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真子はマグカップにコーヒーを入れて渡した。


「インスタントでごめんね」

「ん、ありがとう」


拓は早速真子が入れてくれたコーヒーを一口飲む。

そして真子は拓に美桜の事を説明し始めた。


「美桜に恋人がいるって言ったよね?」

「うん。大学時代からの長い付き合いの?」

「そう。7年付き合った彼氏」

「それがどうしたの?」

「実は昨日別れようって言われたんだって」

「えっ?」


拓は驚いた顔をしている。


「なんでそんな事に?」

「向こうに好きな人が出来たんだって」

「…………」

「同じ職場の派遣の子らしいって。それで美桜落ち込んじゃって今日は来られなかったの」

「そうか……そりゃまたタイミング悪い時に来ちゃったな。で大丈夫なのか? 美桜さんは?」

「うん、さっきアパートへ様子を見に行ったら、目が真っ赤だったけれどなんとか大丈夫そう」

「そうか…それにしても7年って長いよな。俺達が会えなかった期間が8年だろう? ほぼそれに近いんだ。急に相手の事を忘れろって言ったって無理だよなあ…」

「うん、思い出もいっぱいあるだろうしね」

「だな」


拓はそう言ってもう一口コーヒーを飲んだ。

そしてしばらくじっと何かを考えた後、口を開いた。


「あのさ、俺真子に言っておかなきゃって思っている事があるんだ」


拓が改まって言ったので、真子はドキッとした。


「何?」

「うん、あのさ、あの時真子は俺に何も言わずに北海道へ行っただろう?」


拓があの時の事を言ったので更に真子はドキッとする。


「うん…あの時は本当にごめんなさい。でも言えなかったの、言うと決心が鈍りそうだったから」


真子は本心ではない言い訳を言ってその場を誤魔化そうとした。

しかし拓にはその誤魔化しは通用しなかった。


「あの日さ……」

「うん?」

「いや…真子と最後に裏門で待ち合わせをしたあの日だよ…」


その時真子の脳裏に思い浮かんできた。あの日裏門で見た光景が。

真子はあの時の事がきっかけで拓に何も告げずに消える決心をしたのだ。

拓がその時の話を持ち出したので心臓がドキドキしている。


「え? うん、それが何?」

「あの時真子は聞いていたんだろう? 俺がバスケ部の仲間や美紅と話をしていたのを?」


(拓は知ってたんだ…私があの場にいた事を…)


真子は愕然とする。拓は真子が何も言わずに去った原因に気付いていたのだ。

そして8年もの間苦しみ続けてきたのだ。


自分が何も言わずに去った事で、返って拓を傷付ける結果になってしまった。

その時真子は、自分はなんて愚かな事をしてしまったのだろうと後悔する。

そして拓に謝ろうと思った。


「うん…聞いてたよ。ごめん、ごめんね拓…」


その時真子の頬を一筋の涙が伝う。


真子の涙に気付いた拓は、マグカップをテーブルの上に置くと座ったまま真子をそっと抱き寄せた。

拓の喉元に顔を埋めながら、真子は拓の匂いを感じていた。

爽やかなシェービングローションの残り香と拓の体臭が混ざり合い、真子の鼻をくすぐる。

拓の匂いを嗅いでいると次第に真子は落ち着いてきた。


そこで拓が話し始める。


「俺はあの時真子が黙って去った事を責めるつもりはないよ。そうさせてしまったのは俺だからね。ただね、これだけは言っておきたいんだ。これから俺は真子と一生を共にしたいんだ。その気持ちに嘘はない。でもね、これから長い人生の間にはあの時のようにちょっとした誤解やトラブルが発生する事もあると思うんだ。だから真子に言っておきたいのは、何か不安や心配事が生じたら必ず俺に話して欲しいんだ。たとえそれがほんの些細な事でもね。もしかしたらそれが原因で喧嘩になる事だってあるかもしれない。でもね、何も話さないよりは喧嘩をした方がいいと思わないか? とにかく俺達の間では隠し事はなしだ。どんな時だってちゃんと話し合う事! この事を絶対に忘れないで」


拓の言葉を聞いた真子は、身体を離して拓の顔を見つめる。

すると拓は真剣な表情をしていた。

拓は二度とあのような思いはしたくなかったのだろう。だからあえて真子に言ったのだ。


「拓…..うん、わかった。今度からはちゃんと話をするようにするね。不安や心配事があったら絶対拓に話すようにするから」


真子はそう言いながら微笑んで拓を見つめた。


「オッケー、それなら安心だ。真子はいつも一人で悩んで勝手に結論を出しちゃうからなぁ。だからちゃんと俺に言えよ。俺をちゃんと頼れ!」

「うん、わかった」


真子は拓の頼もしい言葉を聞いて、笑顔で拓に抱き着く。


「ハハッ、今日の真子は甘えん坊だな」

「フフッ、だってなんか嬉しいんだもん」

「そんなに甘えてこられると、ここで押し倒したくなるぞ」

「フフッ、いいわよ」

「こらっ! 煽るな! 本気にするからヤメレ!」

「フフッ…」

「アハハッ…」


二人は抱き合ったまま互いの顔を見つめて笑い合う。

その表情は、互いを思う愛情に満ち溢れていた。



そんな二人の幸せそうな様子を、工房の外から見つめている男性がいた。

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拓君はちゃんと8年前のあの時の事を言葉にして真子ちゃんと話したかったんだね。 どうして真子ちゃんが何も言わずに拓君の元を去ったのかを… いつまでも心に引っかかった棘は何かの拍子に傷むもの。それはできれば取り除かないと。 でも拓君もあの時の事を反省して真子ちゃんに伝えて、これからは自分に相談して話し合おう❣️と明確に言葉にできる拓君と真子ちゃんが愛おしい💞 で、外の男性は誰?健次⁉️

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