その後カットを終えた華子は鏡の中の自分から目が離せなかった。
(これが私…….?)
そこに映っていたのは今までの勝ち気でプライドの高い華子の姿ではなく清楚で優しい雰囲気の華子の姿だった。
今回華子は沙織のアドバイスによりワンレングスで長かった前髪を一部下ろして斜めにカットしてもらった。
前髪を下ろしただけで華子は一気に若返り柔らかな優しいイメージへと変貌した。
「どう? 私はすごく似合ってるって思うんだけれど」
「今までこういう前髪にはした事がなかったんだけれどすごくいいかも」
「ワンレンも似合っていたけれど大人っぽくなり過ぎなイメージだったでしょう? 私は断然こっちの方が若々しくて清楚なイメージで似合ってるって思うわ」
(えっ? 今清楚って言った? 私、全然清楚なんかじゃないのに)
華子は一瞬戸惑ったが褒められると嬉しい。
「ありがとうございます。とっても気に入りました」
この時華子は沙織の技術力の高さを認識した。
カット一つでここまで素敵にしてもられるとは思っていなかったので嬉しい。
今後もこの美容室へ通おうと心に決めた。
沙織は後片付けを終えると『close』の看板を表に出しに行った。
「うちはね、昼休みをちゃんと取るスタイルなの」
沙織はそう説明すると華子を二階へ案内した。
階段を上がりながら沙織が説明する。
「リフォームの時にキッチンは二階へ移動させたの。だから一階にあるのは店とバスルームだけなの」
二階の一番広い部屋はカウンターキッチンのあるリビングダイニングだった。
キッチンはリフォームの際に一新したのだろう。真っ白なキッチンはまだ新しくて清潔感に溢れていた。
カウンターにくっつけるように四人掛けのテーブルセットが置いてある。
そしてリビングの窓辺にはソファーとテレビが置かれていた。
室内の家具は全てポップな色調の家具で揃えられ一階の店舗とはがらりと雰囲気が違った。
一階には一階の良さが、そして二階には二階の良さがあるなぁと華子は思う。
古い家なのに室内がこんなにも素敵なので華子はかなり刺激を受けた。華子は陸のマンションのインテリアも色々工夫してみようと思った。
華子と沙織がインテリア談議を交わしていると美羽が声をかける。
「二人ともパスタが出来たから椅子に座って」
美羽はそう言って出来立てのパスタをテーブルに持って来た。その瞬間美味しそうな匂いた立ち込める。
パスタの具材はホタテとアスパラだった。
「うわぁ、美味しそう!」
「ありがとう。でもね、材料は全て店で余ったやつだから残り物なのよー」
華子は残り物でこんなに美味しそうなパスタをササッと作ってしまう美羽を見て感心してしまう。
やはり彼女はプロなのだ。
美羽はその他にもササッと作ったサラダやチーズを載せたクラッカー、それにナッツが入った小皿を持ってくる。
それを見て沙織が言った。
「ワイン開けよっか?」
「開けちゃえー」
美羽が嬉しそうに叫んだ。
「あ、でも私はまだ午後もお客さんが来るから一杯だけだよー」
沙織はそう言って笑うと華子に聞いた。
「華子さんは飲める?」
「はい」
「良かった! 女子会といったらワインでしょー」
沙織はそう言うとグラスにワインを注いだ。
それから三人は乾杯をした後美羽が作った美味しそうなパスタを食べ始めた。
「美味しいー! やっぱり美羽さんのイタリアンは最高だわ」
「ありがとう。そう言って貰えて嬉しいわ」
「美羽は料理のセンスがあるのよねぇ。彼女の料理って全然飽きないの。おまけに新作もどんどん出て来るし!」
そこからは美羽がイタリアで修行をしていた時の話で盛り上がる。
「えっ? 美羽さんイタリア人と付き合ってたの?」
「そう、それも超イケメンね。ほら美羽っ、華子さんに写真を見せてあげなさいよ」
「えーっ、写真あったかなぁ?」
「何言ってんの、まだスマホに大事に保存してあるじゃない」
「なんであんたが知ってんのよ」
そこで華子がフフッと笑う。二人の絶妙なやり取りが楽しい。
そして美羽は一昨年まで付き合っていたというイタリア人男性フランチェスコの写真を見せてくれた。
「うわぁ超イケメン!」
「でももう別れちゃったからねー」
と美羽は淋しそうに笑った。
「えっ? 美羽さんもしかしてまだ彼の事?」
「うん、好きよ! でも距離が離れているからどうにもならないわ」
「そうだよねー、本当だったらまだ向こういて彼と結婚していたかもしれないもんねぇ」
「えっ? そうなの?」
華子が驚いて聞くと美羽が言った。
