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第十一章 月の故郷
第七話 月と闇の真実
ギギィィ……
重い音を立てながら、両開きの扉がゆっくりと開かれる。
冷たい空気が流れ出した。
内部は思っていたよりも広かった。
白い石造りの空間。
左右には古びた長椅子が並び、奥へ真っ直ぐ通路が伸びている。
高い天井の一部は崩れ、そこから満月の光が差し込んでいた。
青白い月光が石床を静かに照らしている。
壁には月の紋章と、見たことのない古代文字。
崩れた壁画には、白い衣を纏った人々の姿が薄く残っていた。
静かだった。
あまりにも静かで、まるで時間だけが止まっているようだった。
そして、最奥。
祭壇の前に、一人の老婆が座っていた。
左右に置かれた小さな灯火が、その姿をぼんやりと照らしている。
深く皺の刻まれた顔。
厚い白銀のローブ。
閉じられていた瞳が、ゆっくりと開かれた。
乳白色の瞳。
その視線が真っ直ぐジントを捉える。
そして老婆は、静かに微笑んだ。
「……よく来たね」
穏やかな声だった。
「待っていたよ」
その瞬間、ジントの瞳が大きく見開かれる。
何かに引っ張られるように、ふらりと前へ歩き出した。
「ジント!?」
ダイチが呼ぶ。
だがジントは止まらない。
ゆっくりと老婆の前まで進み、その場へ崩れるように膝をついた。
「………っ」
頬を、一筋の涙が伝う。
懐かしい。
どうしてだか分からない。
初めて来た場所のはずなのに。
初めて会った人のはずなのに。
胸の奥がどうしようもなく温かくて、切なくて、苦しかった。
老婆は静かに身を屈める。
皺だらけの手で、そっとジントの頬を包み込んだ。
涙を優しく拭う。
「……こんなに大きくなって……」
目を細め、愛おしそうにジントを見つめる。
その眼差しはとても穏やかだった。
やがて老婆はジントの肩を支え、ゆっくり立たせる。
「聞きたいことはたくさんあるだろうが……ここは少し冷えるからねぇ」
そう言って立ち上がると、祭壇横の小さな扉を開けた。
「ついておいで」
奥へ進む。
そこは先ほどまでの空間とは違い、温かな空気が流れていた。
柔らかな灯り。
小さな暖炉。
木のテーブルと丸い椅子。
まるで普通の家の居間のような空間だった。
「さぁ、座りな」
促され、5人は椅子へ腰を下ろす。
老婆は大きな長椅子へ
「よっこいしょ……」
と腰を下ろした。
その直後、奥の方から一人の若い女性が姿を現す。
手には湯気の立つお茶を乗せたトレイ。
淡く長い金色の髪。
月光のような淡い乳白色の瞳。
白い衣。
その姿を見た瞬間、ダイチが声を上げた。
「あっ!! さっきの!!」
女性はぺこりと頭を下げる。
「驚かせてしまって、すみません……」
申し訳なさそうに微笑む。
どうやら先ほどダイチが見た“白い人影”は彼女だったらしい。
「あ、あれ見間違いやなかったや……」
ダイチがホッと胸をなで下ろす。
「…………」
シュンタは完全に固まっていた。
口をぽかんと開けたまま、女性を見つめている。
「お前も分かりやすいな」
ジュウタロウが呆れる。
「いやだって、めっちゃ綺麗やん……」
「懲りないな……」
女性は困ったように小さく笑い、お茶を配っていく。
温かな香りが部屋へ広がった。
やがて老婆が、ゆっくりジントを見つめる。
「……さて」
静かな声。
「名前は何というんだい?」
ジントは少しだけ迷い、
「……ジント」
と答えた。
老婆は小さく頷く。
「そうか……ジント……」
その名前を確かめるように繰り返す。
「私は月の一族の長、ミレイア。
そしてさっきの子はセレネだよ」
そう言って静かに目を細めた。
「私はねぇ、お前がこうして来ることを、ずっと待っていたんだよ」
部屋が静まり返る。
「ジント……お前は間違いなく、月の一族の血を継ぐ子だよ」
ジントの瞳が揺れた。
ミレイアはゆっくりと語り始める。
