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翌日、大学を終えた栞がバイト先へ向かっていると、直也からメッセージが届いた。
【その後、体調は大丈夫かな?】
栞の体調を心配する言葉に、思わず嬉しくなる。
【大丈夫です。あ、でも、少し筋肉痛かも】
【おいおい、若いのにどうした?(笑) 僕は筋肉痛なんてないぞ! もしかして身体は僕の方が若いってこと?】
直也からの返事の後、続いてドヤ顔をしているキャラクタースタンプが送られてきたので、栞は思わずクスッと笑った。
そして、『参りました~』というウサギのスタンプを送った。
休憩中、医局で携帯を見ていた直也は頬を緩めると、コーヒーを一口飲んでから再びメッセージを送信した。
【明日の夕食、外で一緒に食べない? バイトなかったよね?】
直也からの誘いを見て、栞は胸が弾んだ。
【はい、ないです】
【じゃあ、7時にマンションの前に行くから、準備しておいて】
【わかりました。楽しみにしています!】
栞はそう返事を送った後、再びうさぎが飛び跳ねているスタンプを送信した。
それを見た直也は、静かに微笑みながらもう一度メッセージを送った。
【愛してるよ】
いきなりそんなメッセージが届いたので、栞は驚いたが、彼女はほんのり頬を染めたまま、こう返した。
【私もです】
栞からの返事を見た直也は、静かに微笑みを浮かべた。
【嬉しいよ! じゃあ、明日ね!】
その時、電車がアルバイト先の最寄り駅に到着した。電車を降りた栞は、歩きながらふと思った。
直也との交際が始まってから、まるで世界が一変したような気がする。恋には、瞬時に周囲の景色を変えてしまう力があるのだ。
あの日過呼吸で倒れた時は、まさかこんな幸せな日が訪れるなんて、夢にも思わなかった。
栞はその時、運命の不思議を感じていた。
(さてと、バイト頑張ろうっと!)
心の中でそう呟くと、栞は軽やかな足取りで改札を通り抜けた。
翌日、栞はマンションの前で直也の迎えを待っていた。二人が深い関係になってから、初めてのデートだ。
この日の服装は、大柄チェックのフレアースカートに、黒のカットソーを合わせる。
外に出てから数分後、直也の車が目の前に停まった。
栞が助手席に乗り込むと、直也がにっこりしながら声をかけた。
「お待たせ! じゃあ、行こうか!」
「はい。今日はどこに行くの?」
「飛行機が見える場所だよ」
「えっ?」
「未来のキャビンアテンダントさんには、刺激になるだろう?」
「わぁ、楽しみ!」
目的のレストランに向かう間、二人は互いにその日あった出来事を報告し合った。
やがて、車は目的のレストランに到着した。
店は、都会の賑やかな地域から少し離れた静かな場所にあった。
車が駐車場に停まると、二人は車を降りて二階建ての店舗へ向かった。
黒を基調としたシックな外観の店は、階段を上った先にあった。
階段を上がり店に入ると、スタッフが笑顔で二人を迎えた。
「7時半に予約をしていた貝塚です」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
スタッフは、店の奥へ二人を案内した。
「先生、予約してくれていたの?」
「うん。その方が待たなくて済むからね」
栞は、直也がわざわざ予約してくれていたことを知り、嬉しくなる。
二人が案内されたのは、店の一番奥の角席だった。そこは、一面ガラス張りになっていて、空港の夜景がくっきりと見渡せる場所だった。
「すごい! 空港が見える!」
「離発着も見えるね」
「素敵! お店から全部見えるなんて感動だわ!」
栞はその美しい夜景にすっかり心を奪われた。
そこで、直也がメニューを広げながら栞に尋ねる。
「この店はグリル料理がメインなんだけど、どれが食べたい?」
外の景色に見とれていた栞は、名残惜しそうにメニューに視線を移した。
そこには、ステーキやハンバーグのグリルの他、魚貝のアヒージョやカルパッチョ、色とりどりのサラダや温野菜、クリスピークラブフリットやソーセージの盛り合わせなど、魅力的な料理がずらりと並んでいた。
二人は迷った末、いくつかの料理を頼んでシェアすることにした。
栞が選んだのは、アボカドとサーモンのタルタル風、グリルビーフのサラダ仕立て、そしてクリスピークラブフリット。
直也は、ホタテとイカのアヒージョ、Tボーンステーキ、ムール貝の白ワイン蒸しを頼んだ。
飲み物は、直也がノンアルコールビールを、栞がジンジャーエールを頼んだ。
飲み物が運ばれてくると、二人は乾杯した。その瞬間、空港から飛行機がゆっくりと離陸していく。
「あっ、飛び立った!」
「夜の空港って、綺麗だなぁ」
「ほんと、すごくロマンティック!」
そこで直也が栞に聞いた。
「来年はいよいよ就活? 航空会社一本で行くの?」
「ううん、キャビンアテンダントは競争率が高いから、一般企業も受ける予定です」
「そっか。忙しくなるから、今のうちにしっかり遊んでおかないとな」
「はい。だから、今年サーフィンができてよかったかも! 来年はきっとそんな余裕ないし」
