テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

吐き気が、胸のあたりからじわじわとせり上がってくる。なのに、実際には何も出なかった。


息を吐く音がやけに大きく響いた気がして、慌てて押し殺す。

こんなとこ──誰も来やしないって、わかってるのに。


背中を壁に預け、制服の前を少しだけ緩める。

目を閉じると、さっきの光景が浮かんだ。


──笑い声。

──押し付けられる手。

──無理やり開かれた口。

──誰かが言った。「意外とイケる顔してんじゃん」


それより、

なによりも、目の奥にこびりついているのは──


(……遥、見てた)


目が合った。

一瞬だった。

でも、あの目を、俺は知ってる。

あれは、俺が何をされてるかじゃなくて──


「俺が、どうなるか」を怖れてた目だ。


(……やめろよ)


そう思った。

そういう目を、俺に向けるな。


怖がらせたくなかった。

苦しませたくなかった。

あいつはもう、十分すぎるくらい、壊されてきたのに。


俺まで、同じ場所に立って、

あいつの心に「また誰かが壊れていく姿」なんて焼きつけさせたくなかった。


──でも、見られた。


それが、たまらなく、情けなかった。


拳を握る。

自分の弱さが、みっともなくて仕方ない。

耐えられると思ったのに、結局何もできなかった。


遥の前で、格好悪くて、惨めで──

それがいちばん、悔しかった。


(……あいつ、俺のことどう思ったかな)

(守ってやるとか言っといて、このザマだって──呆れたかな)


そんなの、遥に聞けるわけがない。


でも、そう思ってる自分が、

いちばん、遥のことを傷つけてる気がした。


──あの目の奥に、どんな痛みがあったのか。

遥は、俺を見て、また何かを責めてしまったんじゃないか。

誰も悪くないのに、誰かにならなきゃならない世界で──

また、自分を選んでしまったんじゃないか。


(……だめだ)


遥にそんな思い、もうさせたくない。

あいつの自己嫌悪を、俺が増やすなんて──

そんなこと、俺が一番やっちゃいけないだろ。


拳を開いた。

わずかに爪の跡が残っていた。


(……行かなきゃ)


今さら、何ができるかなんてわからない。

でも、遥が“自分を責める前に”──

ちゃんと、俺の口から言いたい。


「あれは……おまえのせいじゃない」


その一言を、伝えたかった。



画像





この作品はいかがでしたか?

4

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