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きょうふ
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#可愛い
トド村
37
束の間のバカンスから一週間が経った、朝。
「ま•ま•マカロン♪まっまマカロン♪ま•まマカロン♪」
私のスマホから《魔法少女お料理マカロン》の
メインテーマが流れる。
寝ぼけ眼で布団からもぞもぞ腕を伸ばし、手でごそごそ床に置いたスマホを探す。
スマホのアラームを止め、ゆっくりと起き上がる。
私の隣では、天国美がまだすやすや眠っている。
「んぅ……。」
天国美が少しだけ目蓋を開いたが、
「あと三時間……。」
ともぞもぞ布団の中の入り、二度寝を決め込む。
「寝坊するわよ、ばか」
そう言いつつ私は起き上がり、シャワー室へ向かった。
服を全て脱ぎ、シャワー室の鏡の前で身をよじる。私のお尻の右側にある死の紋章の数は38日まで減っていた。
「後、1ヶ月と一週間か……。」
残り38日、それまでに天国美を殺すか、真実の愛を見つけなければ私は死ぬ。
天国美に、妹に死んでほしくなんかない。
もどかしさに私は思わず歯軋りした。
この数日間で、呪いは更に進行していた。
足と両耳が幽霊のように透けている。
左目には相変わらずぽっかり穴が空いてある。
私は、3日前から一般人には見えないようになっていた。
冷たいシャワーを浴びる。
首と背中に冷水がかかり、思わず身体を震わせる。
髪が水滴を滴り、雨粒のようにシャワー室のタイルに落ちる。
鏡に額をつけ、小さくため息を吐く。
「…….これじゃ、どっちがドッペルゲンガーか分からないわね」
腹の底から出た小さな声を冷たい水音が覆い隠す。
下着をつけ、左目に眼帯をつける。眼帯ありの視界にも、もうすっかり慣れてしまった。
服を着て、朝食を作った後、天国美を起こしてやった。
「いってきます!おねぇちゃん!!」
スーツに身を包んだ天国美が無邪気に手を振る。
「ん、いってらっしゃい」
はにかみながら天国美を振った。
「…….できることからやらなくちゃ」
楓子さんは今日は忙しくて来られないそうだ。
今ごろ世界中を飛び回り、占いやら黒魔術で誰かを助けているのだろう。
人に頼ってばかりじゃいられない。
出来ることからやらないと。
私は意を決し、押し入れの中で大切にしまっていた《魔法少女お料理マカロン》のフィギュアを取り出した。
手のひらサイズのピンク髪の隻腕魔法少女のフィギュアをじっと見つめ祈るように呟く。
「マカロン様、私に力を貸してください…..!!」
私は自らの唇を、マカロン様の唇にゆっくりと近づけた。
《呪い移し》という黒魔術があることを楓子さんから教わった。
思い入れのある人形に魔力を口移しで注ぎ込む。すると、自らにかけられた呪いを引き受けてくれるのだと言う。
「尤も、地獄子ちゃんにかけられた呪いは尋常じゃなく強い。呪い移しでどうにかなるものではないと思うけどね」
楓子さんはそう言っていたが試さずにはいられない。
これまで私のために力になってくれた楓子さんや小守、それに天国美のためにも、私は呪いに打ち克たなければならない。
私は初任給で買ったマカロン様のフィギュアにキスし、魔力を注ぎ込む。
子供の頃両親が家に響く大声で喧嘩をしていた時、私の心の支えはマカロン様だった。
自分の部屋の押し入れの中に避難し、イヤフォンをつけ、声を圧し殺しながらYoutubeでマカロン様の活躍をじっと見た。
マカロン様が友人のおそうじミモリンのピンチに左腕を差し出し食べさせるシーンは、何度も何度もくり返し視聴した。
私の推し、私の初恋。
呪いを押し付けちゃってすみません。
私、まだ、天国美達と生きていたいんです。
ゴキィ……!!!
と、突然マカロン様の首がへし折れた。
強大な魔力に耐え兼ねてフィギュアがぐしゃぐしゃに押し潰される。
「あ、ああ……….」
ぐちゃぐちゃに潰れたマカロン様を見て、自分が取り返しのつかないことをしてしまったのだと悟った。ぺたり、と床にへたり込む。
フィギュアが紫色の炎に包まれる。
「ごめんなさい……..マカロン様……..」
土下座のような状態で啜り泣く。
(あやまる必要はありませんわ。)
思わず顔を上げる。
「マカロン様の……声…….」
(あなたの苦労をずっと見ていましたよ。本当によく頑張りましたね。)
少女のような、だけど、芯のあるマカロン様の声。
夢でも見てるのだろうか?
(夢ではありません。私はあなたのことを、この押し入れでずっと見守っていました。あなたは一人でも、毎日ちゃんとごはんを作った。
天国美ちゃんが来てからは、天国美ちゃんや、
楓子さん達にもごはんを作っていましたね。
ずっと、見てましたよ。)
推しからの言葉に涙が滲む。
「私、マカロン様にあこがれて料理を始めたんです……あなたがいたから一人の時もずっと料理が出来たんです……!!」
(いいですか、地獄子。私からあなたへ最後のアドバイスです。愛とは与えられるものではなく、与えるもの。あなたならきっと真実の愛に辿り着けますわ。見えなくなってもずっと、あなたを見守っています。)
そう言い残してマカロン様は、塵一つ残さず
この世から消えてしまった。
私はしばらく一人で泣いた。泣いて泣いて、泣きつかれた後、キッチンへと向かった。
夜、天国美が帰ってきた。
「ただいまかえりました!!今日の夕飯はなんですか!?」
「今日は思いきってカツカレーにしたわ」
「おいしそー!はやく食べたいです!!」
「まずシャワー浴びてきなさい」
「はーい」
シャワー室から聞こえる天国美の鼻唄を聞きながらカレーを皿によそった。
(タイムリミットまであと38日)
コメント
1件
うわあ……この回、胸がぎゅっとなりました。身体が透けていく描写と、それでも生きようとする地獄子さんの意志がひしひしと伝わってきました。そして何より、マカロン様のフィギュアとのやり取り……押し入れでずっと見守ってくれていたという設定、めちゃくちゃ刺さります。「愛は与えるもの」という最後の言葉、本当に深いです。推しに認められて、ちゃんと背中を押してもらえる展開、最高でした。残り38日、どうなるんでしょう……続きが気になります!