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次の週から、凪子は平穏な日々に包まれていた。


もう社内で良輔と顔を会わせる事もないし、同じフロアにはあのふしだらな絵里奈もいない。

凪子は久しぶりに晴れ晴れとした気持ちで仕事をしていた。


凪子が離婚に向けて動いているのをフロアの仲間達は知っていた。

凪子は隠すつもりもなかったし、その事について聞かれれば正直に話していた。

凪子があまりにもあっけらかんとしているので、徐々に誰もその事については触れなくなった。


若い社員のほとんどは、凪子に憧れを抱いている者が多い。

夫に散々な目にあわされても堂々と仕事に邁進している凪子を見て、その潔さに感心していた。

その前向きな姿を見せれば見せるほど、さらに凪子のファンは増えていった。


新ブランドは、既に店舗の改装工事が始まっていて、商品も工場へ発注をかけている。


そして、今凪子はあえて信也の事務所を訪れないようにしていた。

仕事で訪れる分にはそれほど気にしなくてもいいのかもしれないが、

良輔に言いがかりをつけられて二人の仲を疑われるのは嫌だったし、有名人の信也に迷惑がかかるような事があってはならない。

だから細心の注意を払っていた。


信也の事務所へ用がある時は、全てアシスタントの真野に任せていた。

凪子はそこまで徹底して離婚に向けての準備を整えている。


まあ事務所へ行かなくても、信也とはほぼ毎日電話で話しているので特に問題はなかった。

信也に頼まれていたウエディングドレスの件も、詳細を纏めて既にメールで送っている。



別居してからの一人暮らしは、本当に快適だった。


夜は全て自分の自由に使えるので、持ち帰った仕事の続きをしたり映画を観たり、

自分が食べたいものを作ってのんびりワインを楽しんだり。

疲れた時はスーパーで総菜を買って帰り手抜きをしたり…とにかく快適過ぎて笑いがこみ上げてくる。


朝も好きな時間に起きて朝風呂にもゆっくり入れるし、とにかく最高な毎日だ。


この日も凪子はワイン片手に持ち帰った仕事にのんびり取り組んでいた。

その時凪子のスマホが鳴った。紘一からの電話だった。


「もしもし、紘一さん?」

「凪ちゃん? 今大丈夫?」

「はい、大丈夫です。何か進展ありましたか?」

「うん…良輔さんから連絡があって、今度の土曜日事務所へ来てくれる事になったよ」

「そうですか…これで話しが進みますね」

「それがさぁ、彼は一つ条件を出して来たんだよ。凪ちゃんを事務所へ連れて来て欲しいって」

「え?」

「でね、直接会って話しが出来るなら離婚に応じてもいいと言ってる」

「本当ですか?」

「うん、ただ相手の言う事はあまり信用しない方がいいかもしれない。結局ごねて離婚届にサインをしないってパターンも想定出来るからね。だから嫌なら無理に来る必要はないから」


そこで凪子は考える。

一日でも早く離婚が出来るなら、凪子は良輔と直接対決をしてもいいと思っていた。

とにかく今のこの中途半端な状況からは一日も早く抜け出したい。


そこで凪子は決意を固める。


「わかりました。私も伺います」

「本当に大丈夫? 無理しなくていいんだよ?」

「大丈夫です。一日も早く決着をつけたいですから」


凪子はそう答えた。


「ちなみに向こうは弁護士をつけないそうだ。だから話は三人でする事になるから」

「わかりました」


凪子は良輔が弁護士をつけない理由がわかっていた。


要は金がないのだ。


凪子の記憶が確かなら、たしか高級外車のローンがあと10年は残っている。

それに元々貯金だって凪子より少ないはずだ。

最近は不倫相手との温泉旅行やホテル代等で散財していたのだから貯金もかなり減っているだろう。

それなのに今後は慰謝料の支払いもあるのだ。


だから弁護士代をけちったのだ。


(よくそんな状態で子供を作ろうなんて言えたもんだわ)


凪子は呆れ顔でそう思った。

金に計画性のない男は、人生設計においても計画性がない。


もしこの結婚が続いていたとしても、いつかはきっと破綻していたに違いない。

なぜなら二人の金銭感覚があまりにも違い過ぎるからだ。


もし貯金で慰謝料が払えなかったらどうするのだろうか?

高級外車を売るのだろうか?

それとも実家に泣きつく?


(まあせいぜい泣きつけばいいわ。こっちはきちんと慰謝料さえ払って貰えればそれでいいんだから)


凪子は紘一との電話を終えると、『なつみんブログ』を開いた。


そして『離婚交渉にあたっての注意事項』という項目を開いた。

そこに書かれていたのはこんな内容だった。


【慰謝料は遠慮なく満額貰いましょう。あなたにお子さんがいてもいなくても、最大限引き出せる限りの額を受け取るようにしましょう。それがあなたの為でもありご主人の為でもあるのです。あなたは今回の事で相当大きな苦痛を受けたはずです。信頼していた夫の不貞を知った日から今日まで、あなたは相当なストレスを受け続けてきました。そして眠れない日々も続いたでしょう。そんな精神的、肉体的苦痛への対価はきちんと支払ってもらいましょう。それは妻であるあなたの当然の権利です。そしてそうする事は結果的にあなたのご主人の為でもあるのです。ご主人が二度と同じ過ちを繰り返さない為にも、この機会にきっちりと責任を取らせましょう。そうしないとご主人の浮気癖はいつまでたっても治りません。更なる被害者を増やさない為にも、ここはきっちりとけじめをつけさせましょう】


その項目を読み終えた凪子は、少し気持ちが軽くなる。


(きっちりけじめをつけさせる事は、結局良輔の為でもあるのよ…)


凪子はそう自分に言い聞かせると、再び仕事へ集中し始めた。

マウントリベンジ【ショートドラマ原作】

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