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そして敦也と友里の結婚式から三ヶ月が過ぎた。


クリスマスイブのこの日は、拓と真子の結婚式だった。

真子は海沿いのホテルの控室にいた。

ちょうどヘアメイクを終えてウエディングドレスに着替えたところだった。


「じゃあ真子、お母さん達は親戚にご挨拶をしてくるから、しっかり頑張ってね」

「うん、ありがとう。じゃあお父さん後でね」

「ああ」


父の保と母の英子は控室を後にした。

その後すぐにノック音が響いて拓が入って来た。


拓はシルバーのタキシードを見事に着こなしている。

その姿は真子が見てもうっとりしてしまうほど素敵だった。


「真子……マジヤバい綺麗過ぎる…俺惚れ直しちゃうよ」


拓は感無量と言った感じで真子のウエディングドレス姿に見惚れていた。


「拓だって超カッコイイよ。そのまま白い馬に乗って迎えに来て欲しいくらい」

「じゃあ今から乗馬クラブに行っておウマさんを連れて来るか?」

「フフッ、馬に乗れないくせに」

「いやー、頑張ればぶっつけ本番でいけるだろう?」


そこで真子がクスクスと笑う。


「そう言えば、今瑠璃子さん達に挨拶してきたよ。今日は四人で同じホテルに泊まって明日は都内を巡るバスツアーに行くんだってさ。瑠璃子さんと進一さんは東京出身なのに…面白いよな」

「秋子さんがバスツアーで東京を巡りたいって言い出したのよ。だからじゃない?」

「そうなんだ? まあ結婚式のついでに楽しんでくれるのはいいけどね」


その時ノックの音が響いたので拓がドアへ向かう。

ドアを開けると、そこには美桜と智彦が笑顔で立っていた。


「遠い所をわざわざありがとうございます」


拓が二人に向かって挨拶をすると、


「ご招待ありがとうございます。本日はご結婚おめでとうございます」


智彦も拓に向かって挨拶をする。

その時、部屋に一歩入った美桜は真子を見て目を潤ませて言った。


「真子ーすごく綺麗! すごく素敵! おめでとうー!」


美桜はゆっくりと真子に近づくと、二人は手を取り合い微笑んだ。


「美桜、深谷君、今日は来てくれてありがとう」

「ううん、私、今日のこの日をすっごく楽しみにしていたんだよ」


そこで拓が椅子を持って来て言った。


「美桜ちゃん座って下さい」

「ありがとうございます」


美桜はお礼を言うと、どっこいしょと椅子に座った。


美桜のお腹はふっくらしていた。美桜は今妊娠五ヶ月だった。


あの後智彦と順調に付き合い始めた美桜は、あっという間に妊娠した。

妊娠がわかると二人はすぐに入籍した。

結婚式は、子供が生まれた後に考えているらしい。


急な妊娠により、体験型ミュージアムのイベントに美桜は参加できない可能性が出てきた。

その為、急遽二人の大学の後輩を助っ人に呼ぶ事にした。

それ以外にも、秋子と瑠璃子がイベントを手伝ってくれる事になった。


美桜の羊農家での修業はあっけなく終焉を迎える。

美桜はいつかまたリベンジすると意気込んでいるが、それよりも今は生まれて来る赤ちゃんの方に全ての興味を持っていかれているようだ。

智也も我が子の誕生を心待ちにしている。


四人はしばらく談笑をした後、美桜と智彦は先にチャペルへ移動する事にした。


「じゃあ真子、しっかりね! 拓さんも頑張って!」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


美桜と智彦は笑顔で控室を後にした。


二人が部屋を出て行ってすぐに拓がハッとして真子に言った。


「そういえば、藍染のコンテストの結果ってそろそろじゃないのか?」

「あ、忘れてた!」


真子は焦ってスマホを取り出すと、緊張した面持ちでコンテストのページを開く。

既に結果は発表されているようだ。


「拓!」

「どうした?」

「準…準グランプリだって」

「マジか? 凄いじゃないか真子! えっ? 狙っていたのは新人賞じゃなかったのか?」

「うん…そうだよ…でもいきなり準グランプリだよ!」


真子はそこで泣き始める。


「凄いよ真子! おめでとう! 頑張った甲斐があったな!」

「うん…拓嬉しい…私これからももっと頑張る」

「ああ。真子はこれからも頑張って作品を作り続ければいいさ。ただし俺の傍でな!」


拓は微笑みながら言うと、頷いている真子の涙をハンカチでそっと拭った。


その時ホテルのスタッフが二人に笑顔で声をかける。


「受賞おめでとうございます。しかしそろそろお時間が迫っておりますので、最後にもう一度メイク直しをいたしましょうか?」


その声に二人は目を見合わせてフフッと笑った。


真子がメイク直しを始めた時、男性のスタッフが拓を迎えに来た。


「それじゃあ俺は先に行ってるからな」


そこで二人の視線が絡み合う。


「うん、じゃあ後でね」


真子がニッコリ微笑むと、拓は控室を後にした。



その後スタッフに案内されてチャペルへ向かった真子は、チャペルのドアの前に立っている父の姿を見つける。

真子が傍へ行くと、父の保は少し緊張した面持ちで言った。


「父さん緊張して右手と右足が一緒に出そうだよ」


保の言葉に思わず真子はクスッと笑う。そして父親を見つめながら言った。


「お父さん…小さい頃から病弱の私をずっと守ってきてくれてありがとう。私、拓と幸せになるから…だからもう安心してね」


真子はそう言ってから少し照れた様子で視線を逸らした。

娘から思いがけない言葉もらった保は、目頭がジーンと熱くなる。

しかし保は必死に涙をこらえながら言った。


「お前は生まれた時から私の自慢の娘だ。幸せになるんだぞ」

「はい…」


そこでドアに手をかけていたスタッフが二人に告げる。


「それではお二人揃って一礼をしてから前へお進み下さい」


その瞬間ドアがバーンと開いた。


チャペルの中には、笑顔の人々が溢れていた。

美しく飾られたバージンロードの先には、拓が微笑んで立っている。

真子は拓の視線を捉えると、嬉しそうに微笑み返す。


そして真子と父・保は一礼をしてからバージンロードを歩み始めた。



(もう離さない…もう二度とあなたの手を離したりなんかしない…)



真子は心の中で呟きながら一心に拓を見つめる。


その時拓は、真子がゆっくりとこちらへ向かって来るのを見つめていた。

拓の胸は感動で高鳴り、喜びに震えていた。


あの時失ってしまったかけがえのない愛しい人が、今自分の元へと近づいて来る。




君を見た瞬間、俺は恋に落ちた…


今までに感じた事のない感情が、

君に出逢った瞬間一気に溢れてきたんだ…


消えそうなほど儚げな君を見て、

俺は一生君の傍にいたいと願う…


あの頃描いた『エスキース』は、

ゴツゴツと粗削りでなんとも心許なく、

真実の姿を表してはいなかったのかもしれない…


でも、もう二度と同じ過ちは繰り返さない…


俺は二度と君を離さないと誓うよ…




真っ直ぐに差し出されたその温かな手を、真子はしっかりと掴んだ。

掴んだ瞬間、拓がギュッと握り返す。


それから二人は静かに祭壇の前へと進んで行った。


<了>


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