「うん。うちの父が去年癌で亡くなったの。父が癌になったのを知って日本に帰って来たんだ。父親が亡くなったんだからイタリアに帰ればいいって思うでしょう? でもね今度は母一人になって弱っちゃってて、だから戻れないんだ」
「お母さんはまだ若いんだからあたしはイタリアに戻れって言ったんだけれどね、この子一人っ子だから責任感じちゃってさ。優し過ぎるのよ、あんたは」
沙織が美羽に言った。
「そうだったの。今は? 今は彼と連絡取っているの?」
「うん、たまにネットで話してるわ。でもね、向こうには新しいガールフレンドが出来たみたい、それもかなり若い子!」
「若い子だと勝ち目ないーってこの子リアクションを起こさないのよ! もうさ、日本に来て一緒にレストランをやりましょうくらい言ってこっちに呼べばいいのにね」
「相手の方もシェフなの?」
「そう、同じ店で働いていたから」
美羽はそう答えた。
華子は女友達との恋バナというやつをした事がなかったので、こういう時なんとアドバイスをしたらいいのかわからない。
美羽はまだ真剣に相手の事を思っている、その気持ちが痛いほど分かった。なぜなら重森と別れた直後の華子に似ていたからだ。
その時美羽が華子に聞いた。
「華子さんの彼はどんな人?」
「あっ、私も気になるぅー、だって凄く素敵な指輪をしているんだもの」
「どんなって…うーん、なんて言ったらいいんだろう?」
「じゃあね、歳は?」
「44よ」
「うわー大人の男性だー。どこで知り合ったの?」
華子はドキッとしたが無難な答えをする。
「彼の店に飲みに行って知り合ったの」
それを聞いた二人は顔を見合わせ同時に言った。
「「お店の経営者なのね!」」
「うん、まあそんな感じ」
「へぇー何のお店をやっているの?」
「カフェとかバーとか色々?」
「うわー店長とかじゃなくて実業家っぽいんだ。素敵ねー、歳が離れているから優しいんじゃない?」
その質問を聞いて華子は改めて考える。確かに陸は優しい。華子にはうんと優しかった。
「ええ、優しいと思うわ」
「「キャーッ、ご馳走様ーっ!」」
そこからは女子三人での恋バナ大会が始まる。
沙織は去年10年間付き合っていた恋人と別れたばかりだった。そして今は二歳年下の同じ美容師の男性と付き合っていると言った。
そこからは年下男性の話で盛り上がる。
(これが恋バナっていうやつなのね。女性同士で話すのって楽しいー)
華子は今日初めて女友達の良さを知った。そして『恋バナ』の楽しさを知る。
なぜ今までこんな楽しい事を避けてきたのだろうと華子は自分を恨んだ。
食後もコーヒーを飲みながら恋バナは続いた。そしてあっという間に2時になっていた。
「あっ、もう時間だわ。お店を開けなくちゃ」
沙織はそう言って食器を片付け始める。華子も一緒に皿をカウンターへ運んだ。
「大丈夫よ。あとは食洗機に突っ込むだけだから」
「すみません、じゃあお願いします。今日はとっても美味しいランチをご馳走様でした。つい長居してしまって」
「私達もとっても楽しかったわ。また是非集まりましょう」
「ほんと華子さんとのお喋り楽しかったわ。新しい素敵な友達が出来て私達も嬉しいわ、ねっ沙織っ!」
「うん。このご縁は大切にしなくちゃね」
(今『友達』って言ってくれた?)
華子は思わず目頭がジーンと熱くなる。
「私もお二人とお友達になれて嬉しいです。これからもよろしくお願いします」
華子が丁寧にお辞儀をすると、
「やだー華子さんかしこまり過ぎーもっと気楽にー」
美羽と沙織は楽しそうに笑った。
それから華子は二人と連絡先を交換して美容院を後にした。
この作品はいかがでしたか?
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コメント
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女子会、最高ですね~💖 美味しいイタリアン&ワインをいただきながら🇮🇹🍝🥂 恋バナで盛り上がる女子三人♡(*-ω-)/▼(^_^)/▼☆▼\(^_^) 前髪カットで素敵にイメージチェンジした華子チャン💇✨✨ 陸さんは 清楚で優しい雰囲気の華子チャンに ますます夢中.に...⁉️♥️♥️♥️🤭
前髪カットも少しのことで大きく変わるから華子が驚いたくらいだから、陸さんはもっと驚きそう〜🤭💞 素敵な恋バナがいっぱい話せる、美容師の沙織さんとシェフの美羽さん✨ 2人とも素敵な恋をしながらも別れがあったりまた別の人とご縁があったりと、三者三様です!! 腹を割った話ができるのも友達だからこそ❣️ 華子もフランクにお二人と仲良く楽しく過ごせて本当に良かったね😊👍🎉