「十九年前……お前はこの里で生まれた」
暖炉の火が小さく揺れる。
「あれは、今日のような満月の夜だったよ」
ミレイアの表情が僅かに曇る。
「お前の母親は難産でねぇ……お前を産み落とす前に、息が絶えかけていた」
静かな声だった。
けれど、その記憶の重さが伝わってくる。
「そこへ、“影”が現れた」
ハヤト達の表情が変わる。
帝都で見た、あの神官の姿が脳裏を過る。
「お前の母親を、影が飲み込もうとしたんだ」
ミレイアは苦しそうに目を伏せた。
「……そして、その瞬間に生まれたのがお前だよ……ジント」
暖炉の火が、ぱちりと音を立てる。
「月の一族はほとんど皆、淡い金髪と月のような乳白色の瞳を持っている」
ミレイアは真っ直ぐジントを見る。
「……だが、生まれてきた赤子は黒髪黒眼だった」
ジントの呼吸が止まる。
「母親を飲み込もうとした闇を、お前が取り込んでしまったんだろう……」
「……母親は助かった」
その言葉に、ジントは軽く息を吐く。
「だがジント……お前は、人として生まれながら、闇の器として、月蝕の子の運命を背負ってしまった……」
ジントの黒い瞳が大きく開かれる。
ミレイアは静かに問い掛けた。
「月蝕の子は知っているね?」
ジントは小さく頷く。
「本来、月蝕の子は闇から生まれ、月へ還る……人ならざる存在だ」
静かな暖炉の音だけが響く。
「我々月の一族は、古来より月蝕の子が役目を果たせるよう見守ってきた」
ジントは俯いたまま、震える声を絞り出した。
「……じゃあ……」
唇が小さく震える。
「どうして……どうして、俺を捨てたの……?」
その言葉に、ミレイアは目を閉じた。
痛みを思い出すように。
「……最初はね、普通の子と同じように育てるつもりだったんだよ」
静かな声だった。
「お前の両親も……お前をちゃんと愛していた」
そう言って、優しくジントを見つめる。
「しかし月蝕の子は闇を引き寄せる」
ミレイアの表情が曇る。
「封印を施したり、魔道具を使ったり……色々試した。
だが、なかなか抑えきれなかった」
窓の外では、満月が静かに輝いている。
「ここは大陸でも特に瘴気が濃い場所でね。この里は月の強力な結界で守られていたんだが……」
老婆はゆっくり目を伏せた。
「日に日に増えていく魔物に、里の者達はもう耐えきれなかった」
静かな沈黙。
「お前の両親は……泣く泣くお前を連れ出した」
「本当は共にどこか別の場所で暮らしたい、と願ってたが……我々が引き止めたんだ」
「数少ない月の一族の存続のためにね……」
ジントの肩が小さく震える。
「安全で、瘴気の薄い街の近くを探し……そこへ残してきたと聞いたよ」
ミレイアは悲しそうに微笑んだ。
「そして、せめて数年は闇を引き寄せる力を抑えられるように、と……強力な封印を施した、月の一族のお守りを持たせたんだ」
ジントはゆっくりと懐へ手を入れる。
取り出したのは、小さな袋。
中には、割れた御守り。
ラディスで力が暴走したあの日、砕けたものだった。
ジントはそれをそっと握り締める。
胸の奥が、じんわりと温かかった。
見たこともないはずの両親がすぐ傍で微笑んでいる。
そんな気がした。
コメント
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ついに出世の秘密明らかになりましたね ますます続き気になります☺️
ちょっと涙で画面が見えないです😭ようやく自分の出生がわかってよかったけどまだまだ謎は多いじゃないですか?全部か回収してくれますか!? あと、💙は当然ですが、あと3人もなんか💛に惚れてません??気のせいですか?
ジントがどうして黒髪黒眼で生まれてきたのか、ラディスの森に捨てられてしまったのか、最初の方のお話での謎が解き明かされましたね。 ラディスで力が暴走した時に壊れた謎のお守りは両親がジントのためを思って持たせてくれたものだと知ってうるっときました😭