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Ren .
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教室の空気は、さっきの声で一度だけ固まっていた。だが、それは長く続かない。数秒でほどけて、別の形に変わる。さっきまでの軽さは消えて、温度だけが低くなって残る。
「今のさ」
誰かが言う。
笑っていない声。
「反抗ってことでいい?」
周りが動く。距離が詰まる。円の形になる。
逃げ道がなくなる。
遥は何も言わない。
言ったところで変わらないことが分かっている。
「無視?」
横から肩を小突かれる。
強くはないが、試すみたいな当て方。
「聞いてんだけど」
前に出てきたやつが言う。
顔が近い。
「さっきの、何?」
答えを求める形。
だが選択肢はない。
「……言った通り」
出す。
短く。
間ができる。
その一瞬で、空気が沈む。
「は?」
低い声。
頬に衝撃が来る。横から、今度はためらいなく。
音が教室に残る。
体が傾く。
「調子乗ってんの?」
胸ぐらを掴まれる。
引き寄せられる。
「言った通り、って何?」
詰められる。
呼吸が浅くなる。
「やめろって言っただけ」
出す。
それで確定する。
空気が完全に変わる。
「だけ?」
繰り返される。
次の瞬間、腹に拳が入る。
息が潰れる。
体が折れる。
そのまま頭を押さえられて、無理やり起こされる。
「“だけ”で済むと思ってんの?」
声が落ちる。
背中を蹴られる。
前に崩れる。
机に手をつく。
「なあ」
後ろから声。
「逆らうとどうなるか、分かってないよな」
笑いはない。
ただ確認するみたいな言い方。
肩を引かれる。
体勢を戻される。
そのまま、もう一発入る。腹に。
今度は少し下。
鈍い痛みが広がる。
声が出ない。
「声出せよ」
上から落ちる。
「さっき出てたじゃん」
腕を掴まれる。
逃がさない位置。
「もう一回やれよ」
顔を近づけられる。
息がかかる距離。
遥は歯を食いしばる。
何も出さない。
「出ねえの?」
間。
そのあと、膝が入る。
腹に。
今度は音が出る。
抑えきれない。
「……っ、やめろ……」
漏れる。
それを拾われる。
「出た」
誰かが言う。
「それそれ」
周りに広がる。
「もっとちゃんと」
重なる。
背中を押される。
壁に当たる。
逃げ場がない。
「ほら」
顔を上げさせられる。
「言えよ」
視線が揃う。
詰められる。
呼吸が乱れる。
頭が回らない。
それでも、口が動く。
「……なんでだよ」
出る。
小さく。
自分でも止められなかったやつ。
一瞬、空気が止まる。
そのあと、歪む。
「なんで?」
繰り返される。
笑いが混じる。
「逆に聞いてきた」
誰かが言う。
「いいね」
空気が少し軽くなる。
だが逃げ場にはならない。
「答えてやるよ」
前にいるやつが言う。
「お前がそういうやつだからだろ」
雑に切られる。
「どういうやつだよ」
遥が返す。
止められない。
自分でも分かっている。
もう戻れない位置。
間。
そのあと、強く落ちる。
頬に一発。
今までで一番強い。
視界が白くなる。
耳が鳴る。
「聞くなって言ってんだろ」
低い声。
肩を掴まれる。
揺らされる。
「分かれよ」
さらに一発。腹。
息が抜ける。
床に崩れる。
「なあ」
上から声。
「お前さ」
少しだけ間を置く。
「何様?」
言葉が刺さる。
「逆らって、質問して」
笑いが混じる。
「普通にキモいんだけど」
重なる。
足で軽く蹴られる。
倒れたままの体に。
「立てよ」
命令。
腕を引かれる。
無理やり起こされる。
足がふらつく。
「ちゃんと立て」
支えられる。
逃がさない形で。
「で?」
続く。
「さっきの続きな」
視線が集まる。
「なんでだと思う?」
また戻る。
同じ位置に。
だがさっきと違う。
もう余裕がない。
呼吸が浅い。
頭が回らない。
それでも、口が動く。
「……うるさいからだろ」
出る。
止められない。
「は?」
即座に返る。
「何が?」
詰められる。
「黙ってても文句言われるし」
続けてしまう。
止まらない。
「何やっても邪魔って言われるし」
言葉が出る。
「だったら何すればいいんだよ」
最後まで出る。
完全に。
一瞬、完全に静かになる。
空気が止まる。
そのあと、ゆっくり落ちる。
「へえ」
誰かが言う。
低く。
「言うじゃん」
笑いが混じる。
だが軽くない。
「じゃあ教えてやるよ」
前のやつが言う。
距離が詰まる。
「何もしなくていいよ」
一拍。
「消えろよ」
短く言われる。
周りが笑う。
「それが一番マシ」
重なる。
遥は何も言えない。
さっき出た言葉の反動で、喉が痛い。
体も動かない。
肩を押される。
またよろける。
「ほら」
誰かが言う。
「できる?」
笑い。
誰も本気で答えを待っていない。
ただ続けるための言葉。
遥は立ったまま動けない。
ここでは、口に出したものは全部そのまま材料にされる。黙っていても続くが、出せば出した分だけ形が増える。どこで止めても終わりにはならず、次に繋がるだけで、引き返す場所は最初から用意されていない。
コメント
1件
うわっ…第11話、読んでて胸が締め付けられたよ…😢 「何も言わなくてもダメ、言ってもダメ」っていう遥の閉塞感が、教室の空気と共にグッと迫ってくる感じがした。口を開くたびに材料にされるっていう地の文が特に刺さった…言葉が全部武器に反転するのが怖すぎる💦 続き気になるけど、とりあえず今は遥が少しでも休める場所がありますようにって願わずにはいられないよ…🕊️💔