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萩原なちち
朝。
森の外れに、小さな騒ぎが起きていた。
「まただ……また人狼の仕業だ!」
「昨日の夜も誰かがやられたって……!」
ざわつく村人たち。
恐怖と怒りが入り混じった声。
その少し離れた場所で——
「……はぁ」
一人の男が、木にもたれかかっていた。
「全部、俺のせいかよ」
面倒くさそうに呟くが、その目は笑っていない。
自分がやっていない罪。
それでも、押し付けられる現実。
「……くだらねぇ」
その時。
「おはよー!」
——場違いなほど明るい声。
「…………は?」
振り向いた先にいたのは、あの少女。
赤いフード。
変わらない笑顔。
「また会えたね!」
「……なんでここにいんだよ」
「んー?散歩!」
軽い。
あまりにも軽い。
男は深くため息をついた。
「お前な……昨日のこと、分かってんのか」
「昨日?」
首をかしげる。
「人、殺してたろ」
「あー!」
ぱっと顔が明るくなる。
「やったやった!」
まるで楽しい思い出を語るみたいに。
男の眉がぴくりと動く。
「……お前、俺が怖くないのか?」
低い声。
「人を殺したって言われてんだぞ」
少女は、きょとんとしたあと——
すぐに笑った。
「え?」
そして、あっけらかんと言う。
「私が殺した30人に比べれば、1人なんて大したことないよ!」
にこにこしながら。
「気にしない気にしない!」
——沈黙。
風が、二人の間を通り抜ける。
「…………お前」
男は、ゆっくりと言葉を吐いた。
「頭おかしいだろ」
「よく言われる!」
即答だった。
悪びれも、怒りもない。
ただの事実みたいに。
「でもさ」
少女は一歩近づく。
「お兄さんも変だよね」
「……は?」
「だって人狼なんでしょ?」
じっと見上げる。
「なのに、人殺してないんでしょ?」
その言葉に、男の動きが止まる。
「……」
「変なの」
くすっと笑う。
「怪物なのに、優しいんだね!」
——胸の奥が、少しだけざわついた。
「……勝手に決めんな」
目を逸らす。
関わるべきじゃない。
そう分かっているのに——
「ねぇ」
少女がまた声をかける。
「今日も一緒に遊ぼ?」
「断る」
即答。
だが少女は、やっぱり気にしない。
「そっか!」
にこっと笑って——
次の瞬間。
ガサッ、と茂みが揺れた。
「いたぞ!人狼だ!」
村人たちの声。
武器を持った数人が、こちらへ駆けてくる。
「……チッ」
男は舌打ちした。
「お前、離れろ」
「えー?」
「いいから!」
その瞬間——
男の体が、変わる。
骨が軋み、筋肉が膨れ上がる。
毛が生え、牙が覗く。
人ではない姿。
——人狼。
「……っ!」
村人たちが一瞬たじろぐ。
その隙を見て、男は動こうとするが——
「わぁ!」
少女の声。
振り向くと、そこには——
目を輝かせた赤ずきん。
「かっこいい!!」
——最悪だった。
恐怖も、悲鳴もない。
ただの“興味”。
「ねぇねぇ!」
嬉しそうに駆け寄ってくる。
「やっぱりお兄さん、人狼じゃん!」
「……だからどうした」
低く唸るように言う。
少女は、満面の笑みで——
「もっと好きになった!」
そう言った。
その無邪気さに、
人狼は初めて——
“恐怖”を感じた。
コメント
2件
え、天才じゃん(元からそう)