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教室の片隅。ダンボールと画用紙の山の中に、なぜかこの3人がいた。
「……なんで俺ら、装飾班?」
蓮司がはさみ片手に寝転がりながら言う。
「こっちが聞きたい」
遥はガムテの芯をカチカチ鳴らしながら無表情。
テープの切れ目が見つからず、ひたすらめくっている。
日下部は黙って模造紙を切っていた。直角に。きっちりと。
「なんかさー、文化祭ってさ、祭り感あるくせに、“思い出”とか“青春”とか期待されてるの、気持ち悪くね?」
蓮司の言葉に、遥がちょっとだけ口の端を動かす。
「……祭りって、“燃やす”って字、入ってるし」
「え、そっち? そっち行く?」
「べつに」
遥は手を止めずに、ガムテの粘着面をペタペタ貼って遊び始めた。
日下部はようやく口を開いた。
「……食券、作るの俺らだけでいいのか?」
「それな!」と蓮司。
「“お前らヒマそうだから任せた感”あるよな、教師の空気」
「俺、ヒマじゃないし」遥が低く呟く。
蓮司がニヤリと笑う。
「だよね~。ほら、心がね、忙しいもんね」
遥が手にしてたガムテを、蓮司の机の端にぴたりと貼りつけた。
「……お前の口に貼ってやろうか」
「やだー、接着系プレイ? ちょっと早いかなぁ、昼間だし」
蓮司はわざとらしく体を仰け反らせて笑う。
日下部は、無言で作業を続けていた。
ふと、遥の手元が止まる。
「……文化祭って、家族とか、見に来たりすんの?」
その一言に、一瞬、時間が止まる。
日下部は答えない。
蓮司は答えない代わりに、口の中でキャンディを転がし始めた。
「……見に来ないよな」
遥がぼそっと言う。
「来たとしても、何があんの、こんなとこ」
続けて吐き捨てるように言ったあと、
何事もなかったようにカッターを手に取った。
沈黙が落ちる。
蓮司が、ポケットからスマホを取り出して画面をいじりながら言う。
「じゃあ、当日だけサボる? 三人でどっか逃げよーぜ、山とか」
遥「……別にどこでもいい」
日下部「文化祭終わってからにしろよ」
「え~、不器用なのにマジメ~」蓮司がからかう。
でも日下部は、ふと遥の方を見て、
「……最後までやらないと、後味悪いだろ」
と、少しだけ声を落として言った。
遥は何も返さなかったけれど、そのままガムテをまたカチカチ鳴らし始めた。
3人の時間は、ちょっとだけぎこちなく、でもちゃんと進んでいた。
※祭りの中に燃やすって字は入っていません。遥の独特な感性です。
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