テラーノベル
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板を当てて雨漏りの位置を確かめ終えるころには、夜もだいぶ深くなっていた。義海はとうとう端の座布団で眠り、鼓夏は毛布をかけてやっている。芽生は記録用紙をまとめ、啓介は遼征から渡された筒を開いた。
中に入っていたのは、沈船の簡易図面だった。前に見たものより細かく、内部の空間が薄い線で描かれている。
「これ」
啓介が顔を上げる。
「まだ中が残ってるのか」
遼征は濡れた前髪をかき上げた。
「全部じゃない。けど、中央の一部は空洞が生きてる可能性がある」
「だったら」
「だからこそ、急いで曳航するんだよ。崩れたら終わるから」
啓介は図面の線を指で追った。海の底で、まだ空いたままの場所がある。そこに、木箱以外の何かが残っているかもしれない。
芽生も横からのぞき込む。
「もう一度だけ、中を見られる可能性があるってことですか」
「条件つきでな」
遼征が答える。
「潮、風、足場。全部そろえば短時間だけ」
啓介は、その言葉より先に別のことを口にしそうになった。
さっきのことを、遼征は本当に流してくれたのか。
見なかったことにすると言った、その先へ何も訊かないのか。
遼征は図面を机へ広げたまま、淡々と続ける。
「俺が今気にしてるのは船のことだけ。離れで誰の手が触れたとかは、今の順位が低い」
「順位って」
芽生が少しだけ笑う。
「仕事人間みたいな言い方ですね」
「港では順番間違えると怪我するからな」
その答え方に、啓介は少しだけ救われた。気まずさが消えたわけではない。でも、今は助けてもらったのだと分かる。
鼓夏が、眠りかけた義海を見ながら言う。
「見なかったことにする、って、優しさがいるのよね」
「たいていは面倒だからだ」
遼征はそう返したが、鼓夏は信じていない顔だった。
雨はようやく細くなり、屋根から落ちる音も小さくなる。
啓介はもう一度、図面へ目を落とした。
海の底に残った空間。
そこへもう一度だけ近づけるかもしれない。
まだ終わっていないものが、離れだけではなく、沈船の中にも残っている。
そんな確かな手応えが、夜の静けさの中に置かれた。
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