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非常灯と毛布をまとめて運ぶ手が足りない。そう気づいた瞬間、ディアビレの脳裏に、あの騒がしい相棒のことが浮かんだ。
「ガラガラヘビ、使える」
彼女が言うより早く、ゲティがにやりとした。
数分後、ホテルの古い手荷物カートが倉庫から引っ張り出される。錆びた車輪は相変わらず遠慮なく音を立てた。ガラガラ、ガラガラ、と薄暗い廊下中へ響きわたる。
「静かに運べないのか、それは」
ダービーが呆れた声を出す。だが返ってきたのは、ゲティの肩をすくめる仕草だけだった。
「今日はうるさい方が都合いい」
その通りだった。視界の悪い廊下で、あの音はむしろ目印になる。ガラガラヘビが来る。なら灯りと毛布が来る。そう分かるだけで、人は少し落ち着く。
ディアビレとフレアはカートへ非常灯を積み、ラウールは放送室から走ってきて予備電池を押し込んだ。ベジラは子どもたちを壁際へまとめ、通り道を空ける。
ガラガラヘビは今夜だけ、古びた荷物運びではなく避難用の命綱だった。
廊下の角を曲がったところで、小さな男の子が目を丸くした。
「へび、きた!」
その一言で周りの子どもたちが少し笑う。泣き声の混じっていた空気が、ほんのわずかにほどけた。
ディアビレもつられて笑いそうになった時、背後からラウールの声が響いた。非常放送のマイク越しではなく、生身の声で、でも妙に通る。
「本日の英雄、ガラガラヘビ!」
暗い廊下に、くすくすという笑いが広がる。こんな状況でも笑ってしまう自分が悔しいのか、ベジラは鼻を鳴らしながらも口元を押さえた。
ガラガラヘビは誇らしげでもなんでもなく、ただ今日も騒がしく進む。けれどその不格好さが、逆にホテルの息をつないでいた。
誰かを安心させるのに、優雅さばかりが要るわけじゃない。今夜のこの場所は、そのことを全力で証明していた。
#恋愛
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