テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
きょうふ
115
comi
778
#可愛い
トド村
37
私の膝の上でひとしきり温もりを分けてくれた気まぐれなマンチカンは、ふわぁっと小さくあくびをした後、私の膝から離れて、他のお客さんの元へとトコトコ歩いていってしまった。
膝の上に残ったかすかな温もりを見つめながら、私は繋いだままの小守の左手を少しだけ意識する。
「ねぇ、小守。……真実の愛って、なんだろうね?」
(あ? そんなの、好きな奴と好きな奴が結ばれることなんじゃねーの?)
ストローでメロンソーダをちゅーっと吸いながら、小守が不思議そうに首を傾げる。ボーダー柄のカットソーからのぞく鎖骨が、ストローを吸う動きに合わせてわずかに動く。
「私の両親ね、離婚したの。……音楽性の違いで」
(バンドみてーな離婚理由だな)
思わずツッコミを入れる小守に、私は少しだけ苦笑いを返す。
「あの人たちだって、最初のうちは愛し合ってたんだと思う。でも、離婚が決まる時は、嵐みたいに酷い大喧嘩をしてた」
「……私は、真実の愛なんて、本当はないんじゃないかって思うの。最初から存在しないものを探すなんて、やっぱり無理なんじゃないかな」
私のうつむく視線の先で、ベージュのスカートの裾が少しだけ揺れる。
小守は、んーっと天井を見上げた。紫のギザギザツインテールが、ソファの背もたれに当たって小さく弾む。
(地獄子はさ、真実の愛ってやつのハードルを無意識に上げすぎてんじゃねーの?)
「え……?」
(たとえばよー、愛し合ってるカップルのうちの一人が交通事故で死んだら、その瞬間そいつらの愛は綺麗さっぱり消えてなくなんなのか?)
「そんなこと……ないっ、と思う……」
(だろ? 真実の愛ってやつが、ずっと永遠に続かなきゃいけねぇルールなんてどこにもねーじゃん)
(お前の両親だって、最終的に離婚したのかもしれねーけどさ。だからって、二人が確かに愛し合って、お前がこの世界に生まれてきたことまで全否定しなくていいんじゃねぇか)
「……そうだね」
(別に真実の愛なんて、教科書に載ってるような特別で高尚なもんじゃねーよ。そこらへんに転がってるもんだとオレは思うぜ?)
( ……オレの場合はやっぱりママだな。ママが毎日血を飲ませてくれるおかげで、ただの空飛ぶマスコットだったオレは、こうして超絶かわいい美少女使い魔に進化できたんだからな。これぞ愛だろ、愛)
自己評価えげつないな、この子……。
でも、そのあまりにも堂々とした小守の言葉に、私の強張っていた肩の力がすうっと抜けていく。
そこらへんにある、真実の愛。
その言葉を聞いて、私はなぜか、今朝「ンンゴートゥヘルゥ」を嬉々として真似してきた、天国美の笑顔を思い出す。
私が天国美のことを思い浮かべたのと、ちょうど同じくらいのタイミングで、小守が不満げに天国美の話題を切り出した。
(だからオレさー、あのデカ乳ドッペルゲンガーのことはほんっと許せねぇんだよなぁ……。オレが一心に受けてきたママからの愛情を掠め取りやがって。……なーんでママは、あんなやつと付き合ってんだろーな、まったく!)
そっか……。
これまで小守が、何かと天国美に対して突っかかったり当たりが強かったりした理由が、ようやく腑に落ちた。
「天国美に楓子さんを取られて、ヤキモチ妬いてたんだ……」
(はぁ!? ちっげーよバカ!!別にそんなんじゃねーし!!)
繋いだ右手をブンブンと振り回しながら、小守が顔を真っ赤にして私に食ってかかってくる。厚底ブーツがソファの足にコツンと当たった。
……めちゃくちゃ分かりやすいな、コイツ。
(……さてと、猫も堪能したし、次行くか次!)
小守は照れ隠しにグラスのメロンソーダを一気に飲み干すと、私の手を引いて立ち上がる。
「次はどこに行くの?」
(そーだな。地獄子、お前漫画とか好き?)
「まあ、人並みには……」
(ならきっと楽しめるはずだぜ。昨日、ママにちゃーんと許可をもらったんだ)
不敵にしししと牙を見せて笑う小守の琥珀色の瞳が、いたずらっぽく輝く。
(ママのプライベートオフィス……別名『コレクションルーム』に行くぞ。ついてこい。)
そう言って、小守が私の手をしっかりと握り直す。
私たちは静かに店を後にし、楓子さんが所有するビルのコレクションルームへと向かった。
コメント
1件
「そこらへんに転がってるもんだ」って小守の価値観、めっちゃ刺さったわ。永遠じゃなくても確かにそこにあった愛って肯定する感じ、地獄子に届いてよかったな。最後に天国美へのヤキモチがバレて真っ赤になる小守もかわいすぎるし、コレクションルームのワクワク感で締める構成が上手すぎる🔥 次も楽しみ!