テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
痛覚を取り戻してから、ベルはますますレンブラントのことが嫌いになった。
口に何かを含めば、染みるし痛いし、料理がしっかり味わえない。夜は夜でベッドに入ってうっかり寝返りをうったら、痛みで飛び起きる。
数日経ってもちょっと動く度に、背中と脇腹が悲鳴を上げるから馬車の揺れがこたえる。
ただ馬車に乗ってえっちらおっちら王都に向かっているだけなのに、ベルは披露困憊だ。
(これも全部、全部、ぜぇーんぶ、レンブラントのせいだっ)
痛みなんてやっぱりなくていい。邪魔なだけだ。
そんなふうに面と向かってレンブラントに悪態を吐いてみても、彼は「そうか」と言って笑うだけ。
人が痛みでのたうち回っているのに、何が楽しいのだろうか。このド変態。
しっかり声に出して言ってみたら、さすがにムッとした顔をしたけれど、やっぱりレンブラントは嬉しそうだ。
もしかしたら彼は隠れマゾヒストなのかもしれない。気持ち悪い、引く。これは声には出さなかった。
でも、あの大きな手で触れられるのは嫌じゃない。呆れた顔も憎くらしいとは思えないけれど、じっと見つめられるのは居心地悪くて困る。だからといって見られていないと、つい毒を吐きたくなる。
そんな矛盾する気持ちが何なのかはわからない。ただ、ちょっとでもその理由を考えるときゅっと心臓がいたくなるし、もやもやとした気持ちになる。
だから考えないのが一番だ。そもそもレンブラントに向かう気持ちがわかったところでどうなる?こう言ってはアレだけれど、何の特にもならない。やっぱり考えないのが正解だ。
(でも、でも、でも……これは、考えるべきだろう)
どうして今、自分は寝巻き姿にコートを羽織った状態で、レンブラントと仲良く森の中に隠れているのかを──
「あのう」
「黙れ」
「いや、説明をしてくれたら黙りますけ」
「良いから黙れ、気絶させられたいのか?」
「っ……!」
途中で被せられた言葉は、なんとも物騒なものだった。
そんな態度を取られる理由なんてないはずだから、ベルはレンブラントを睨み付ける。でも、彼は気付いてもくれない。
無視をされているわけではない。レンブラントはとても忙しいのだ。忙しい理由はわからないけれど。
──つい1時間ほど前のこと。
痛む背中と脇腹を庇いつつようやっと寝入ったベルだったけれど、突然レンブラントに持ち上げられて強制的に目が覚めた。
寝ぼけ眼で「えっ?ちょっ?は?なになに?」と混乱を極めるベルを無視して、レンブラントは近くの森の中に移動したのだ。
意味がわからないし、寒い。コートに包んでくれたのは、彼なりの優しさなのだろうが、どちらかと言えば状況説明をしてくれた方が嬉しかった。
でもレンブラントは、これまで見たことも無いほど怖い顔で黙れと言った。その顔を見れば、不測の事態が起きてしまったのはわかる。
こんな状況になったのは自分のせいだ。それがわかっているからこそ、ベルは知りたいのに、レンブラントは何も答えてはくれない。
その代わりに、空からポタリと滴が降ってきた。
日暮ミミ♪
542
臣桜
48,719
鷹槻れん

1,179
#ハッピーエンド
れもん データ飛んだ人
245
コメント
1件
第49話、拝読しました。痛覚が戻ってからのベルの憎まれ口と、でも触れられるのは嫌じゃないという心の揺れが絶妙で、思わずニヤリとしながら読んでいました。彼女の中で「考えない方がいい」と自分に言い聞かせるほど、実はレンブラントへの想いが育っている気がして…!そして突然の森の中、無言で自分を隠す彼の行動も、物語に一気に緊張感が走りました。最後の「空から滴」の一文、すごく不穏で、続きが気になって仕方ないです。更新待ってます!