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#伝奇
#モキュメンタリーホラー
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寒い。黴臭くて寒い。
雪崩るようにして逃げ込んだ廃墟の中は呆れるほど何も残されていなかった。
当然だけど、人を怖がらせて楽しませることを目的に作られた遊園地のお化け屋敷とは全くの別物。
汚らしいだけの空っぽの空間。
今の私と全く同じだ。
すり傷だらけになった膝を抱えながら私はノロノロと考える。
どうしてこんな事になったんだろう……。
予定では今頃、ありとあらゆる苦悩から解放されていたはずだったのに。
だけど……私の苦悩って、具体的になんだったっけ?
ついさっきまでゴチャゴチャ頭の中でとっ散らかっていたけれど、あの化け物――魚のような頭と人間の女の胴体をくっつけたような、グロテスクとしか言い表しがないような怪物の姿を一目見た瞬間、全てが吹き飛んでしまった。
認めたくはないけれど、認めざるを得ない。
私がこの一か月の間メッセージでやり取りしていた相手。
それがあの化け物、ライセサマだ。
私は騙され、誘い出されたのだと思う。
あんな化け物が神様なわけがないし、楽園なんて最初から嘘っぱちだったのだ。
気がつけば私は固くにぎりしめた拳に齧りつくようにして咽び泣いていた。
怖かった。だけど、それ以上に悔しかった。
多分、あの化け物は高みの見物を決め込んで私が飛び降り自殺するさまを眺めているつもりだったのだろう。
「……アキ子ちゃん。うちの話、聞いてくれる?」
遠慮がちな声が聞こえた。
背中にそっと触れた手の感触に私はビクッとなって振り返る。
すっかり自分の世界に入り込んでいたから存在を忘れかけていたけれど――、塚森キミカとか言う女の子だ。
「取り敢えずやけど――目的地、決めとこ」
「……も、目的地?」
「そう、目的地」
顔に付いた泥を拭いながらキミカ――、いや、キミカちゃんが言った。
キミカちゃんの顔は私に負けないぐらい真っ青だったけれど、その口調は随分と冷静だった。
「ここで少し休憩したら、ちょっと遠いけれどまずは夢ノ宮駅に行こ。……そこまで行けばスマホも通じるようになるから助けも呼べるやろし、それが無理ならタクシーに乗って逃げてもええ」
「……に、逃げるって? ど、どこに?」
「アキ子ちゃん。童ノ宮って神社、知ってる?」
「わ、童ノ宮……?」
思い出すのに数秒かかった。
確か――、ナントカ天狗とかいう神様をお祀りしている神社だ。
本当かどうかは知らないが、火伏や厄除け、安産、子どもの守護にご利益があると言う。
「お参りしたことはないけど、名前ぐらいなら……」
「そっか。話が早くて助かるわ」
小さく息をつき、キミカちゃんが言葉を続ける。
「うちは童ノ宮とはちょっとしたご縁があって……。あそこの神様にはこういうことがある度にお世話になってんねん。アキ子ちゃんのことを知ったんも神様からお願いされたからなんよ。その、命を落としそうやから助けたってくれって」
思わず私はキミカちゃんを見返してしまう。
こんな状況でもなければ頭のおかしい痛い子、と一笑に付していただろう。
もっとも私に他人のことをとやかく言えた義理はないのだが。
「……いや、ちゃうな。うちに頼みごとをしてきたんは神様やなくて――、神様が連れてきたぬいぐるみや。半分焼けたうさぎのぬいぐるみ」
この子、知っているんだ……。
淡々とつむがれるキミカちゃんの言葉に私は戦慄を覚えていた。
私がラビ太にやったことを。
最低最悪と言っても差し支えない、裏切り行為を。
気がつけば私は滝のように冷や汗をかいていた。