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#海辺の町
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朝四時の浜は、夜と朝の境目みたいな色をしていた。空はまだ群青で、東の端だけがわずかに薄い。潮が引いた砂は冷たく、長靴の底へ吸いつくように湿っている。
啓介、芽生、遼征、蓮都の四人は、懐中電灯の光を足元へ落としながら浅瀬へ向かった。遼征が先頭、蓮都が潮の様子を見て、その後ろを啓介と芽生が続く。
「眠い?」
芽生が小声で聞く。
「寒い」
「質問の答えがずれてます」
「眠いとも言う」
「正直でよろしい」
こんな時間でも、そのやり取りがあるだけで少し落ち着く。
浅瀬には、黒く濡れた木片や、錆びた金具が点々と残っていた。海賊船、と昔は気軽に呼んでいたもののかけら。その言葉がもう軽く言えないことを、啓介は知っている。
「足元、左気をつけて」
遼征が言う。
「そこ、沈む」
蓮都がしゃがみ込み、流木の間へ手を差し入れた。
「これ、板か……いや、紙?」
皆が光を寄せる。濡れた砂に半分埋もれた薄い破片があった。啓介がそっと拾い上げると、繊維の残る紙片だった。端はちぎれ、墨がわずかに残っている。
「読める?」
芽生が肩越しにのぞき込む。
啓介は海水を払うように指先を動かした。完全ではない。けれど、一文字だけ、はっきり見えた。
「……き」
その場の空気が変わる。
「その続き」
芽生の声が少しだけ早くなる。
紙片の端をつなぐように目を凝らすと、かすれた文字が続いていた。
君のためにできること
「出た」
蓮都が思わず声を上げる。
「ほんとにあった」
「静かに」
遼征が言うが、自分も息を呑んでいた。
啓介は紙片を両手で持ったまま動けなかった。誰かが、誰かのためにできること。そんな当たり前の言葉が、この場所で見つかると、急に重みが増す。
芽生が横でつぶやく。
「“み”と“き”がつながるなら」
「札は一枚じゃなかったかもしれない」
遼征が続けた。
遠くで鳥が鳴き始める。空の色が、ほんの少しだけ朝へ寄った。
啓介は濡れた紙片を見つめた。守りたい場所。待っていた子。来られなかった年数。全部がばらばらのままなのに、言葉だけは確かにこちらへ届いてくる。
君のためにできること。
その文が、冷えた手のひらの中で、妙にあたたかく感じられた。