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萩原なちち
コメント
1件
表現の仕方とかがもう神でしょ
森の奥。
荒い息だけが響いていた。
「……っ、はぁ……!」
人狼は走っていた。
その後ろには、武器を持った村人たち。
「追え!逃がすな!!」
怒号が飛ぶ。
「……ちっ、しつこいんだよ」
舌打ちしながらも、速度は落ちない。
——本気を出せば振り切れる。
でも。
「ねぇー!待ってよお兄さーん!」
後ろから、場違いな声。
「……は?」
振り向く。
そこには——
赤いフードの少女が、普通に走ってきていた。
「なんでついてきてんだよ!?」
「だって楽しそうだから!」
即答だった。
「遊びじゃねぇんだぞ!!」
「えー?」
不満そうに頬を膨らませる。
その間にも、村人たちは距離を詰めてくる。
「いたぞ!!」
「二人まとめてやれ!!」
矢が放たれる。
「——っ!」
人狼は咄嗟に動いた。
ガキンッ、と音が響く。
矢は弾かれた。
「……お前、離れろって言っただろ」
低い声。
だが少女は、きょとんとしている。
「なんで?」
「巻き込まれて死ぬぞ」
「別にいいよ?」
あっさりとした返事。
「死ぬの、そんな怖くないし」
——その一言で。
人狼の動きが止まる。
「……は?」
「だってさ」
少女は笑う。
「壊れるだけでしょ?」
軽い。
あまりにも軽い。
「……お前なぁ」
イラつきが混じる。
「簡単に言うなよ」
「簡単だよ?」
首をかしげる。
「みんなすぐ壊れるもん」
——ダメだ。
こいつは。
「……」
一瞬、考える。
ここで——
捨てればいい。
そうすれば、身軽になる。
逃げ切れる。
無駄なリスクも背負わなくて済む。
(どうせこいつは——)
まともじゃない。
助ける価値なんてない。
(……なのに)
足が、動かない。
「お兄さん?」
少女が覗き込む。
無防備な顔で。
「どうしたの?」
——なんでだよ。
こんな奴。
「……くそ」
頭をかく。
「面倒くせぇ……」
そう吐き捨てて——
人狼は、少女の腕を掴んだ。
「え?」
「いいから来い!!」
ぐいっと引き寄せる。
そのまま、方向を変えて走り出した。
「わっ!」
少女が楽しそうに笑う。
「なにこれ!逃げるの!?」
「黙ってろ!!」
背後で叫び声。
「逃げたぞ!!」
「追え!!」
森はまだ深い。
逃げ道はある。
だが——
「……はぁ、はぁ……」
息が荒くなる。
一人なら、もっと楽だった。
確実に。
「……なんで」
ぽつりと漏れる。
「なんで助けるんだよ……」
誰に向けたでもない言葉。
すると——
「優しいからでしょ?」
あっさり返ってきた。
「違ぇよ!!」
即否定。
「じゃあなに?」
「……っ」
言葉が詰まる。
少女は、くすっと笑った。
「変なお兄さん」
楽しそうに。
心から楽しそうに。
「でもさ」
少しだけ、声が柔らかくなる。
「そういうとこ、好きだよ?」
——その瞬間。
胸の奥が、妙にざわついた。
「……は?」
理解できない感情。
イラつきとも違う。
嫌悪とも違う。
ただ——
「……ほんと、意味わかんねぇなお前」
吐き捨てるように言う。
少女は笑う。
「よく言われる!」
森の奥へ。
二人は消えていく。
追手の声は、まだ遠くにある。
それでも——
人狼はもう、気づいていた。
自分が“見捨てられなかった”ことに。
そしてそれが、
これからもっと面倒なことになると——
分かっていながら。