テラーノベル
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#伝奇
#モキュメンタリーホラー
この世に存在として成り立った時、彼女の内側にあったのは、誰でもいいから滅茶苦茶に破壊し、踏みにじってやりたいという激しく暗い衝動だけだった。
それはどんな生き物にも生まれつき備わっている食欲のようなもので、その欲求と真正面から向き合うことを余儀なくされた彼女は、身悶えするような葛藤にその身を苛まれることとなった。
しかし、冷酷な獣は辛抱強く知恵をつける。
そして、それはモウジャや怪異も同じだ。
彼女は己の奥底にある、人間だった頃のいくつかの記憶を拾い上げ、独自の狩猟法を編み出した。
それはネットを駆使して獲物を見繕い、精神的・肉体的に対する緩やかだが確実な拷問を行って支配する。大抵の場合、獲物は自ら命を絶ち、その際、飛び散った血肉を啜ることだけが彼女の絶え間ない飢えを満たすのだった。……ほんの少し。
だけど、今回は邪魔が入った。
アキ子とかいうくだらない女をイイ感じに洗脳し、いよいよクライマックスだという時、あの二人組――小学生のような小娘と筋肉だるまのような大男が現われ、こともあろうに獲物を彼女の鼻先で掠め取ろうとしたのだ。
もちろん、黙って見逃すつもりはなかった。
それにここまで来れば獲物が高所から飛び降りて死のうと彼女の爪や牙で殺そうと同じことだった。
しかも、獲物は三人に増えている……。
だが、驚いたことに直接攻撃に向かった彼女に獲物達は抵抗してきた。特に大男は小娘二人を逃がすために殴りかかって来たのだ。
彼女は信じられなかった。
一目で猛獣と分かる相手に徒手空拳で正面切って立ち向かう馬鹿がいることに。
大男が常人離れした怪力の持ち主であったこともあり、少々てこずったが、やはり態勢を立て直してしまえば彼女の敵ではなかった。
喉笛に牙を突き立て、首を引き千切ってやった。
そうこうしている間に小娘二人には逃げられてしまったが、恐怖に駆られた生者は独特な臭いを放つ。それを辿り、あっと言う間に追いつくことができた。
戯れに持って来た大男の生首を二人が身を潜める廃屋に投げ込んでやると、その臭いはますます濃くなった。
後は小娘どもを文字通り、血祭りにあげるだけだったが――少し思うところがあり、順番を変更することにした。
大男からキミカと呼ばれた小娘……。
あいつは一目見た時から気に入らなかった。何となくだが、わかる。
あいつ自身は見すぼらしいだけのただのメスガキのくせに様々な人間、人間じゃないものにも守られていると。
彼女が人間だった頃――、最期の最期まで一人ぼっちだったにもかかわらず、だ。
だから、彼女はキミカを、いつも以上にジワジワ痛ぶってから殺すことに決めた。
幸い今の彼女の身体機能は生者を苦しめることに関して特化している。
舌から猛毒の液体を滲ませて彼女はキミカの両目を腐らせ、鼻を潰し、唇を削いでやった。
アキ子――今回のメインターゲット――が何やらブツブツ、念仏のようなものを唱えていたが、取り敢えず放置することにした。
こんなボンクラ、いつでも殺せる……。
だけど、それが間違いだったと彼女が思い知ることになるのは、それからほんの数秒後だった。
顔の皮をほぼ全て剥ぎ取り、虫の息となったキミカの喉に喰らいつき、そのまま噛み千切ろうとしたした、正にその時だった。
彼女の背中、正者で言えば肩甲骨のあたりが内側から――、爆ぜた。
紫色の鮮血が飛沫をあげて飛び、肌色の鱗が数枚、破けながら舞い散る。
彼女は吠えた。突如、自らを襲った激痛に耐え兼ねて。
この時は驚きよりも、怒りの感情のほうが強かった。
大体、誰かに痛めつけられるのは彼女の役割ではなかったはずだ。
今や彼女は他者を狩り、蹂躙し、搾取する側だった、はず。
それなのに、こんな……。
ガラスボールのような眼球を蠢かせ、彼女は己に苦痛をもたらした者の正体を見極めようとする。
彼女の背中を突き破り、伸び出ていたのは白くたおやかな腕だった。
一目見れば、まだ幼い子どものものだと判別できる。
――きゃははは……。
黄色く無邪気な笑い声が響き、彼女の体内に突如、発生したそれが這い出して来る。
まるで、成長した昆虫が繭やサナギを壊し、現れるのと同じように。
それは祭りでよく見かける、稚児だった。
まだ小学校の低学年ぐらい……。小柄で華奢、どう見ても十歳より下にしか見えない。
小さな炎を噴き上げる金細工の冠を頭に乗せ、右目を呪文のような赤い文字の書かれた不気味な布で覆っていたが闇の中でも青白く光って見えるその横顔は、あまりにも美しくかわいらしく綺麗で――、到底、この世のものとは思えなかった。
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