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翌朝二人はホテルのロビーで待ち合わせた。
今日の朝食は二人でレストランビュッフェへ行く約束をしている。
理紗子がロビーへ行くと、健吾はソファーで経済新聞を読んでいた。
健吾は理紗子に気づくと、ソファーから立ち上がり新聞を元の位置へ戻した。
「おはようございます」
「おはよう! 今日も晴れて良かったね」
二人はすぐにレストランへ向かって歩き出した。
「億トレーダーも庶民派バイキングに行くのね」
理紗子はそう言ってフフッと笑った。
「俺の事を一体何だと思ってるんだ? バイキングぐらい普通に行くさ」
「ハンバーガーショップには外車で行くんでしょう? それもセットじゃなくて単品で注文」
「なんでそんな事を知ってるんだ? あ、配信か。もう配信は見るな! 俺の素性がバレてしまう」
思わず理紗子は声を出して笑った。
昨夜は素晴らしいショーを見ながら、健吾と楽しい夕食のひと時を過ごした。
理紗子が酔うとまた何をしでかすかわからないからと、理紗子の酒量はきっちり健吾に管理されていた。
そして気付くといつの間にか飲み物がジンジャーエールに変えられていた。
そのお陰で、理紗子は悪酔いする事なく美味しい料理をたっぷり堪能する事が出来た。
健吾は今日理紗子が行きたい場所へどこへでも連れて行ってくれると言った。
だから昨夜部屋へ戻った理紗子は、ガイドブックをめくって行きたい場所を選定した。
その後早めにベッドへ入ったので、今朝は体調もばっちりだ。
二人並んで朝食を選んでいると、理紗子が健吾のトレーを見て言った。
「朝食は和食派なんだ?」
「その日の気分によるかな」
「ふぅん…….」
そう言いながら、理紗子はパンやサラダ、オムレツなどの洋食メニューを選んでいた。
理紗子はパイナップルが好きなので、ホテルのカットフルーツの中からパイナップルを、そしてジュースコーナーでは迷わず
パイナップルジュースを選んだ。
その間、健吾はご飯と味噌汁と共に、身体に良さそうな和食の総菜を何点か皿に盛りつけていた。
海側の席が空いていたので二人はそこへトレーを置き、向かい合って食事を始めた。
大きなガラス窓の外に広がる空は今日も真っ青だった。
そして目の前のビーチの向こうには、エメラルドグリーン海が輝いている。
絶景を見ながら食べる朝食は最高だった。
「で、行きたい所はピックアップした?」
「うん。メモに書いてきました」
理紗子はそう言うと、小さなバッグからメモを取り出した。
健吾がそれに目を通すと、
「川平湾…….は、ホテルから近いから一番最後かな。で、ヤエヤマヤシ群落、平久保﨑灯台、御神崎灯台、琉球観音埼灯
台…….おいおい、今日は灯台巡りか?」
「だって行ってみたかったんだもん。前に来た時は行けなかったし。それに、いつか灯台を舞台にした小説も書きたいと思って
いるの」
理紗子はそう言ってニッコリ微笑む。
「そういう事なら…….で、みんさー工芸館?」
「それは単にみんさー織を体験したいの」
理紗子はまたニッコリした。
「メインはドライブか。買い物とかはいいのか?」
理紗子はそう聞かれて不思議そうな顔をした。
「えっ? 石垣島で買い物? 石垣島って言ったらやっぱり美しい景色でしょう!」
理紗子は健吾の事を小ばかにしたように笑った。
そのお茶目な表情はとてもチャーミングだった。
健吾は理紗子の行きたい所が、金のかからない場所ばかりなのでびっくりしていた。
どれもほぼ無料で観光できる場所ばかりだ。
不思議に思った健吾は、念の為理紗子にもう一つ聞いた。
「竹富とか小浜の離島には行かなくてもいいのか?」
「うん、大丈夫、今回は石垣島が小説の舞台だから。竹富には四年前に行ったし今回はいいわ」
理紗子はそう言いながら、美味しそうにオムレツを頬張った。
そしてモグモグ口を動かしながら言う。
「私がこの島で一番好きなのは川平湾なの。初めてあそこへ行った時の感動はどんな言葉を使っても表現しきれないほどよ!
だからそこは絶対外さないでね」
理紗子はニコニコして言うと、空になったグラスを手にしておかわりを取りに行った。
「女との旅行で、こんなに金を使わないのは初めてだな……」
健吾は苦笑しながらそう呟いた。
そして、以前行った事のある川平湾近くの黒蝶真珠の店を思い出す。
以前投資家仲間の一人が、妻への土産を買う為に立ち寄った店だ。
その店では石垣島で養殖した黒蝶真珠のジュエリーを販売していた。
健吾はそこへ理紗子を連れて行こうと思った。
そして石垣島での最後の夜は、とっておきのレストランへ連れて行こうと計画していた。
(どのレストンにするかな?)
そう思案していると、誰かからの視線を感じた。
その視線は、斜め向かいのテーブルから来ている。
健吾がさりげなくその方向をチェックすると、50代位の男性と理紗子と同年代の女性が向かい合って座っていた。
健吾に向けられた視線は、女性の方から注がれていたようだ。
女性は色白でグラマラスなタイプで、ゆるくウェーブがかかった艶のある髪は良く手入れされている。
タイプ的には、今まで健吾が付き合ってきた派手な女達と同類のようだ。
家事とは無縁の真っ白い華奢な手の先には隙のないネイルが施されている。
身に着けているワンピースは上品ではあったが露出度がかなり高い。
その装いは、南の島の朝のレストランでは少し浮いていた。
その派手な女は、艶々と不自然は光を放つ唇を半開きにしながら健吾に熱い視線を送ってくる。
健吾はこういった事には度々遭遇するので、特に気にする風もなく黙々と食事を続けた。
そこへパイナップルジュースをおかわりした理紗子が戻って来た。
理紗子はパイナップルジュースでご満悦だ。
「パイナップルジュースが飲み放題なんて天国よ!」と興奮している。
健吾はそんな理紗子の事が可愛くて仕方がなかった。
理紗子の服装は、今日はジーンズに黒のVネックのサマーセーターというごくごく普通のスタイルだ。
髪は後ろで一つに結び、耳にピアスをつけているだけのシンプルな装いだ。
服装や色気では斜め後ろの女に負けているのに、健吾にとっては理紗子の方がはるかに魅力的だった。
着飾った女よりもジーンズの女の方に魅力的に感じる?
つまりそれはそういう事なのだ。
健吾自身にはその答えがわかっていた。
コメント
3件
理紗子ちゃんが飲みすぎないように 酒量までコントロールしたりw 完璧なエスコートぶりの健吾さん.... 自然体で飾らない 理紗子ちゃんが、本当に大好きなのですね~♥️🤭 理紗子ちゃん大好き~😍の健吾さんと、少し天然で抜けてるところのある理紗子ちゃん.... お次のデート&恋の進展にもワクワクして、目が離せません💕
そうそう!Simple is best✨健吾の周りにはいなかったから気付かなかったんだね。 どんなボンキュッパッのお色気ムンムンが現れてもアウトオブ眼中✖️ヾノ(*^ᗜ^*)サイナラー
もう熱い視線を送ってくるような女の類には飽きたってことですね😆🤭 目の前の自然体な理沙ちゃんだけが健吾のハート💞を鷲掴みにしてるのを知らないこの女👩 アプローチしても無駄なんだけどなぁ🥀