その日の夜、菊田の店にサーファー達が次々と集まって来た。
涼平が声を掛け、航太の事を知っている者たちを集めて追悼の会を開く事にした。
菊田は急遽店を貸し切りにしてくれた。
加納は妻の早紀と娘の更紗を連れて、佐野は綾を連れて来ていた。
他にも航太を知っているサーファー達が続々と集まって来た。
航太が交通事故でこの世を去っていたことを知り皆がその若すぎる死を悼んだ。
航太のサーフィンの腕前は高校生レベルをはるかに上回っていたと皆は口を揃えて言う。
オリンピックの種目にサーフィンが追加された今、航太がもし生きてサーフィンを続けていれば選手になれたのではないかと言う者もいるくらい、航太はサーフィンのセンスが抜群だった。
詩帆は集まってくれた人達一人一人にお礼を言って回った。
まさか航太が詩帆の兄だったとは誰も想像していなかったので事実を知って驚いている。
そして詩帆が涼平と付き合っているのを知ると、きっと航太が引き合わせたんだねと皆が感慨深げに言った。
集まった人は詩帆に当時の航太の様子を話してくれた。その中には佐野もいた。
佐野が一番最初に航太と知り会った。
佐野は辻堂をホームグラウンドにしていたがたまに七里ガ浜の知り合いのサーフショップに行く事があり、その時に航太と知り合った。
当時航太は高校の仲間たちとサーフィンをしていたが、ある時佐野にもっと上手くなるにはどうしたらいいかと相談してきた。そこで辻堂には上手い人がいっぱいいるから一度来てみたらと話すと早速次の週にやって来た。
「俺、航太に妹がいるって知った時妹が高校生になったら紹介してと言ったんっすよ。そうしたらダメです、絶対に妹は紹介しませんって言い張って。その時航太は本当に妹さんの事を大切に思っていたんだなーって思いましたー」
「当たり前だろう!」
「そりゃー誰だってお前に自分の妹は紹介しねーよ」
次々と皆が言ったので大爆笑が起きる。
すると佐野の隣にいた綾が急に機嫌を悪くして店の外に出て行ってしまった。
佐野が慌てて綾を追いかけて言ったので、またその場で笑いが起きた。
そんな和やかな雰囲気の中、航太の追悼の会は終わった。
加納の愛娘の更紗は加納の腕の中ですやすやと眠っていた。
久しぶりに早紀と会った詩帆は店の前で少し立ち話しをした。
「涼平さんと付き合ってたのね。二人はお似合いだなーってずっと思っていたからなんか嬉しいわ」
早紀はそう言って微笑むと続けた。
「お兄様が二人を引き合わせたんだわって私も思ったわ。今日海がエメラルドグリーンに染まったのも偶然とは思えないの。きっとお兄様からのメッセージなんじゃないかしら」
早紀の優しい言葉に思わず詩帆の目が潤む。
「私もそう思います。まさか兄がいなくなって十二年も経ってからこんな奇跡が起こるなんて本当に不思議で。そして今夜皆さんに追悼していただいてきっと兄もすごく喜んでいると思います」
詩帆の言葉に早紀は優しい微笑みを浮かべたまま頷いた。
詩帆は皆が帰る際一人一人に挨拶をした後、菊田夫妻にもお礼を言ってから涼平と店を出た。
外は冬のこの時期にしてはとても暖かく風も無風でとても穏やかな夜だった。
空を見上げると無数の星が煌めいている。
「もう一度海に行ってみようか?」
「うん」
詩帆は頷くと涼平の手を握る。
そして二人は手を繋いでゆっくりと海へ続く道を歩き始めた。
コメント
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菊田さんのお店で 急遽サーファー仲間で集まり、詩帆ちゃんの兄航太くんの追悼会.... サーフィンの才能に恵まれサーファー仲間達に可愛がられていた航太くん🌊🏄♂️☀️ 若くして 交通事故でこの世を去ってしまったのは残念でなりませんね.... きっと彼は 涼平さんに 妹詩帆ちゃんを託し、仲間達に挨拶をしに来たのでしょう🌊✨
この時期の航太さんの追悼…詩帆ちゃんのお兄さんとわかってなんですね✨佐野さんや涼平さんに可愛がられてた航太さん。でももっとサーフィン🏄を極めたかっただろうに気持ち半ばで断たれてしまった(´༎ຶོρ༎ຶོ`) でも詩帆ちゃんが涼平さんとお付き合いした事で航太さんも報われたね🙏 そして今から2人で夜の海🌊で…もしかしたら、プロポーズ⁉️はまだかな😅💞⁉️