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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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副社長室を追い出されて、私は秘書室の自分の席で充さんから預かった領収書の束を整理していた。

まさか、蒼がこんな大胆な行動に出るとは思っていなかった。

町こと宮内は、社長の使いで外出した。

三日間、蒼に言われたことを考えていた。

蒼の言いたいことはわかるつもりだ。

真にも何度となく言われた。

『もっと自分を大切にしろ』

大切に思う人たちが幸せであることで、私は満たされていると思う。


それが、思い上がりなのだろうか……。


数字との睨めっこが終わった時、デスクの直通電話が鳴り、副社長室に呼ばれた。

「お前が男なら、一発殴ってるところだ」

部屋に入るなり、充さんが言った。

「俺の会社で俺を部外者扱いとはいい度胸だな」

充さんの目は真剣だった。

蒼も充さんも私を否定する。

無性に腹が立った。

「まだ、あなたの会社じゃないでしょう」

私は腕を組んで、充さんの目を見返した。

「あ?」

「敵のいいように踊らされたくせに」


あ、この言い方はまずい。


「咲、言葉を——」


くそっ——。

誰もかれも、ムカつく!


「宮内は私の獲物よ。T&Nを食い物にされたくなきゃ、私の掌で踊りなさい!」

「くっっっ……!」

私の剣幕に目を丸くしている充さんをよそに、蒼が声を殺してお腹を抱えていた。

「蒼……。お前の女、怖すぎだろ」

「あははははっ……!」


は……?


「何、笑ってるのよ!」

「格好良過ぎだろ! やべぇ、惚れ直した」

蒼は涙を浮かべて、大笑いしている。

「ふざけないで!」

「俺も女がいなきゃ、絶対惚れてるわ」

「充さんまで!」

「本音言って、すっきりしたろ?」

「はっ?」

蒼が涙を拭って、私を見た。

「色々小難しいこと言ってたけど、今のが本音だろ?」


本音……?


「いざとなったら自分を切り捨てろ、なんて言ったけど、お前負ける気ないだろ」

「…………」

「面倒くせぇ理由を取って付けまくるからややこしくなるんだよ。認めろよ。そしたら、いくらでもお前の掌で踊り狂ってやるよ」

「掌と言わず、ベッドでもいいぞ?」

充さんが面白がって言った。

「兄さん……、病院のベッドで踊りたいの」

蒼が頬を引き攣らせて言う。

「冗談も通じないなんて、お前余裕ないねぇ」

「前科があるからだろ!」

蒼に言われて、胸のつかえがストンと落ちたように軽くなった。

『お前負ける気ないだろ』


そうか……。

そうだ……。


「副社長、体調が優れないので早退させてください」

「咲……?」

「いいけど、どうした?」

「蒼に踊ってもらおうかと思って、ベッドで」

私は蒼の腕を引いた。

「行こう、蒼」


*****


「はい」

蒼のマンションに着くと同時に、私のスマホが侑からの着信を伝えた。

『宮内は京都に向かったようだ』

「そのまま追跡して」

玄関の鍵を掛けるなり、蒼が私を背後から抱き締めた。耳に触れる蒼の唇が熱い。

『川原を動かされたらどうする?』

蒼の指が、私のスーツのボタンを外していく。

「きっと、東京に戻ってくるわ」

『手元で監視するか』

「でしょうね」

私がどこまで耐えられるかを試すように、蒼の手が私の胸を弄る。

「侑、どんなことをしても川原を見つけて」

『了解』

通話が切れると同時に、私は蒼に抱き上げられた。

つい最近も、こんなことがあった。

「川原は見つかりそうか?」

「侑が見つけるわ」

「怒った?」

蒼が私をベッドに座らせて、はだけたシャツを脱がせる。

「勝手なことして」

「あなたは私の部下じゃないもの」

私も蒼のネクタイを解き、シャツのボタンを外す。

「けど……」

「けど?」と聞き返して、蒼が私の胸に顔をうずめた。

蒼の舌が、私の思考を鈍らせる。

「んっ……」

「何だよ?」

「こんな危ないこと——」

蒼の指が私の中に押し入ってきて、言葉を遮る。

「あっ——」

蒼に与えられる快感に、私はそれ以上何も考えられなくなってしまった。


*****


「そういえば、清水は放置か?」

セックスの後、蒼が聞いた。

「あれ? 言ってなかったっけ……」

私は蒼の鼓動を聞きながら、うとうとしていた。

「病院にいるわ」

「病院?」

「懲戒免職になってすぐに、酔って歩道橋の階段を転落したの。右足が解放骨折、左腕が粉砕骨折で後遺症が残るらしいわ」

「そうか……」

蒼に頬を撫でられ、私は犬か猫にでもなった気分で、彼の手にすり寄っていた。

「二週間後の広正伯父さんの引退前の慰労パーティー、麗花さんと出席するように言われたよ。婚約者として」


婚約者……。


そこに蒼の気持ちがないことはわかっているのに、肺を握られたように息が苦しい。

「お前が嫌なら行かない」

「えっ?」

「咲が嫌なら、パーティーには行かないよ」

蒼が身体を起して私の顔を覗き込んだ。

「いいの? 俺が他の女の婚約者になっても」


いいわけない……。


本当は、二人で食事に行くのも嫌だ。

他の女の香りをまとって欲しくない。


だけど……。


「フリ……なんだし……」

今は、蒼が城井坂のお嬢様との見合いを続行させなければ、時間は稼げないし、敵の目的を探れない。

「咲は素直じゃないな」

「え……」

蒼が私の瞼にキスをした。

自分の目に涙が溢れていることに、気がつかなかった。

「俺はムカついたよ。お前が他の男のことばっか考えてるの」

「はっ?」

蒼の唇が私の頬や顎に下りていく。

「私がいつ……」

蒼の手が私の胸を撫でる。

「川原がどこにいるかとか……」

蒼の足が私の足を開いていく。

「宮内を捕まえるとか……」

蒼の指が私の身体を濡らす。

「そんっ……なの——」

快感に身体が痺れて、言葉にならない。

「愛情でも執念でも、憎悪でも、お前が俺以外の男のことばかり考えてるのは、ムカつくよ」

「ああっ——!」

力任せに揺さぶられて、また、思考が停止する。

「俺と離れようなんて、許さないからな」

蒼がまた、私の気持ちを言った。

女は秘密の香りで獣になる

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