優羽はずっとスタイリストになる事を夢見ていた。
そのきっかけは、小学生の時に親族の結婚式に参列した事だった。
普段は地味な親戚のお姉さんが、ブライダルスタイリストの手によって美しい花嫁へと変身したのを見て
優羽は大きな衝撃を受けた。
親戚のお姉さんはまるで一瞬にしてシンデレラのように美しく変身したのだ。
優羽はその瞬間、将来は美しく変身させる仕事がしたい…そう思うようになった。
幸い母親が洋品店を営んでいたので、田舎に住んではいたが度々都会の流行に触れる機会があった。
優羽は高校生の頃からバイトに励み、そのバイト代で服やメイク用品を買い集めた。
そして雑誌に載っているメイクやファッションを独学で学ぶ。
本当は服飾関係の大学に進み専門知識を学びたかったが、
優羽が行きたかった大学は東京の私立大学だったので母には言えなかった。
母子家庭で苦労しながら二人の子供を育ててくれた母に対し、これ以上を望むのは無理だとわかっていたからだ。
高校卒業後、優羽は地元の大型スーパーへ就職し二年働いてお金を貯めた後東京へ上京した。
しかし優羽が目指していた夢への道は、その数年後にあっさりと閉ざされてしまう。
優羽が車の窓の外に目をやると、自然豊かな景色がゆっくりと流れて行く。
ここは自分が生まれ育った町、そしてここが今自分ががいるべき場所なのだ。
自分で選んだ道だから、今は叶わなかった夢に思いを馳せている場合ではない。
優羽はそう思いながら視線を前に戻す。
優羽が物思いに耽っている事を岳大は気づいていた。
夢破れて幼子を抱え、地元に舞い戻って来た優羽のくやしさは相当なものだろう。
しかし優羽は夢を諦めた代わりにとても素晴らしい宝物を手に入れた。
その宝物とは流星だ。
彼女は息子を産んだ事に対しては後悔をしていないように思えた。
優羽は自分の夢よりも、小さな命を大切に育む事を選んだのだ。
その決断はとても立派な事だと岳大は思った。
危険な山や偉大なる大自然に対峙していると、命の尊さを否が応でも感じざるを得ない。
岳大は、他のなにものにも代え難い『命を育む』事を選択した優羽に対し、尊敬の念を持っていた。
女一人で子供を育てるのはとても大変な事だ。その先には苦労以外の何もない。
しかしあえてその道を選び取った優羽を見ていると、女性の強さや母性が垣間見られ、
男である岳大には尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
だから、少しでも応援出来る事があれば応援してあげたいと思う。
そこで岳大は話題を優羽が働いていたデパートへと戻す。
岳大はそのデパートの催事場で写真展を開いた事があると優羽に話した。
それを聞いた優羽は驚く。
「その頃は私も働いていたのでデパートの中でもすれ違っているかもしれませんね」
岳大は写真展開催中に社員食堂で何度かお昼を食べたと言ったので、
「じゃあ食堂でもすれ違っているかも!」
優羽はそう言って笑った。
そんな懐かしい話をしていると、車はホームセンターへ到着した。
「何か買うものがあるなら一緒に。なければ、ちょっとここで待っていて下さい」
優羽は買うものは特に何もなかったので、車で待っていると告げる。
岳大は「わかりました」と言うと店の入口へと向かった。
しかし、急にくるりと踵を返して戻ってくると、優羽に聞いた。
「うーんと、そうだなぁ、優羽さんがもし部屋に何かを飾るとしたらナチュラル系ですか? それともモダン系ですか?」
「何かって、雑貨とかですか?」
「うん、まあそうかな」
優羽は、岳大がなぜそんな事を聞くのかわからなかったがとりあえず答えた。
「私は自然な感じが好きなのでナチュラル系でしょうか?」
その答えを聞いた岳大は、「ありがとう」と言ってホームセンターへ向かった。
優羽は不思議そうな顔のまま、岳大の後ろ姿を見送った。
五分ほどすると、買い物を終えた岳大が車へ戻って来た。
手には店で買った物を手にしていたが、袋に入っていたのでそれが何なのかは優羽にはわからなかった。
運転席に乗り込んだ岳大は、
「お待たせしました。じゃあ保育園に行きましょうか」
と言ったので、優羽はよろしくお願いしますと言った。
それから二人が乗った車は、流星が待つ保育園へ向かって走り始めた。
コメント
4件
岳大さんホント心が寛大と言うかきちんと優羽ちゃんの事1人の人間として見てくれてるよね。素敵💓💓💓
↓それやね💕この前撮った💫✨星の🤭 🩷 優羽チャンの表情をきちんと見てあげてて、さりげなく気遣う優しい岳大さん🥹メッチャ素敵✨
岳大さんは何かプレゼント?的な、なんか優羽ちゃんに、あげる… なんで質問したんだろう🤔 あ…写真立て?星の💫