テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

蓮司「テント立てるのって、こんなダルかったっけ」


日下部「……説明書、逆に見てた。ポールの向きが」


蓮司「逆ってお前……。そりゃ入らねぇわ。遥、そっち持って」


遥「……これ、どう持てばいいんだ?」


日下部「上。そこは天井側。逆」


遥「なんで天井が下に落ちない?」


蓮司「物理にキレるなよ」


遥「なんか……全部不安定だな、この構造」


蓮司「そりゃお前が持ってるからだろ。ほら、俺が引っ張るから、そっち突っ込んで」


遥「“突っ込む”って言い方やめろ」


蓮司「……お前それ、わざとか?」


遥「違う。わからないから言ってるだけ」


日下部「……真面目にズレてるのが怖いな」


蓮司「つーか日下部、意外とキャンプ慣れてる? 無口だけど手際いいじゃん」


日下部「家が……昔、登山とかしてたから。親父がそういうの好きで」


蓮司「あー。なるほど、山系の血」


遥「それ……普通の親?」


日下部「普通、って言われたら、そうじゃないかもな」


蓮司「でもまあ、ナイフさばきとか普通じゃなかった。さっきサクッと木削ってたのお前だろ?」


日下部「……癖、かも」


遥「……殺し屋の素質あるな」


蓮司「それ、褒めてんの? 怖がってんの?」


遥「どっちかっていうと、かっこいいと思った」


日下部「……いや、普通じゃないほうが怖いよ、遥」


蓮司「言ってやるな。こいつは“普通”を持ってないのが通常運転なんだから」


遥「持ってないけど……持たなきゃいけないの?」


蓮司「いや? むしろそれで成立してるし。キャラとして」


遥「“キャラ”なのか、俺」


日下部「……いや、そうじゃなくて」


蓮司「いや俺はそうだと思ってるぞ」


日下部「お前は黙っとけ、蓮司」


遥「……あ、珍しい」


蓮司「おっ、言い返された。こっわ」


遥「こっわって、おまえが一番こわいだろ」


蓮司「俺は基本、火加減を見守る係です。暴発するのはそっちの役」


日下部「俺もどっちかっていうと……火傷する側だと思ってたけどな」


遥「俺は……燃えてるのが当たり前だと思ってた」


蓮司「……やっぱ焚き火似合うな、おまえら」


遥「どういう意味だよ」


蓮司「どうって、深い意味はない。雰囲気」


日下部「……でもまあ、悪くないよな。こういう時間」


遥「たしかに、静かなのに……うるさくない感じ」


蓮司「おいそれ、詩人ぶってんのか?」


遥「違う。言葉が……下手なだけだ」


日下部「それは、俺も同じ」


蓮司「……俺だけが語彙力ある、ってことでよろしいか?」


遥「うるさい。火に突っ込むぞ」


蓮司「やめろ。痛みには弱いんだよ俺」


日下部「おまえ、心はドSだけど、身体は豆腐だからな」


蓮司「うまいこと言うな。俺、今のでちょっと感動した」


遥「……日下部がウケたの、初めて見た」


日下部「……そうか?」


蓮司「おまえ、もっと喋ったら人気出るのにな」


遥「喋らないからいいんだよ」


蓮司「へー……珍しくお前が誰か褒めた」


遥「褒めてない。事実を言っただけ」


日下部「……ありがとな」



少し不格好で、ちぐはぐで、でも不思議と火が消えないようなやりとり。

その夜は、静かに深く、更けていった。



無名の灯 余白、三人分。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