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蓮司「……マシュマロ、炭になってんぞ、それ」


遥「え? これくらいでいいんじゃないの?」


日下部「完全に焦げ。中身ない」


遥「中身って、あるの? もとから白くてふわふわの外見じゃん」


蓮司「おまえ、マシュマロに実存主義求めんのやめろ」


遥「……意味はわかんねえけど、バカにされた気がする」


日下部「まぁ……たぶんされてる」


蓮司「でも遥ってさ、絶対お菓子とか家で出たことないだろ」


遥「ん。ない。食べたことあるの、たぶん給食か……コンビニで一回盗んだやつ」


日下部「それ言うなよ……」


遥「いや、過去の話」


蓮司「つーかその淡々としたカミングアウト、地味にパンチ強ぇな」


遥「そっちが聞くから答えただけだろ」


日下部「……あー、焼きすぎた。もう一回やる」


蓮司「真面目だなお前。ってか遥、今度はちゃんと回して焼けよ」


遥「どのタイミングで回すのかがわかんねぇんだよ。目で見ても、焼けてんのか焼けてないのか、判断が曖昧じゃん」


蓮司「おまえは感覚の引き出しがバグってんの。もう“焼けた”って信じて一回食ってみろ」


遥「信用に値しないアドバイス」


日下部「……でも、食ってた時ちょっと顔やわらかかった」


蓮司「なにそれ、詩か? 遥の顔がやわらかいとか突然言うなよ照れるだろ」


遥「おまえじゃねぇだろ照れんの」


蓮司「うん、俺が言われたと思って照れてた」


日下部「……めんどくせぇな、ほんと」


蓮司「お前もわりと毒舌だよな? 黙ってれば地蔵っぽいのに」


遥「地蔵は喋らないから地蔵なんだろ。日下部は……なんか、低頻度で優しい音出す人形って感じ」


蓮司「語彙が斬新で伝わらない」


日下部「伝わらないほうがたぶん幸せ」


遥「でも俺、こっちのが落ち着くわ。火と……暗いのと……あと」


蓮司「“あと”?」


遥「……うるさくない人たち」


日下部「……うるさいやついたの?」


遥「学校にも家にもいた。でもおまえらは、うるさくない。しゃべる量じゃなくて、頭ん中の音が邪魔してこないっていうか……」


蓮司「……うわ、それ俺にとっては最大の侮辱かも」


日下部「俺は、ちょっと嬉しいかも」


蓮司「嫉妬」


遥「やっぱうるさいな、お前」


蓮司「でしょ? 俺、そういう役だから」




火がパチパチと鳴って、誰も立ち上がらない。

テントがゆれる音だけが、夜の隙間に響いていた。



無名の灯 余白、三人分。

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