小さな部屋の扉が静かに開き、少年が入ってきた。肩をすくめ、手を組んで椅子に座る。
「……友達、できないんです」
声は小さく、でもはっきりしていた。少年の目は、どこか遠くを見つめているようだった。
遥は机の向こうから静かに見つめ、沈黙のまま数秒間だけ息をついた。
「そうか……できないか」
言葉は低い。肩の力は抜けているが、目には疲労と諦めが混ざっていた。
「どうしても、居場所ができないんです。話しかけても、無視されたり、笑われたり……」
少年の手が少し震える。
「……わかる」
遥は机の上に手を置き、静かに続ける。
「俺も、ほとんど友達なんていなかった。学校も家も、居場所なんてなかった」
少年はうつむき、小さく息をついた。
「でも、どうしても、孤独は嫌で……」
「俺も同じだ」
遥は視線を机に落とし、ゆっくりと息を吐く。
「孤独は重い。でも、孤独のままでも、生きてることは続けられる。俺は、そうやって毎日を耐えてきた」
少年は少し顔を上げる。目に期待と不安が混じる。
「……じゃあ、俺も耐えればいいんですか?」
その声に、遥は少し笑った。笑顔というより、苦笑に近い。
「耐えるだけじゃ、つらいと思うだろう。でも、耐えながら、少しずつ、自分のことを受け入れてみる。孤独でもいい、自分を少し認めてみる。それだけでも、世界は少し変わるかもしれない」
少年は目を細め、唇をかむ。
「……変わるって、どうやって?」
「俺もまだ探してる途中だ」
遥は肩をすくめ、椅子に深く座る。
「答えはない。でも、ここで話すだけでも、孤独を分け合える。誰かに見られる、聞いてもらえる。それだけで少しは楽になる」
部屋には、静かな空気と、二人の呼吸だけが残る。少年はゆっくり息をつき、少しだけ肩の力を抜いたように見えた。
「……ここで、少しだけでも吐き出してみます」
その言葉に、遥は小さくうなずく。
「いいよ。吐き出して、少しでも軽くなるなら、それだけでいい」
紙とペンが机に置かれ、少年はゆっくりと文字を書き始める。
地獄のような毎日は消えない。でも、この小さな部屋の中だけは、孤独を分け合える場所になった。
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