テラーノベル
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これは夢なのか……
黒い水に沈んでいく感覚。
身体の境界さえ曖昧になり、ラッセルはどこまでも深く漂っていた。
幾度も、あの男の姿が浮かび上がる。
リヴァン……
気づけば、何度も太刀を振るっていた。
だが刃は空を裂くだけで、手応えは何も残らない。
沈む怒りと、滲む哀しみが混じり合い、声なき問いが胸を貫いた。
リヴァンの声が闇を裂く。
「この国が私をこうしたのだ。正義を語る軍隊が、どれだけの命を踏みにじってきた?」
「お前たちイーサム王国民が、私という“悪魔”を創り上げたのだ」
「戦火で両親を失い、未来を断たれた苦しみ……お前に分かるまい」
「私は“神の領域”に至った。この世界に天罰を下すために、生かされたのだ」
「公僕として首相の仮面をかぶってきたが、イーサムの幸福など一度も望んだことはない」
「私は赤黒い目の養分を集めている。幸福を奈落へ叩き落とすことこそ、私の悦びだ」
「娯楽に耽り、平和ボケした民よ。笑え、踊れ! そして、愚かに沈め。無関心であればあるほど、私は笑い続けられるのだ!」
嘲笑が、果てしない闇にこだました。
ラッセルは叫びたくても喉が動かない。
その言葉は剣のように胸を突き刺し、
返ってくるのは乾いた嗤いだけだった。
「……やめろ。お前はそんな男じゃなかった。スメラも、カーンも、俺も、同じ孤児だった。「争いのない国をつくろう」 と誓った夜を、忘れたのか。……もし、憎しみが赤黒い力に縛られているのなら、俺の剣で解放するしかない。だが、それでも……お前を討ちたくなどない」
リヴァンの高笑いが再び闇を満たす。
「君たちが正義を演じれば演じるほど、私は最強になる……フハハハハ!」
ラッセルは拳を握りしめ、暗闇の天を仰ぐ。
私は、リヴァンの“強い意思”に敗れたのか。
なぜ神はイーサムを護ろうとした私を生かさなかったのか。
なぜリヴァンに味方したのか。
正義が悪に屈するなど、理不尽ではないか……!
祈り続けても、願いとは裏腹に試練ばかりが与えられる。
だが、もしかすると。この現実は、自分自身の影なのかもしれない。
心の奥に潜む怒りや恐れが、外の世界を呼び寄せているのだとしたら……。
「神よ……私に何を問うているのだ」
力尽きかける意識の中で、ラッセルは静かに願った。
もし、もう一度生まれ変われるなら。
リヴァンの悲しみさえも解き放つ、憎しみではなく、救いの力を。
再び、静寂な闇が彼を包み込む。
そのときだった。
闇の底に、一粒だけ光が落ちてきた気がした。
遠くから、懐かしい声が呼びかけてきた。
#恋愛
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桜城
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#ファンタジー
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「ラッセル、……ラッセル、聞こえる? お願い、目を開けて!」
それはスメラの声だった。
続いて、力強い声が重なる。
「しっかりしろ、ラッセル! ここで諦めるな!」
カーンの声。
光が闇を押し返し、温かな気配がラッセルの頬に触れた。
(これは……夢ではないのか……私は、生きているのか……?)
