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【S×Sラブレター~一歳年上幼馴染みとの磁石みたいな恋とその顛末~】
「じゃーんけーんぽん。あいこでしょ、あいこでしょ、あいこでしょ」
漫画喫茶の一室で、僕の、1歳年上の幼馴染みの薊がじゃんけんする。
薊が黒いポニーテールを揺らす。黒いマットの上を無邪気に跳ねる。
高校生だった頃、僕と薊は幼馴染みだった。
「……あたしの勝ち!!じゃあ今日はトワが犬ね」
そう言って、薊がバックの中からガサゴソと赤い首輪を取り出し、僕の首に付ける。
僕はものすごく嫌そうな顔をしながらそれに応じる。
当時僕たちは恋愛をゲームとして認識していた。
ゲームと称して様々なプレイをした。
この《SMごっこ》もゲームの一つ。
じゃんけんをし、勝った方が1日負けた方の犬になる、闇のゲーム。
「お手」
薊が口許を緩めながら、胡座をかいて座る僕の鼻の前に白い手を差し出す。
「どうしたの?お手だよお•手?」
「…….。」
僕は無愛想な顔で薊にお手をする。
「よーしよしよし、よーしよしよし、かわいいねぇかわいいねぇ、わーしゃわしゃわしゃわしゃ」
薊が僕の頭を大雑把に撫でる。
男なのに可愛いの言われるのも、人に頭を撫でられるのも厭で嫌いで仕方ない。
人に可愛いと言うなんて、最大級の侮辱じゃないか。
僕たちはこの《SMごっこ》を色んな時に、色んな場所で行った。
「じゃーんけん…ぽん!!あいこでしょ、あいこでしょ」
両親達が旅行に行った日を見計らって、僕の部屋で《SMごっこ》をする。
「…..よし、僕の勝ち」
僕がピースサインする。
「あー、グー出しときゃよかったー!!」
薊が膝から崩れ落ちる。
薊に首輪をかけた後、僕のTシャツに着替えさせ、 足を舐めさせた。
「くそー、年上に足舐めさせるとかありえないんだけど!?」
文句をいいつつ薊が僕の足の指を舐める。
人肌よりも温かく、柔らかく湿った感触が指に伝わる。
僕は薊の悔しそうなしかめ面を見下ろすのが三度の飯より好きだった。
僕と薊はどちらもS、磁石のような恋をしていた。
「ねぇトワ」
僕の家のソファーで薊が僕の膝を枕にしながら行政書士の資格の本を読む。
「何?」
「こないだネットで調べたんだけど、男の人って前立腺開発したらめちゃくちゃ気持ちいいらしいよ?」
「へぇ」
ソファーに座り、ソシャゲをしながら僕が空返事する。
「やってみようよ」
「ぜったいやだ」
「なんでさ」
「なんでも。…….僕が人に触られるの嫌いなの、薊が一番よく知ってるでしょ?」
「ちぇー」
そう言ったきり、僕達は無言になる。
恋が終わる時はいつも、初期微動のように心が揺れる。
その日、僕達の関係に静かに、でも確かに皹が入る音を聞いた。
恋というのは不思議なもので、好きなところが99個あっても、たった一つ許せないことがあるだけで終わってしまうのだ。
薊の悪戯っぽい笑顔、心臓の音、足が長いのに足が遅いところ、何でも話せるところ、行政書士になる夢のために毎日勉強しているところ、首筋に顔を近づけて匂いを嗅ぐ癖、僕がクラスメイト達に無視されるようになってからも変わらず接してくれたところ……..挙げだしたらキリがない。
それでも僕は、薊が僕を完全に支配しようとしていることだけが、どうしても許せなかった。
SとSは分かり合えない、どちらかが折れるまで。
結局、薊が大学へ進学し、僕が受験生になった頃、僕達の関係は終わりを迎えることになる。
わざとらしく喫茶店に誘われた時点で、嫌な予感がした。
「あのね、トワ」
「何?」
「私、同じ学部の人に告白された」
「断ればいいじゃん」
「うん、断ったんだけどね。……その人、大きな声で泣きだしちゃって。俺はあなたに振られたら生きていけない。…….そんなこと言われたのはじめてだったから。」
犬みてぇなやつ。会ったこともないのに心底軽蔑する。
僕は薊が何が言いたいのかはっきりと分かった。
だからこちらから言ってやった。
「じゃあ、もう終わりにしよっか」
「え……。」
「その人のこと、好きになったんでしょ?」
薊の顔にそう書いてあった。
「そいつなら前立腺も貸してくれるんじゃないの?」
腹の底の黒い塊が、僕の語気を荒くする。
突然、薊の頬に雨が伝った。
「やだっ……やだよぉ…….」
僕はこれまで、薊のこんな顔を見たことがない。
「薊だって薄々気づいてたでしょ?僕達は根っこの部分で分かり合えないって」
「でもっ……今までずっと一緒だったんだよ?急に別れて、もう一言も喋れないなんてそんなの無理だよっ…….」
「じゃあどうすんの?その告ってきたやつに断ってくれんの?」
薊が鼻を啜りながら下を向き、押し黙る
「無理なんでしょ?まさか二股しようとしてる?」
「そんなつもりじゃ…….」
薊の顔が真っ青になる。見ていられない。
「……別にLINEとかは時々していいから」
「本当?」
「うん」
「ごめんね」
「何が?」
「私が従順な子だったら、私達ずっと一緒にいられたよね?」
「…….。」
僕と薊は磁石のように反発し、決して交わることはない。
「僕を振ったんだからさ、幸せになってよね」
「……振ったのトワじゃん」
子供みたいな拗ねた声
「おんなじようなもんだよ。じゃあね」
「…….うん」
それから、薊とは、少しずつ、少しずつ、疎遠になっていった。
数年後、自室の押し入れを掃除していたら、赤い首輪を発見した。
「…….。」
楽しかった思い出が、トラウマのように甦る。
この首輪は、僕が誰かを愛せた証。
あの日、前立腺を捧げていれば、僕は薊を引き止めることができたのだろうか?
自分で首輪をかけ「わん。」と一人で鳴いた。
コメント
3件
トド村さん、読ませていただきました……! 「S×S」、つまりお互いが支配したがるタイプ同士の恋、すごく生々しくて切なかったです。じゃんけんで犬を決めるゲームが、実は根っこでは分かり合えないことを象徴してるみたいで……。最後の「わん」でぐっときました。自分で首輪をはめるトワの後悔が、静かに刺さります。1話でここまで心情を描けるの、本当にすごいです。続き、また読みたいです。