたいけど奪わない」って言ったところ、めっちゃグッときた…! あの距離感、ちゃんとお互いを尊重し合ってる感じが尊すぎる。 最後、記憶が消える展開は予想外で切なすぎる!! 約束は守られたのに、その代償が“一緒に過ごした夜”だけ消えるって…美しすぎて泣く。二人の絆がこれからどうなるのか、続きが気になりすぎるよ〜!🌸💕