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華子の初恋

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華子の初恋

第62話 - 第62話

77

2024年08月15日

#恋愛

#大人の恋愛

#大人ロマンス

#第3回テノコン

#ハッピーエンド

#純愛

瑠璃マリコ

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77

瑠璃マリコ

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美容室を後にした華子はなんだかフワフワした気持ちだった。

同世代の女性といて気を使う必要もなくマウントを取る事もなく、ただ気楽にお喋りを楽しんだのは今日が初めてだった。

あまりにも楽し過ぎて時間が経つのがあっという間だった。

『恋バナ』がこんなにも楽しいなんて知らなかった。

そして夢に向かって頑張っている人達の話を聞くことがこんなにも刺激になるとも思っていなかった。

華子は今身体中からパワーが溢れて来るのを感じていた。

この嬉しさを今すぐ誰かに伝えたい。今すぐ誰かと共有したい。華子は強くそう思う。

その時思い浮かんだ人物はただ一人だった。

（陸…）

華子はすぐにバッグからスマホを取り出す。その時着信音を消していた事を思い出す。

それと同時に陸からメッセージが届いている事に気付いた。

華子はすぐにメッセージを見た。

【美容院はどうだった？　気に入りそう？】

途端に華子の表情が笑顔に変わる。

メッセージを返すのももどかしい。今、華子は陸の声が聞きたかった。

そこですぐに電話をかける。

陸はすぐに電話に出てくれた。

「どうした？　今終わったのか？　遅かったな……」

その低く落ち着いた声を聞いただけで華子は安心感に包まれる。

「うん、陸、あのね……」

そこから華子のお喋りは止まらなかった。

電柱の陰に立ったまま華子は陸に今日あった出来事を嬉しそうに報告する。

時折電話口に陸の「うん、うん」という優しい声が漏れてくる。

春の穏やかな日差しを浴びながら華子の電話はそれからしばらくの間続いた。

漸く陸との電話を終えた華子は思わず鼻歌を口ずさむ。

陸は華子の他愛のない話に長い時間付き合ってくれた。それだけでなんだか自分が受け入れられているような気がして心がウキウキする。

華子は気分の良いまま少し商店街を歩いてみる事にした。ここへ越して来てからゆっくりとこの辺りを歩いた事がない。

高級住宅街が連なる街にはセンスの良い雑貨店や美味しいパン屋、スイーツの店などがいくつもあった。

ショーウィンドーを見ながら歩いていると気になった店があったので華子は入ってみる。その店は雑貨店だった。

上品でエレガントなキッチン雑貨やインテリア雑貨が店内に溢れている。

店内では上品なマダム達が商品を見ていた。華子もその中に入り素敵な品を一つ一つ見ていった。

華子は先ほどの沙織の家を思い出し、自分がどんなイメージのインテリアにしたいかを思い浮かべる。

その時頭の中に黄色が思い浮かんだ。

そして目の前には偶然レモン柄の鍋掴みとエプロンが置いてある。

（かわいい）

華子は鍋掴みを手に取ってみた。陸のマンションの真っ白なキッチンにこれを置けばアクセントになる。

そう思った華子は鍋掴みとエプロンを購入する事にした。

その後黄色いレモン型の可愛いキッチンタイマーも見つけたのでそれも買う事にした。

雑貨店で満足のいく買い物を終えた華子はスーパーへ寄ってから家へ戻った。

買い物をした食料品を冷蔵庫へしまうと雑貨店で買った物も袋から出す。

そして値札を外した後鍋掴みは壁のフックへ、キッチンタイマーはカウンターの上に置いた。

それだけで無機質だった真っ白なキッチンにあたたかみが増した。

（可愛い！）

華子はご機嫌な笑顔を浮かべるとコーヒーを一杯淹れる。

そしてコーヒーを飲みながらスマホにイタリアの地図を表示させ美羽が住んでいたという地名を探す。

華子は美羽がどんな街で暮らしていたのかを見てみたかった。

「へぇ…素敵な街。高校を卒業してたった一人でこの街に行くなんてすごい行動力だわ」

華子は感心したように呟くと、急にハッとしてまた検索をかけた、

【保育士　資格　通信教育】

華子が検索結果を見ると様々な学校の通信教育が表示されている。華子はそれを一つ一つ見ていった。

費用は思っていたほど高くはない。順調に勉強が進めば8ヶ月ほどで資格が取れるようだ。

（思ったよりもハードルが低いわ。いくつか資料請求をしてみようっと）

華子は早速資料を取り寄せる事にした。

ついこの間まで無気力に、そして自暴自棄に生きていた華子はもうここにはいない。

今の華子はやる気に満ちていた。

それは今日友達になった美羽と沙織の影響もあるかもしれないがそれだけではない。

（生きるって結構楽しいかも）

華子はフフッと笑ってもう一口コーヒーを飲むとゆっくりと窓の外へ目を向けた。

そして優しい笑みを浮かべながら暮れなずむ夕暮れの街を静かに見つめた。