その頃、優羽と流星はトロリーバスに乗っていた。
ここまでは、バス、ケーブルカー、そしてロープウェイを乗り継いで来た。
流星はケーブルカーとロープウェイに初めて乗ったので大喜びで興奮している。
途中、今までに見た事がないような長いトンネルをバスで抜けたり、途中黒部ダムにも寄った。
流星は小さいので、ダムについてはまだよく理解していないようだったが、
ダムから水が勢いよく放水される様子を興味深げに見つめていた。
最後に乗ったトロリーバスは、バスの上に電車のような架線がついているので、まるで電車みたいだねと興奮していた。
そして、トロリーバスが最終目的地の室堂に着くと、
見渡す限りの大自然を見てそこがいつもいる場所とは違う事に気付いたようだ。
バスを降りた流星は、目の前に広がる景色を見て、
「ママ、おおきなおやまがいっぱい、しゅごいねぇ」
そうしみじみと言ったので優羽は思わず微笑んだ。
それから二人はみくりが池まで散策をした。
まだ夏休み前なので、観光客はそれほど多くはなかった。
時計を見るとお昼を過ぎていたので、優羽ベンチに座りここで昼食を取る事にした。
二人は山荘の三橋が作ってくれた弁当を食べる。
大自然の中で食べるおにぎり弁当は最高に美味しかった。
流星はほっぺたにご飯粒をつけながらもりもりと食べた。
優羽は小食気味の流星がいつもより沢山食べているのを見て、自然が与える力は凄いなぁと思った。
食後、流星は一人で辺りを歩き始める。
この辺りは、石畳がの遊歩道になっていてとても歩きやすい。
優羽はあまり遠くまで行かなければお散歩してきてもいいわよと流星に言った。
すると流星は嬉しそうに一人でてくてくと歩き始める。
しかし緩い下り坂になった辺りで流星の歩みはどんどん加速し、優羽が「危ない!」と思った瞬間、
流星は転んでしまう。
「えーん、いたいよぉ、えーん」
流星は泣き出した。優羽は慌ててベンチから立ち上がると流星の元へ走り始めた。
しかし優羽が近づく前に一人の男性が流星の傍に駆け寄る。
男性は流星を抱き起こすと「大丈夫かい?」と話しかけていた。
その時流星を助け起こした男性は、岳大だった。
「ありがとうございます!」
優羽は慌てて流星の元へ駆け寄ると、流星を抱き上げてから岳大にお礼を言った。
すると岳大は、
「いえ、ちょうど通りかかったものですから」
そう言ってから、流星の膝を見る。
「擦り傷ですね。消毒液を持っていますので、そこのベンチへ…」
男性は親切にそう言った。
優羽は「すみません」ともう一度頭を下げると、言われたようにベンチに流星を座らせた。
すると岳大は、大きなリュックのポケットに手を入れてごそごそと何かを探し始める。
それを見ていた流星は泣き止むと言った。
「おおきなりゅっく! なにがはいっているの?」
物怖じしない流星は岳大の大きな登山ザックを見て興味津々だ。
「この中にはね、山に泊まるのに必要な物がいっぱい入っているんだよ。ご飯とか、お布団とかね」
岳大の言葉を聞いた流星は、
「おやまでねるの?」
少し興奮しながら聞く。
「そうだよ。おじさんは一週間山で寝泊まりして来たんだよ」
岳大は微笑みながらそう言うと、手にした四角い缶の中から消毒液と絆創膏を取り出した。
そして流星の足に消毒液を吹きかける。そして余分な消毒液をティッシュで拭き取るとその上に絆創膏を貼った。
消毒液を吹きかけた瞬間、流星は少ししみたのか顔を歪めたが泣く事はなかった。
そんな流星を見ていた岳大は、
「偉いぞ。よく我慢したね」
と言って褒めた。
流星は褒められたので少し得意気な様子だった。
そして、岳大のザックにぶら下がっているシェラカップを触り、
「これでごはんをたべるの? やまで?」
「うん、そうだよ。リュックの中にはお皿やお鍋も入っているよ」
と言って笑った。
二人が会話をしている最中、優羽はさりげなく男性を観察する。
彼は普通の登山客ではなさそうだ。
なぜなら真っ黒に焼けた肌は、尋常ではない黒さだった。
焼け方も目から下は真っ黒なのに目の周りは色が薄い。それは明らかにサングラスの跡だった。
そして口周りには無精髭が生えている。
男性が先ほど言っていた「一週間山に寝泊まりしていた」というのはおそらく本当だろう。
その髭の伸び具合を見て優羽は確信した。
その時流星も岳大の髭に気付いたようで、こう聞いた。
「おじちゃんはサンタさんのでしですか?」
流星の言葉を聞いた優羽は思わずクスッと笑う。それから慌てて言った。
「すみません。以前保育園のお友達に、サンタさんの弟子は若くて黒い髭を生やしていると聞いたみたいで…」
そう言って優羽は申し訳なさそうに頭を下げる。
それを聞いた岳大は、
「おじさんはまだサンタさんの修行中なんだ。なかなかサンタさんの試験に合格しなくてね…」
そう言って話を合わせてくれたので、流星は興奮して言った。
「やっぱりサンタさんのでしなんだね!」
流星は目をキラキラさせている。
そんな流星に岳大は笑顔で頷いた。
優羽は、それ以上岳大を引き留めても申し訳ないと思い言った。
「本当にありがとうございました」
「いえ…では、失礼します」
岳大はそう言って流星に手を挙げると、室堂ターミナルの方へ歩いて行った。
優羽はそんな岳大の後ろ姿をそっと見送った。
コメント
4件
流星くんもしかしてこのおじさんホントにサンタさんかも知れないよ。素敵なプレゼント後からくれるかも知れないよ🥹🥹🥹
キャァー(*´艸`*)💖出会ったぁ😆ホンマ流星くんが恋のキューピット💘👼💕優しい岳大さんにキュン🤭💖
出逢った〜😍😍😍 ひょっとして流星くんは恋のキューピッド⁉️🏹໒꒱🪄💫 岳大さんの心の暖かさを感じるシーンでした。 背中を見送った優羽ちゃんの胸の内は… ஐ⋆*♡・:*ೄ‧͙·*