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『お茶会の席で勝負を始めるから、テラスに集合して欲しい』との連絡を受け、レイナードはアルと、ようやく魔力の回復したシュウを連れて早めにやって来た。さっさと終わらせてしまいたい。そんな気持ちの表れだ。
「ありがとう、レイナード。今日もよろしくね」と、 先に来ていたイレイラがすまさそうに言った。
「今日は何をする気で?」
テラスにあるソファーに座りながらレイナードが彼女に訊く。彼の肩からアルとシュウが降り、二匹ともお行儀良くソファーに落ち着く。『邪魔はすまい。そうしたならば早く終わり、遊んでもらえるかも!』と期待に満ちた目を彼らに向けている。二匹の気持ちを察し、イレイラとレイナードが彼等の頭を撫でてやった。ウットリと目を細める姿に二人が癒されていると、テラスのガラス扉が開き、ロシェル達が姿を現した。
「お待たせしました」
照れた様な笑みをロシェルが浮かべる。今日は黒髪をポニーテールにし、ワインレッドの半袖ワンピースの上に白いエプロンといった酒場の店員風の服を着ている。仲間と酒場に行く機会の多かったレイナードにとっては馴染み深い格好だった。
「……よく似合ってるな、ロシェル」
「ありがとう、レイナード」
微笑みあう二人に向かい、少し不貞腐れた顔でサキュロスが声を掛ける。
「おーい、お二人さん。私もいるんですけどー」
その声を聞き、二人がやっとサキュロスの方に顔を向ける。
今回の彼は黒と白を基調としたメイド服を着ていた。膝上までの白い靴下を履き、スカートがとても短くてカモシカの様な長い脚には完成された絶対領域がある。首に白い丸襟だけがチョーカーの様にあり、鎖骨から胸元までが開いていて、谷間を思いっきり作っている。……また露出が過ぎていた。だが昨日よりはかなりマシなので、レイナードは遠い目をするだけで済んでいる。
「ねぇねぇ、似合うかい?」
自信満々にサキュロスがスカートの裾を持ち、その場で回ってみせる。
「まぁ、多分」
そう返し、レイナードは素っ気なく頷いただけだったが、それでもサキュロスは嬉しそうに神経質な顔を赤らめた。本気で嬉しいのだろう。
「これで終了ですか?」
期待を込めた問いをレイナードにされて、イレイラらが「あー……ごめんなさい。これからが本題なの」と言った事でソワソワしていた二匹が項垂れた。
「ほら、好きな人を射留めるのなら胃袋からって言うじゃない?なので、二人に料理を用意してみたら?と課題を出してみたの」
「それはいいですね」
自分はお色気勝負がとことん苦手だという事を昨日思い知ったレイナードが、安堵した表情をした。
「お茶はエレーナが用意してくれたものよ。リラックス効果のあるハーブティーらしいわ」
イレイラはそう言いながら、ティーポットからカップへお茶を淹れた。香草の柔らかな香りが鼻孔をくすぐり、彼等がホッと息を吐く。
「んー相変わらずいい香りね。これがエレーナの手作りだなんて、本当に凄いと思うわ」
「手作りですか、いいですね」
イレイラの言葉に、レイナードが興味津々といった顔をした。その様子を見てイレイラらが嬉しそうに微笑む。
「今回は負担にならなくて済みそうね」
そっとレイナードの耳元でイレイラがそう言うと、彼は苦笑した。
「今から持って来ますね」
ロシェル達はそう言い残し、テラスから一旦出る。そしてすぐにワゴンを押して戻って来た。
車輪の付いた銀色のワゴンの上にはケーキやチョコチップクッキーなど、色々なお菓子がのった大皿が並んでいる。ハーブティーの香りとよく合う甘い匂いに、皆少し小腹が空いてきた。
「美味しそうですね」
「そうね、見た目もいいわ」
レイナードとイレイラらの褒め言葉に、ロシェルが照れ臭そうにモジモジする。
「ねぇ早く食べよ!」
サキュロスは、もう食べたい気持ちでいっぱいだった。彼は神子なので食べる必要はないが、甘いものが大好きだ。
「はいはい、そうしましょうか」
唯一の子持ちであるイレイラが少しオカンっぽい雰囲気を漂わせながらケーキを切り分ける。取り皿へそれらを移して配っている間に、ロシェル達もソファーに座った。
「さぁ、いただきましょうか」
イレイラの一言で四人がお菓子に手を伸ばす。レイナードがアルとシュウにもクッキーを渡すと、嬉しそうに両手で掴み、彼等はカシュカシュと小さな音を立てながら頬張った。
「味はどうかしら?」
ケーキではなく、アルとシュウにあげた流れでクッキーを口に運んでいたレイナードにロシェルが訊いた。
「家庭的な味で美味しいな。チョコチップが入っているのに、甘過ぎないのがいい」
「甘いものは苦手なの?」
「バタークリームが少し。甘さは控えめな方が好みだな、量を食べたい」
