テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
15
“魔術”
それは魔法とは違い、選ばれた者なら訓練や座学を積むことによって、再現が可能な技術である。
「順番に並んでください」
福岡の小さな街で中学校に通いながら、父親が営むパン屋の手伝いをしている幽木礼唯は今日もいつも通り長蛇の列を整理していた。焼きたての美味しそうなパンの香りが広がっていく。
「礼唯君!いつもの!」
礼唯の一個下で、この街のお花屋さんの手伝いをしている花園陽葵が、長い列からようやく現れて注文する。
「はい。メロンパン2つね。」
そう言うと礼唯はショーケースの中からメロンパン2つを取り出し、紙袋に入れると陽葵に渡す。
「はいどうぞ。」
「わーい!ありがとう!」
「また来てね。」
「うん!礼唯君はすごいなー」
「すごい?」
「うん!しっかりしてて大人に見えちゃうよ!私も見習わなきゃなー。
じゃあまたね!礼唯君!」
そう言うと、陽葵は走っていった。
客足が落ち着いてきた昼ごろ、礼唯は父と店で昼食を食べていた。その時、扉が開く。
「おじゃましまーす」
「おー伊織!」
「相変わらず繁盛してたなぁ」
「まぁな」
伊織は父の友人でたまに遊びに来る。
「礼唯君久しぶり、元気にしてた?」
「はい」
「見ないうちにまた大きくなったなー」
「はい」
「この調子だったらお父さんの身長越えるかもね!」
「・・身長は越せても、強い魔術を持っている父さんには敵わないです。」
礼唯は俯く。
「そんなに落ち込まなくていいよ。前にも言ったけど、誰だって最初は自分の魔術を理解していない。 15歳になった時に行われる”刻印の儀”で初めて自分の中に眠る魔術を引き出すことができるんだよ。 礼唯君はもう15歳だからあと5日後くらいに行われる刻印の儀で自分の魔術が分かるようになるね。」
「でも魔術って誰にでも使えるものじゃないんですよね?僕には魔術があるのでしょうか?」
礼唯は不安そうに伊織に尋ねる。
「大丈夫!礼唯君は絶対に魔術あるよ!」
「なんてったって君のお父さんはね、、」
「伊織、、」
途中から話を聞いていた父が話を遮る。
「いいじゃん、いいじゃん」
伊織はお構いなしに話を続ける。
「君のお父さんはね、魔術師の中でも特に強かった英雄なんだよ。」
その後も伊織の話は続いていった。
「もうこんな時間!じゃあまたね。」
玄関で手を振って伊織を見送った後、2人は再び席についた。
「そういえばさっきの伊織との話で気になったんだけど、礼唯は強い魔術が欲しいのか?」
疑問に思った父は尋ねた。
「、、うん。あの時みたいに母さんを守れないと思うと、、」
礼唯は3年前の絶望的な光景を思い出す。
「礼唯が抱え込む必要はない。あれは父さんが悪かったから。」
「でも俺は怖くて逃げることしかできなかったから、、父さんみたいに強くなりたいのに、、」
礼唯は自分の弱さの情けなさと悔しさで下を向く。
「魔術はまだ使えないし、それに礼唯はその時12歳だったから怖がるのも無理はないさ」
「、、でも」
「いいか礼唯、魔術は戦って強さを証明するものじゃない。強ければいいものじゃないんだ。大事なのは人の役に立つこと。人を笑顔にすることができれば立派な魔術師だ。」
父の言葉で心が少し軽くなった気がした。
「刻印の儀は5日後にあるから自分の魔術が分かるようになってからまた考えればいいさ。」
「うん。」
父は席を立ち、仕事に戻ろうとした。
「父さん、、」
「ん?どうしたー」
「今の父さんは魔術が使えないから、俺が魔術を使えるようになったら絶対に守るから!」
「それは楽しみだ!」
父は満面の笑みで微笑むと、仕事に戻った。
その日の夜。
父のパン屋の近くにある家に2人は帰った。
「礼唯、明日も早いから父さんはもう寝るぞ。おやすみ〜」
「おやすみ、父さん」
礼唯は”霊花”と呼ばれる魔術の力を秘めた薬草に関する図鑑を読みながら相槌を打った。いつもは1時間程度で読み漁るのを終えていたが、刻印の儀が近づくにつれ、その時間は増えていった。
「もう2時か、、」
礼唯はまだまだ読みたかったが明日も手伝いがあるので仕方なくベッドに向かい目を閉じた。
礼唯が眠りについて2時間が経過しようとした時、夜空をひき裂く爆音がなった。礼唯は目が覚めると、その瞳
には火の海が映っていた。
“登場人物”
幽木 礼唯 15歳
(ゆらぎ れい)
幽木 碧 39歳 礼唯の父
(ゆらぎ あおい)
伊織 36歳 父の友人
(いおり)
花園 陽葵 14歳
(はなぞの ひまり)
“刻印の儀”(こくいんのぎ)
15歳になった人たちが、自分の中に眠っている魔術を引き出す儀式。
“霊花”(れいか)
魔力の籠った薬草。煎じて飲むと、一回限りで強力の魔術が使える。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!