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それから一週間が経った。

いよいよ明日から『solid earth』の全国ツアーがスタートする。北は北海道から南は福岡まで二ヶ月かけて全国を回る一大イベントだ。

そして最終日は武道館で行われる。最終日には美月と母、そして浩と亜矢子も招待されていた。

二ヶ月間海斗と会えない日々が続くが、美月はただひたすらコンサートが無事に成功する事を祈っていた。


海斗がツアーに出る前の日の夜、海斗は突然美月のアパートを訪ねてきた。

美月は海斗がツアーを終えるまで会えないと思っていたので突然の訪問にびっくりする。


「明日からツアーが始まるのに大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。それよりもこっちの方が大事だろう?」


海斗は部屋に上がるなり美月を強く抱きしめる。そして優しい瞳で美月を見つめると言った。


「美月、ツアーが終わったらすぐに結婚しよう」


美月は微笑みながらしっかりと頷く。そして二人は唇を重ねた。


その夜二人はこれから会えない二ヶ月分の愛を確かめ合うように、そして互いの肌の感触を心にしっかりと刻み込むように長い時間をかけて深く深く愛し合った。このまま永遠に夜が続けばいいのに…そう思いながら幾度も身体を重ねた。


そして翌朝、海斗はツアーに旅立って行った。



それからの三週間、美月は淡々と日々の生活を繰り返していた。毎日決まった時間に起きて仕事へ行く。そして家に帰ってから眠る。ただひたすら同じ日々を繰り返していた。

海斗と出逢う前の生活に戻っただけなのになぜか日々の生活が色褪せて見える。そしてとてつもない空虚感が襲ってくる。


今の感覚を目に見える形で表現するならば、海斗と出逢う前の生活はモノクロの世界、そして海斗と出逢ってからの生活は色彩豊かな情緒溢れる絵画のようなものだ。

美月は海斗がいなくなってみて初めて海斗が自分に与える影響力がとてつもなく大きいものだったのかを認識した。


しかし海斗が頑張っているのに自分だけ空虚感に苛まれていてもしょうがない。そう思った美月は、この機会に親孝行をしようと閃く。

そこで美月は母の佳代子を温泉旅行に誘った。

美月は箱根の宿を取り母のパッチワーク教室がない平日の二日間を利用して一泊旅行を計画した。


旅行当日の朝、駅前で待ち合わせた二人は新宿駅へ向かった。


「お母さん温泉なんて久しぶりだから嬉しいわ。美月、誘ってくれてありがとうね」


母はとても嬉しそうだ。


「そう言えば、あなた達結婚はいつ頃を考えているの?」


特急電車の中で母は美月に聞く。


「海斗さんはツアーが終わったらすぐにと言ってくれてるの」

「だったら年末か1月くらいかしら?」


母は嬉しそうにフフッと笑った。


「お母さん美月はもう二度と結婚しないかもって思ってたわ。だって離婚後のあなたは人との接触を避けているように感じたから。だからもう一生独身なのかもってね。でもそれはそれで本人が好きなように生きればいいわって思ってたの。それがまさかこんな事になるとはね。それもこんなに早く。ほんと縁って不思議なものよね」


母はしみじみと言った。


二人は途中観光をしながら午後3時少し前に温泉宿に着いた。

こじんまりした和の雰囲気の宿はとても趣ある造りで庭に面した部分が回廊となっている。

夕暮れ時になると中庭にはオレンジ色のライトが灯され、まるで昭和の時代にタイムスリップしたかのような懐かしい雰囲気に包まれる。

二人は早速その回廊を通って温泉へ向かった。


露天風呂からの景色は素晴らしくあと一ヶ月もすれば目の前の山は見事な紅葉に染まるだろう。耳には麓に流れる川のせせらぎが聞こえてきてとても癒される。夜になれば星も見えそうだ。


夕食の時間になると二人は食事処へと向かった。窓際のテーブル席に案内され母娘向かい合って座る。

一面ガラス張りの窓の外には大きな岩をアレンジした日本庭園が広がりライトアップで幻想的な雰囲気を醸し出していた。

食事は懐石料理で和食好きの美月の母は嬉しそうだった。

料理の盛り付けも色鮮やかでどれも美しく女性二人はその上品な味付けに舌鼓を打った。


食後に見たいテレビがあるからと母が言ったので、美月は部屋に母を残して一人で売店へ向かった。

一通り店の中を見て回った後、美月は職場への菓子折を買う。

買い物を終えるとロビーの奥にある窓際のソファーに腰を下ろした。


大きなガラス窓からは月が見えていた。今夜も月暈がかかっていた。ぼんやり滲んだ月は薄雲のフィルター越しに柔らかい光を放っている。

その月は海斗の実家からの帰り道に見た月とよく似ていた。美月がそんな事を思い出しているとタイミング良く海斗からメールが届いた。


【温泉はどう? お母さん孝行楽しんでいるかな?】


海斗はこの日札幌でのライブを終え楽屋からメールをしていた。美月は微笑んでメールを見るとすぐに返信した。


【温泉に入って美味しいお料理も食べて母も喜んでいます。来て良かったわ】

【それは良かったね。こっちの夜はもうだいぶ寒いよ。美月の温もりが恋しいよ】

【うん、私も会いたい。でももうちょっとだから我慢するね】

【ああ、あとちょっとの我慢だ。札幌の月は月暈が出ているよ】

【こちらも月暈がかかっているわ】


今二人は全く別の場所にいるのに同じ月を見ていた。同じ月を見ている二人は確実に繋がっている。

どんなに離れた場所にいても同じ月を見ていれば同じ場所にいるも同然だ。


今二人は同時にあのブルーモーメントに沈む三日月を思い出していた。あの時も違う場所にいながら同じ月を見ていた。

どんなに離れていても月が二人を繋いでくれる。そう思った瞬間二人は同時に微笑む。


夜空に浮かぶ朧月は雲に滲んだ虹色に輝く光を放ちながらいつまでも二人を優しく見守っていた。

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