「シドらしいわね」と言い、 ロシェルがクスクスと笑った。
クッキーをもう一つ摘み、レイナードがそれを食べる。
「ピャッ」っと声をあげながらシュウがレイナードの白いシャツを引っ張り、ボクにももっと寄越せと催促した。
『儂もおかわりが欲しいぞ』
「どれにする?」
『ケーキを頂こうか』
「魔物じゃなくても食べられるんだな」
『空腹は満たされぬがな。味を楽しむ事は出来る』
レイナードはフォークでケーキを切り分けると、「んっ」と言いながらアルへそれを差し出す。最初はキョトンとした顔をしたアルだったが、意味がわかって瞳がパァァと明るく輝いた。
『あーん!』
口を開けて、早く早くと言いたげにアルの体が揺れている。
「うわぁ、ズルッ!」
ケーキをフォークで突ついていたサキュロスが文句を言う。ロシェルもちょっと羨ましいなと思ったが、声には出さなかった。
そんな二人を気にする事なく、レイナードがアルにケーキを食べさせる。アルが咀嚼しながら幸せそうに『もっと食べてやろう』と言い、またあーんと口を開けた。
「気に入ったのか?」
『好みはクッキーじゃな。だがケーキもいい』
「実は、クッキーは私が作りました」
ロシェルがはにかみながらそう言うと、シュウがまたクッキーを催促したので、今度は彼女が彼にそれを差し出した。
「ケーキは私が用意したよ」と、サキュロスが得意げに言う。
「すごいな、プロ並みだ」
苺ののったショートケーキは生クリームで可愛らしくデコレーションされ、平面部分の塗り方もとても滑らかだ。もう切り分けてしまってはいるが、パティシエ並みの仕上がりのケーキだ。これをサキュロスが作るとは意外だなとレイナードは感心した。
残念ながら、今回の勝敗は彼の勝ちかもしれない。……いつ何時でも主人を選ぶべきだろうが、こうも一目瞭然だと、ここでロシェルを選んでしまう事は残念ながらあからさま過ぎて出来ないなと、レイナードは思った。
「そりゃぁ、プロが作ったんだもん。当然でしょー」
問題発言をしながらパクッとサキュロスがケーキを食べる。彼に向かい、参加者全員が一斉に訝しげな顔を向けた。そんな中、イレイラが恐る恐る口を開いた。
「プロが、作ったのですか?サキュロス様、いつの間にパティシエの勉強を?」
精一杯良い方に解釈しながらイレイラが質問する。長生きの神子ならば全くない話ではないからだ。
「この神殿の、デザート係が作ったって言ったの。私じゃない」
サラッと言った一言にイレイラらが頭を抱えた。『意図が伝わっていなかったのか、今回も!』と、叫びたい気持ちになる。
「手作りお菓子で胃袋を掴むって趣旨なのに、プロに作らせてしまうのは駄目じゃないかしら」
相手がお偉い神子様だろうが御構いなしに、イレイラはサキュロスの後頭部を叩いてしまいたい気持ちで一杯だ。そのせいか、発した声は少し震えている。
「たかだか千年、二千年程度しか生きてない私に何を期待したの?君は」
「ロシェルは十八年しか生きていませんが、料理は一通り出来ます。なのでその言い訳は通じませんよ」
イレイラらが困った顔をサキュロスに向ける。
「……嫌な予感するのは、私だけ?」
そうこぼしたサキュロスに対し、イレイラが改まった顔をしてこう告げた。
「残念ながら、サキュロス様の不戦敗ですわ。他者に作らせるなど言語道断です。私達は退散致しましょう。——アル、シュウ。貴方達はロシェル達に呼ばれるまでの間、庭で遊んでいてくれるかしら」
「ピャァ」
『わかった、従おう』
シュウとアルはイレイラ達に向かい頷くと、仲良くそそくさと庭へ移動して行った。
「待ってよ!美味しければ何でもいいじゃん!どうせ普段だって使用人が作るんだよ?作れなくても関係ないじゃないか」
言い分はわかるんだが、それは許しては勝負にならない。
「美味しいものを食べさせる勝負なら、問題なかったでしょうね。でも今回は、手作りお菓子で胃袋を掴む勝負だと言ったはずですわ」
「それだって手で作った物じゃん、私の手じゃないけど」
「ご自分で作っていないので駄目です!どこをどう気に入れと言う気なのですか!」
イレイラに威圧的に言われ、サキュロスが喉を詰まらせる。
「わかったよ……」
肩を落として、彼が負けを認めた。
「敗者は退散しまーす」
両手を軽く挙げて、降参ポーズをしながらソファーから立ち上がる。そしてテーブルに片手をついて、谷間を見せ付けるようにしながら、サキュロスがレイナードの頰に触れた。
「また負けちゃったなぁ、残念」
甘ったるい声を出しながらそっと彼の頰を撫でる。するとレイナードは顔を青くしながらスッと後ろへ体を引いた。
「……じゃあ、またねー」
そう言い、サキュロスがテラスから退散して行く。イレイラらもそれに続き、広いテラスでロシェルとレイナードは二人きりになった。