ゆっくりと、ラッセルは瞼を開いた。
ぼんやりとした視界の中に、スメラの顔が浮かぶ。
その傍らには、警戒を緩めぬまま立つカーンの姿があった。
「……スメラ……カーン……」
「ラッセル!」
「……間に合ってよかった」
スメラはその声を震わせながら、ラッセルの手を包み込んだ。
「あなたを絶対に助けると、誓ったの」
その温もりに、ラッセルの胸奥で何かがほどける。
(生きている……俺は。スメラも、カーンも……)
込み上げる思いを抑えきれず、彼はそっと手を握り返した。
「スメラ……俺は、お前が生きていると信じていた。こうして再び逢えるなんて……神が願いを届けてくれたのだな。よく……生き抜いてくれた」
微かな震えを帯びた声に、スメラは視線を伏せる。
胸の奥にずっと閉じ込めていた不安が、涙とともに溶け出しそうだった。
「あなたの意識が戻ってよかった。ラッセル。私が支えられたのは……あなたが私を信じてくれていたから」
それは弱音でも慰めでもない。彼女がこれまで背負ってきた孤独と使命、そのすべてを裏打ちする“誓い”の告白だった。ラッセルの頬を熱いものが伝う。
カーンが一歩前に進み静かに頷いた。
「ラッセル、まだ戦える。俺たちは、再び揃ったぞ」
三人のあいだに、かつてと同じ風が流れる。
スメラは、涙を拭ってゆっくりと立ち上がった。
「休んでいてね。……夕食の準備をするわ」
スメラは安堵と涙をにじませ微笑んだ。
背を向ける彼女の肩はなお小さく震えていた。
それでも、なお、強くあろうとしている。
ラッセルはその背中を見送りながら、胸の奥で強く誓った。
(今度こそ、スメラを守り抜く。そして……)
周囲は崩落した岩とむき出しの配管が湿気を孕んでうっすらと白く煙っていた。遠くから滝の音が低くこだまし、それが川となって旧坑道を静かに流れている。いつまた崩れるか分からない薄暗い空間。だがその一角には、小さな炎が揺れていた。
彼女は清流から汲み上げた水を慎重に濾過し、携帯コンロの小鍋に注いで火を灯す。ガスの青い炎が鍋底を静かに撫で始めた。小鍋に注がれた水が沸き、隣のフライパンではニンニクと玉ねぎがじゅうじゅうと音を立てる。香ばしい匂いが湿った空気を押し返し、ほのかな温もりを広げていった。やがてトマトソースが麺に絡み、仕上げのバジルが散らされるとトマトトソーススパゲティから立ちのぼる湯気が、安息のしるしのように漂った。
ラッセルの傍らに戻ったスメラが、湯気の立つカップを差し出す。
「コーヒーも入ったわよ」
ラッセルは簡易ベッドから起き上がり、静かに受け取って、一口啜った。
カーンはすでにスパゲティを頬張っていた。
「やっぱりスメラの料理は天下一品だな」
「それ、本当にそう思っている? カーンはお腹が空いていると何でも美味しいって言うから」
「本当だよ。愛情が感じられる」
「もう、カーンったら……」
三人の笑い声が洞窟に反響し、焚き火のはぜる音がその談笑に優しく寄り添った。束の間の地下の闇に、確かな光が宿っていた。
だが、その光景が、ラッセルの胸を次第に締めつけた。
幼い頃の自分たち。共に学び、笑い、同じ未来を夢見ていた四人。
あの頃には、こんな結末が待っているなど、誰も知らなかった。
ラッセルは、静かに目を伏せる。
「……スメラ」
「何? ラッセル。どうしたの……?」
「すまない……」
ラッセルは拳を握り締めた。
「俺は……スメラに寄り添ってやれなかった」
「お前の悲しみも、リヴァンを救いたいという願いも……分かっていたはずだった」
声が、かすかに震える。
焚き火が、ぱちりと音を立てた。
「スメラ……本当に、すまなかった」
ラッセルは顔を上げられなかった。ただ、揺れる焚き火を見つめていた。
.
「カーンから聞いているわ……」 スメラは静かに答えた。
「でも……私は、まだリヴァンを救いたいの」
「まだ、彼の心は残っていると思うの……」
「いや……」 ラッセルは、ゆっくりと首を横に振る。
「もう、俺たちの知るリヴァンではなかった。だから、斬ろうとした……」
「だからよ」
スメラはラッセルを真っ直ぐ見つめた。
「リヴァンは、赤黒い眼に侵食されていて、肉体も超人化しているのよ」
「リヴァンの眼……赤かったでしょ?」
「ああ……」
ラッセルの脳裏に、あの異様な眼が蘇る。
「仰々しいほど……赤黒くなっていた」
「禁書指定の本をラッセルも読めば、きっと分かるわ」
「……分かった。スメラを信じる」
「ありがとう、ラッセル」
スメラは小さく微笑んだ。だが、その表情はすぐに曇った。
「でも……どうやったら、リヴァンを救い出せる?」
ラッセルが問う。
「何か方法があるはずよ」
スメラは焚き火を見つめた。
「ジン博士なら……何か方法を考えてくれると思うの」
三人の間に、しばし沈黙が流れた。
コメント
1件
いやー、第25話めっちゃ刺さったわ……! ラッセルが闇の底でリヴァンの言葉に打ちのめされるシーン、ほんと胸が痛かった。 「正義を語る軍隊がどれだけの命を踏みにじったか」——あの台詞、重すぎるし、敵にも背景があるって感じさせられるよな。 でもそこからスメラとカーンの声で引き戻されて、三人が再会する場面はもう……涙腺やられたわ。 「よく生き抜いてくれた」ってラッセルが言うところ、最高に好き。 洞窟でスパゲティ作ってコーヒー飲んでる日常の温かさが、逆に切なくなるのなんでやろ。 リヴァンを救いたいっていうスメラの願い、まだ捨ててないのがまた尊い……続きめっちゃ気になる!🔥