「じゃあ、この夏は思い切り楽しまないとな!」
直也はそう言いながらグラスを口に運ぶ。
その後も、二人の楽しい会話は続いた。
お互いの子供時代や、好きだった歌手、映画について語り合った。歌手や映画の話題では、世代のギャップが浮き彫りになる。
直也がお気に入りのアーティストを挙げると、栞は知らないと笑いながら首を振る。
14歳の歳の差は、二人がこれまで見てきた景色の違いを実感させたが、それは決して二人の愛を隔てる理由にはならない。
楽しい会話が一段落すると、再び飛行機が夜空に向かって離陸した。その美しい光の航跡に、栞の視線は釘付けになる。
そんな栞を、直也は穏やかな表情で見つめていた。
食事が終わり店を出ると、栞は直也に礼を言った。
「先生、素敵なお店に連れて来てくれてありがとう」
「喜んで貰えて良かったよ。じゃあ帰ろうか」
時刻はすでに午後9時半を過ぎていた。帰り道は空いていた。平日の帰宅ラッシュも落ち着いたようだ。
栞は車窓を流れる景色を楽しそうに眺めている。
そんな栞をちらりと見て、直也が言った。
「今夜うちに泊まらない?」
「えっ?」
「栞は、まだうちに来たことないでしょ? だからどうかなと思って」
その言葉に、栞の胸が高まる。彼の住まいがどんな場所か、正直興味はあった。
しかし、泊まるとなると、また直也に抱かれるかもしれない。
初めて直也に抱かれた時、栞はもちろん嬉しかった。しかし、いまだに身体に少し痛みが残っており、その不安からなんとなく気持ちを消極的にさせていた。
そんな栞の心情を察していたかのように、直也は優しくこう付け加えた。
「今夜は何もしないから安心して」
「えっ?」
「まだ痛みが残ってるんだろう? だから、今夜は何もしないよ。一緒に添い寝するだけね!」
「それでいいの?」
「うん。栞の体調が完全に戻ったら、またチャンスはあるし」
「…………ありがとう」
「どういたしまして!」
直也はにっこりと微笑みながら、栞を安心させた。
車が直也のマンションの駐車場へ到着すると、二人は手を繋いでエレベーターへ向かった。
ちょうど降りてきたエレベーターに乗り、直也はすぐに14階のボタンを押した。
「14階なの?」
「そうだよ。最上階だ」
「わぁ、景色がすごそう!」
「夜景は綺麗だよ」
14階に到着すると、直也は栞を案内しながら廊下を進んだ。
部屋の前に着くと、鍵を開けて栞を先に中へ入れる。
「さぁ、お嬢様どうぞ!」
少し緊張しながら、栞は玄関へ足を踏み入れた。男性の一人暮らしの部屋に入るのは、これが初めてだ。
「お邪魔しまーす」
直也が出してくれたスリッパを履き、栞は言われた通りに廊下を進み、一番奥の扉を開けた。
すると、広々としたリビングが目に飛び込んできた。
そして、栞は思わず一面ガラス張りの窓辺へ駆け寄った。
「先生、すごい! こんな綺麗な夜景が見えるなんて……」
「この景色が気に入って、ここを選んだんだ」
「本当に素敵! 毎日この夜景が見られるなんて、贅沢過ぎます!」
栞が窓辺に張り付いていると、直也がそっと近づき、背後から栞を包み込むように抱き締めた。
「この景色を君と一緒に見たかった……」
「先生……」
「やっと念願が叶ったな」
「それなら良かった……でも本当に綺麗……」
「栞! これからも、ずっと一緒に見ような」
「ずっと?」
「そう、ずっとだ。もう僕は君を離さない」
直也はそう言うと、さらに強く栞を抱き締めた。
あまりにも力強いその抱擁に、栞は思わず身をよじる。
「おっとごめん。きつかった?」
直也は慌てて力を緩める。その緩さに栞はもの足りなさを感じてしまう。
そして、直也にこう言った。
「ううん、もっと強くギュッとして」
それから栞はくるりと向き直ると、正面から直也に抱き付いた。
「こうがいいの。もっとギュッとして!」
甘えるような栞の声に、直也は頬を緩ませる。
「わかったよ。こうかな?」
そう言いながら、直也は栞をしっかりと抱き締めた。
ガラスに写り込んだ美しい夜景の上に、二人のシルエットが重なる。
二人は笑い声を響かせながら、いつまでも強く抱き合っていた。
コメント
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もぅプロポーズじゃんかー💓💓💓 直也さんのデートプラン❤️🩷が栞ちゃんの溺愛を表現してて羨ましい🥰 歳の差も気にならないし栞ちゃんの身体と気持ちをしっかりと気遣ってくれる直也さんと栞ちゃんのハグ🫂の情景もしっかり伝わってくるのがとても嬉しいわぁ😊🩷🧡
昔、愛があれば年の差なんて…って言葉あったけど、それをじで行く直也先生と栞ちゃん!これからの結び付きが、とても楽しみです😊
夜の飛行機見ながらの食事はロマンティックだわ( *´艸`) それに直也さんちにお泊りなのもドキドキ💗 しかも身体を気遣ってくれるなんて優しい💕💕 こんなふうに労って貰えたら嬉しいね。 プロポーズ感のような会話もきゅん⸜(。˃ ᵕ ˂ )⸝♡年の差があるから包容力たっぷりで安心感半端ない(。•̀ᴗ-)و ̑̑💗💗