ドアを開けるとカランコロンというベルの音が鳴り響いた。
入口を入るとすぐにフロントがあった。
フロントの横にあるドアの向こうには、先程駐車場から見えたカフェがあるようだ。
フロントは吹き抜けになっており、左側には三人掛けのソファーが三つとテーブル、
そしてその脇には観光案内のチラシ等を置いた棚や貸し出しの為と思われる望遠鏡や双眼鏡が置いてある。
フロントの隅には薪ストーブもあった。
そして小さな土産物コーナーもある。
そこでは、立山名物の食品類や雷鳥のぬいぐるみ等が販売されていた。
優羽は、意を決してフロントのカウンターまで進むと、大声で叫んだ。
「ごめんください。先ほどお電話した者ですが」
すると奥から返事が聞こえてきた。
「はーい!」
それは高齢の女性の声だった。
おそらく先程電話口に出た男性の妻だろう。
姿を現した女性は、歳の頃は60歳前後。
白髪交じりの髪を上品にアップにした、とても素敵な女性だった。
「あの、先程求人のチラシを見てお電話をした森村と申します」
優羽は女性に向かって丁寧にお辞儀をした。
「まあまあ、遠いところまでよくいらっしゃいました。どうぞ、そちらのソファーに座ってくださいな。
今主人が参りますから」
女性は笑顔でそう言うと、優羽をソファーへ案内してくれた。
「こんな若いお嬢さんがうちの求人に目を留めて下さったなんて、嬉しいわー」
女性は嬉しそうにニコニコしている。
その時、奥から男性が近づいて来た。
「よくいらっしゃいました! 遠い所をありがとうございます」
男性は60代半ばくらいの素敵な紳士だった。
白髪交じりの髪に上品な口髭を生やしている。おそらくこの男性がこの山荘のオーナーなのだろう。
優羽は慌てて立ち上がると自己紹介をした。
「森村と申します。よろしくお願い致します」
すると男性は目を細めながら優しく言った。
「まあまあ、堅苦しい事はなしで」
男性は優羽に座って下さいと言う。
その時優羽は、この夫婦の人柄に触れ是非ここで働きたいと思っていた。
まだ仕事内容や条件等について一切何も話し合っていないのに、なぜかここに身を置きたいと思ってしまう。
「私はこの山荘のオーナーの山岸と申します。こちらは妻の紗子です。この山荘は、他にアルバイトで通って来る人が何名かお
りますが、住み込みでお願いしていた方が急に辞めてしまったので今回募集をかけたんですよ。
私どもが必要としているのは住み込みでお願いできる方なのですが、その点は大丈夫でしょうか?」
山岸は優羽に聞いた。
「もちろん大丈夫です。ただ私はシングルマザーで子供が一人おります。
ちょうどこの近くの保育園への入園が決まったばかりで…それでも大丈夫でしょうか?」
優羽はドキドキしながら伝える。
もしかしたら子供が小さすぎて駄目だと断られる可能性もある。
しかし山岸は問題ないといった表情で優羽に告げる。
「それは問題ないですよ。募集にもそう書いてあったでしょう? 小学校もね、割と近いんですよ。送迎にはうちの車を使っ
てもらって構いませんから」
すると今度は妻の紗子が言った。
「お子さんはおいくつなの?」
「4歳の男の子です」
「まぁ、それじゃあ今が一番かわいい盛りねぇ」
紗子が微笑む。
そのあまりにも好意的な対応に、優羽は感動すら覚えていた。
今までの就職活動では、子連れのシングルマザーだと告げるとほとんどの会社が嫌な顔をした。
露骨に嫌な顔をされなくても、面接前にやんわりと断ってくる会社がほとんどだった。
しかしここのオーナーは優羽がシングルマザーである事など全然気にしていない。
いや、むしろ大歓迎と言った雰囲気だったので優羽はかなり驚いていた。
そこで優羽は慌ててバッグから履歴書を取り出すと、オーナーの山岸に渡した。
山岸はその履歴書に目を通しながら優羽に聞いた。
「以前は東京におられたのですね。こちらに来たのは?」
「実家が信濃大町の駅の近くなんです。そこには母と兄が住んでおります」
優羽は正直に答えた。
すると山岸は、元々はこちらがご出身なのですねと嬉しそうに言ったので優羽は頷く。
「で、いつから来ていただけますか?」
山岸の言葉に優羽は驚く。
「あの……私でもよろしいのでしょうか?」
「もちろん。いいから聞いているのですよ」
山岸は微笑みながら言った。
その言葉に優羽は思わず涙が出そうになった。
こんなに優しい人達に雇ってもらえるのかと信じられない気持ちでいっぱいだった。
そしてすぐに答えた。
「ありがとうございます。いつからでも大丈夫です。よろしくお願い致します」
優羽は元気よく立ち上がると、二人に向かって深々と頭を下げる。
すると山岸も立ち上がり、
「優羽さん、これからよろしくお願いしますよ」
と言って手を差し出した。
優羽は感無量の気持ちで握手を交わした。
山岸の大きな手は、優羽の今までの苦労をすっぽりと包み込んでしまうほどの優しさに満ち溢れていた。
その時妻の紗子が言う。
「優羽さんの『ゆう』って、優しい羽って書くのね。素敵なお名前ね」
そして、
「これからは優羽ちゃんって呼ばせてもらうわ」
と言った。
「僕もそう呼ばせてもらうかな。私達には子供がいないので、まるで娘が出来たみたいで嬉しいなぁ」
「ほんとそうですねぇ」
山岸夫妻はそう言って笑顔で見つめ合っていた。
コメント
4件
山荘のご夫婦が温かい心で迎えてくれ良かった。流星くんも保育園決まりそう?
うるうるうる🥹🥹🥹✨優しいご夫婦に温かく迎えてもらえて良かったねー😭🍀🍀🍀優羽チャンも流星くんも自然がいっぱいの場所で素敵な方々との新しい生活🥹わくわくだね(*´艸`*)🩷
山岸ご夫妻も優羽ちゃんとの出会いにビビビっと感じるものがあったんでしょうね✨ 娘ができたみたいって、流星くんの事も実の孫のように接してくれそう😊 これから始まる新しい生活、どんなことが待っているのか…ゎ‹ゎ‹(ू•ω•ू❁)ゎ‹ゎ‹です!