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死の呪いを解いても、全てが元通りというわけにはいかなかった。
私の右目に開いた穴と、透けた右手は、呪いを解いてもそのままだった。
私の姿は人に見えるようになったので、出掛けるときは眼帯と手袋が必需品となった。
実のところ、呪いを解いてからの日々の方が慌ただしかった。
ある日、つわりが起きた。
私に赤ちゃんが出来た。
名もなきドッペルゲンガーの魂が、私のお腹に宿ったのだ。
「……つまり、地獄子はママのママになるってことかぁ?」
混乱した様子で小守がそう言った。
時間が経つにつれて、私のおなかはみるみるうちに大きくなっていく。
「フフフ、舎蘭様の新たな子孫。フフフフ…….」
そういって刑部達が時々供え物のように米やら果物やらを持ってくる。
ありがたかったけど供え物の量が多すぎて少し困った。
小守は、私のアパートに住むことになった。
毎日のように天国美と喧嘩をするので少しやかましかったけど、小守のおかげで楓子さんを殺した負い目から暗くなっていた天国美は少しずつ元の天真爛漫さを取り戻していった。
布団で私を中心にして小守と天国美が私の横にくっついて眠る。
ひとりぼっちだった頃からは想像がつかない景色だ。
私は静かに目を閉じた。
◆◇◆
その日、名もなきドッペルゲンガーの夢を見た。
「地獄子ちゃん、呪いが解けたんだね。良かった」
「貴女のおかげです」
「地獄子ちゃん、よく聞いてほしい」
「明日の朝、私の記憶は消える」
彼女の言葉に、胸が詰まりそうになる。
「でもお別れじゃないよ。私の魂は、君の側にある」
「君に、3つお願いがあって夢に現れたんだ」
「……はい」
「まず一つ、これからも小守と仲良くしてやってほしい。あの子はああ見えて、寂しがり屋だからね」
「もちろんです」
「それから、天国美のことをこれからもよろしく頼む。あの子はこれからも、私を殺したことを悔やむかもしれない。どうか、彼女のことを支えてあげてほしい」
「……任せてください」
本当にこの人は、最後まで他の人のことばっかりだなぁ。
「最後に、これは個人的なお願いなんだけど。新しく生まれ変わる私の名前は、皆で決めて欲しいんだ」
彼女が恥ずかしそうに笑う。
「…….皆で、とびきりの名前をつけてあげますね」
私は彼女に微笑む。
主人である楓子さんを殺し、彼女に成り代わり、偽物として生き続けた彼女が私を抱きしめる。
「私の意識はもうじき消える。だけど、これはお別れじゃない」
「えぇ、貴女から貰った愛は一生かけても返します」
「これからも四人でずっと一緒にいましょう」
私の言葉に彼女は温かな笑みを浮かべた。
◆◇◆
アパートで食卓を囲みながら、天国美達と生まれてくる彼女の名前について考える。
「だーかーらー銀河子と書いてギャラクシこは流石にダサすぎですって!!BボタンBボタンBボタン!!」
天国美が机をバシバシと叩く。
「名前キャンセルすな」
「いや、流石にオレもその名前はどうかと思うぜぇ……生まれてくるママがかわいそう」
「……何よ、じゃあ小守はどんな名前がいいわけ?」
「うーん、名前に花をつけるのはどうだ?…..ってなんだよお前らその顔は?」
「小守って意外とまともですよね……」
「うるっせー、お前らのセンスがおかしんだよ」
小守がジト目で私たち姉妹を見つめる。
「はいはいはい!!そしたら楓子さんの名前から一文字とって楓花さんなんてどうでしょう!!」
天国美が手をあげる。
「いいかも」
「いいんじゃねぇか」
「はーぁ、早く生まれてこないですかねぇ。
天国美おねぇちゃんがいっぱいいっぱい可愛がってあげますからねぇ」
「そしたらオレは、ママを連れてばっびゅーんと空を飛んでやるぜ」
「赤ちゃんを連れて空飛ぶとか正気ですか小守?」
「は?ちゃんと成長してから連れてくに決まってるだろーがばーか」
「何ですって」「なんだよ」
「はいはい、あんたら喧嘩しない」
「……何か、地獄子、最近ママに似てきたよな」
「そう?」
「さっきの口調楓子さんそっくりでした。魂を取り込んだからですかねぇ」
天国美と小守が顔を見合わせる。
それがなんだか可笑しくて、私は笑った。
膨らんだおなかをさする。
「これからいっぱい、皆で楽しい思い出作ろうね、楓花」
私の声に答えるように、楓花がおなかを蹴った。
(完)
コメント
1件
トド村さん、最終話まで一気に読ませていただきました……! 「お別れじゃない」という言葉が、本当に胸に響きました。名もなきドッペルゲンガーが地獄子に託した3つのお願い、どれも彼女らしくて、読んでいてじんわり温かくなりました。 最後の食卓のシーン、天国美と小守の喧嘩も、もう家族そのものですね。お腹の子に「楓花」と名前をつけるところ、涙が出そうになりました。素敵な完結をありがとうございます🌷