凪子が待ち合わせの店へ着くと、既に紀子は来ていた。
「お待たせ!」
「お疲れー! で、どうしたの? 急に?」
「うん、あのね、ちょっと相談があるんだ…」
そこで店のスタッフが来たので一時話しを中断する。
この店は創作和食料理の店なので、
二人はそれぞれ好きな料理をいくつか注文しシェアする事にした。
そして生ビールも二つ頼む。
すぐにビールが運ばれて来たので、二人は乾杯した。
「そう言えば、今日柊斗くんは? 大丈夫なの?」
「うん、今日は紘一が早く帰れるっていうから頼んできた」
柊斗は紀子と紘一の長男だ。今年で三歳になる。
今が一番可愛らしい年頃だ。
「紘一さん、ほんと子煩悩だよねぇ…紀子は本当にいい人を捕まえたよ…」
「ふふっ、そうかな?」
紀子は嬉しそうに微笑む。
「で、何よ、相談って…」
「うん…実はさ、アヤシイんだよね…」
「何が?」
「良輔が!」
「えっ……? それって、もしかして浮気?」
「うん…まだ確定じゃないんだけれどね、でも限りなく黒に近いと思う」
そこで凪子は香水の件、旅館のハガキの件、そして会社の派遣社員・絵里奈の事を話した。
もちろん、土曜日の朝の上機嫌な良輔についてもだ。
「それって、黒っぽいなぁ…」
「でしょ?」
「で? どうするの? これから」
「とりあえず、信頼できる興信所を教えてもらえないかな? 紘一さんのツテでどっかない?」
「マジで調べる気?」
「うん、証拠は掴まなくちゃ!」
「それって、つまり良輔さんと別れるって事?」
「おそらくそうなると思う」
「なんかすごくあっさりしてない?」
「そう? だって、浮気したら別れるって結婚前に宣言していたし…」
「そうじゃなくってよ! 本当に別れていいの? 一応好きなって一緒になったんでしょう?」
「うーん…どうなんだろう? 好きだったのかなぁ? どっちかって言ったら向こうが積極的でこんなもんかなぁって勢いで結
婚しちゃったようなもんだし…」
「嘘っ! 私覚えてるわよ! プロポーズされた翌日、凪子すっごく嬉しそうに私に報告してくれたじゃない!あの時の凪子は
恋する女って感じで、すごく眩しかったんだよ!」
「うーん…そんな時期も確かにあったかもしれないけれど…でもさ、あんな女と浮気するほど馬鹿な男だったのかって思った
らさ、百年の恋も冷めちゃうよ…」
「それはそうかもしれないけれど…でも結婚してまだ二年目でしょう? 結婚生活を解消するには早すぎるんじゃない?」
「だからよ! まだ二年目? そうよ二年目よ! まだたった二年なのに、浮気をする男ってどう?
この先も一緒にいる価値なんてあるの? 私は逆にまだ二年だから早い方がいいって思うの」
「…………」
紀子は何も言えずに黙る。
そしてしばらくじっと考えた後、凪子に言った。
「わかったわ! 興信所の件は帰ったら紘一に聞いてみる! あとね、私も協力するから! 私は凪子の味方だよ! 何か出来
る事があったらなんでも言って!」
「紀子ありがとう!」
凪子は笑みを浮かべて言った。
それから二人は作戦を練り始める。
「私が考えているのはね、私は浮気に気づいていないふりを通そうと思って!」
「えっ? そうなの? 見て見ぬふりなんて出来る? 相当忍耐が必要だと思うけれど…」
「うん、そこはなんとか頑張ってみる! でね、あの女にマウント返しをするの!」
「マウント返し?」
「そう…あえて良輔と夫婦仲が上手くいっているふりをするのよ」
それを聞いた紀子は驚いた表情をする。
「ちょっと待って、そんな相手を刺激するような事をして大丈夫?」
「もちろん、それが狙いなんだから!」
凪子はそう言ってニヤッと笑った。
「ひゃーっ、私、凪子を絶対敵になんて回さないって誓うわ! 恐ろしい~!」
「だってさ、香水の匂いをつけてきたり、車のシートの角度をわざと変えたりって、私を挑発するのが目的でしょう? 向こう
が喧嘩を売って来たんだから買ってやるわよ!」
「出た出た、凪子の売られた喧嘩は全部買う~の姿勢! モデル時代はその正義感で私も何度助けてもらった事か…」
「フフッ、あの頃は酷かったよね! モデル同士のマウントの取り合いがハンパなかったわ! あんなに凄まじい戦場を乗り越
えて来たんだもの、絶対に負けるもんですか!」
凪子は力強く言った。
「うん、やるなら徹底的にやり返しちゃえ! とりあえずもう一回乾杯しようよ! マウント女の撃退作戦! 絶対成功させよう!」
紀子は鼻息を荒くしながら言うと、手を挙げてスタッフを呼んだ。
コメント
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凪子さんの闘争心に🔥を付けた良輔と良輔の不倫相手、絵里奈‼️若さだけの女に大人の余裕を見せつけて目にモノを見せてやって!!今に地獄に堕ちたゃうよ😎