翌朝、二人で朝食を済ませてから、直也は自宅へ帰った。
直也を見送った栞は、すぐに出かける準備をして大学へ向かった。
電車に揺られながら、昨夜のことを思い返す。直也の男らしい仕草や耳元で囁かれた愛の言葉が脳裏をよぎり、自然と頬が緩む。栞の胸には、小さな幸せが広がっていた。
その時、電車が大きく揺れたので栞はハッと我に返った。
(ダメダメ、しっかりしなくちゃ!)
自分に喝を入れると、栞はつり革を握り直し、窓の外に流れる景色を眺めた。
二時限目の授業を終えた後、栞は愛花とカフェで待ち合わせをしていた。
栞の昨夜の話を聞きつけた彼女は、どうしても直接話が聞きたいらしい。
栞がマフィンとカフェオレを買って席に着くと、ほどなくして愛花がやってきた。
「栞! 早く話が聞きたいよぉ~! でも、その前にお昼買ってくるね!」
愛花は期待に胸を膨らませつつ、注文カウンターへ向かった。
(ふふっ、絶対根掘り葉掘り聞かれるだろうなぁ)
栞はクスッと笑いながらカフェオレを一口すする。その時、店内にカツカツとヒールの音が響いた。
咄嗟に振り返ると、そこには予想外の人物、元義理の姉・華子が立っていたので、栞は緊張感に包まれた。
華子は、胸元が大胆に開いたカットソーにミニスカートを履いていた。そして、腕を組んで挑むように栞を睨んでいる。
「栞ちゃん、こんにちは! また、会ったわね」
「こんにちは」
「ちょっと小耳に挟んだんだけどぉ、栞ちゃんって、結構遊んでるんですって?」
突然そんなことを言われ、栞はカチンときた。
「何が言いたいんですか?」
「悟から聞いたの。私、あなたが好きなのは、貝塚教授なんだと思っていたわ。でも、他に恋人がいるんですって? びっくりしちゃった!」
華子はわざとらしく驚いた表情を浮かべ、その芝居がかった様子に栞は嫌悪感を抱いた。
「で、それが何か?」
「せっかくだから、貝塚教授にそのことを教えてあげようかなって思ってね! 栞ちゃん、二股なんてしたらダメよぉ」
(あなたに言われたくないわ!)
栞は心の中でそう呟きながら、何と言い返そうか考えていた。その時、愛花が戻ってきた。
「栞、お待たせ~! あらっ? お知り合い?」
愛花はそこにいるのが栞の元姉・華子だと気付いていたが、わざと知らないふりをした。
助演女優賞をあげたいほどの名演技だ。
「ううん、違うよ。なんでもないの。さぁ、食べよう! 午後の講義に遅れちゃうから」
栞は華子を無視し、マフィンを食べ始めた。向かいに座った愛花も、サンドイッチを食べ始める。
無視された華子は、むすっとした表情を浮かべ、忌々しそうにその場を立ち去った。
その後ろ姿を見ながら、愛花が栞に聞いた。
「大丈夫?」
「うん、平気だよ。ありがとう」
「何言われたの?」
「『貝塚教授に興味があるんだと思っていたら、別に彼氏がいて驚いちゃったわ!』だって。おまけに、『二股はダメよ~』って忠告までされちゃった」
栞は思わず苦笑いをした。
「ああ、貝塚教授のお友達のことを勘違いしてるんだ。嘘を鵜呑みにして踊らされちゃって、本当に馬鹿だね~! それに、もう姉じゃないのに、いい加減放っておいて欲しいよね~」
「ほんとそう! もう私に関わらないでほしい」
「あの人って四年生なんでしょう? 就職決まったのかな?」
「どうなんだろうね? この時期になってもサークル活動でしょっちゅううちの大学に来るなんて、よっぽど暇なんだろうね」
「たしかに……」
そこで、愛花が急に思いだしたように言った。
「あんな女の話はどうでもいいの! 栞、私はあっちの話が聞きたいの! で、どうだったの?」
愛花の瞳は期待に溢れている。
「いろいろとご心配をおかけしましたが、とうとう私も大人の仲間入りをしました~!」
栞の報告を聞き、愛花は笑顔で拍手した。
「おめでとう! これで、やっと栞とそういう話ができる! 待ってたのよぉ~、こっち側へようこそ~!」
「おじゃましまーす!」
二人は顔を見合わせ、クスクスと笑った。
「で、感想は?」
「愛花に痛いって聞いてたけど、思ったより痛くなかった」
「わぁ♡ 貝塚教授、オットナ~だから経験豊富で上手なんだぁ♡ 羨ましい~!」
「そうかな?」
「そういうことでしょ!」
「うん」
「で、ちゃんと避妊はしてくれた?」
「たぶん……」
「たぶんって何よ」
「いつ着けたのかわからなくて、気付いたらしてたっていうか……」
「くぅーっ! そういうところを女に見せないんだ……さすが大人だわ!」
「それって、慣れてるってことだよね?」
「当然でしょ! あんだけイケメンでマッチョなんだよ? おまけにサーファーの医者だし! それプラス、本も出している有名人なんだもん、当然モテるでしょ?」
「そうだよね」
「うん。だから、余裕で栞のことを導いてくれたってわけね! キャーッ! なんかこっちが照れちゃう!」
「愛花が照れてどうすんの?」
「フフッ、まあでも、着けてても完璧に避妊できるとは限らないから、栞も基礎体温をつけるといいよ」
「え? 愛花はつけてるの?」
「うん、隼人と付き合い始めてからつけ出した。つけると便利だよ。自分のバイオリズムがわかるしね」
「ふぅん、そうなんだ」
「とにかく、栞が大人の階段を上ったことに乾杯しなくちゃ! よーし、今日も奢っちゃうよ~!」
「やったぁー! じゃあ、二杯目はチャイティーラテがいい!」
「了解! ちょっと待ってて!」
愛花はそう言うと、追加注文をしにカウンターへ向かった。
愛花が買ってくれたおかわりを飲みながら、二人の話はさらに盛り上がった。
そして、午後の講義の時間が近づくと、二人はカフェを後にして講義室へ向かった。
コメント
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分からないうちにつける?すごくない??(笑)
直也先生の手慣れたゴムさばき〜♡ その華麗なる早わざを、ぜひぜひ特別授業で見せて下さいԅ( ¯ิ∀ ¯ิԅ)グヘヘヘ 栞ちゃん 基礎体温つけても ゴムつけても 出来るときは出来る! 愛は薄膜を越えちゃうから〜♡(使い回しのコメすみません) 暑さで頭が回らない。
瑠璃マリ先生「結衣が照れてどうするの」は「愛花が照れてどうするの」ではないでしょうか?