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あの日真子が北海道へ旅立った時、拓は空港で号泣した。
目の前に飛び立つ飛行機には真子が乗っているのに、何もできずにただ茫然と泣き崩れていた。
ひとしきり泣いた拓は、その後抜け殻のような状態で家路についた。
途中電車の中から真子にメッセージを送ってみたが、既にその携帯番号は解約されていた。
おそらく友里に最後のメッセージを送った後、解約したのだろう。
やるせない気持ちのまま、拓は電車から友里にもう一度メッセージを送ってみる。
すると友里から返って来た言葉も、
【真子は既に携帯を解約しているみたい】
というものだった。
友里の見方は、おそらく真子が友里と繋がっていると居場所が拓にバレてしまうので、あえて自分とも連絡を絶ったのでは?
というものだった。
実は拓もそう思っていた。
そこで拓は考える。
自分の何がいけなかったのだろうか?
自分は気づかないうちに何か真子に嫌な思いをさせていたのだろか?
一生懸命考えてみたが、これだという答えは見つからなかった。
そして拓は必死に記憶を手繰り寄せる。
最後に真子に会った日の記憶を。
確かあの日は裏門で真子と待ち合わせをしていた。
そこで拓はハッとする。
(もしかして、俺がバスケ部の仲間と喋っていたのを聞いてたのか? いやそれだけじゃない。あの時は美紅も話しかけてき
て……)
そこで拓は両手で激しく頭を掻いた。
もしあの話をすべて真子が聞いていたとしたら?
きっとそれが原因かもしれない。
それ以外思い当たる理由はなかった。
真子はあの話を全て聞いていたのだ。
そして北海道への移住を機に、全てを終わらせようと何も言わずに去ったのだ。
拓はそう確信した。
(ちくしょう…俺はただ真子の笑顔が見られればそれで良かったんだ…なのになんで勝手に一人で決めて行ってしまうん
だ…)
拓は両手で顔を覆うと溢れ出る涙を必死に受け止める。
そんな拓の様子を、電車の中にいた人達は不思議そうにチラチラと見つめていた。
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そこで拓はハッと我に返る。
そして先輩の清水に言った。
「先輩、その写真俺に下さい」
「なんだ? やっぱりお前の大事な人だったのか?」
「はい、ずっと探していた人なんです」
「なんか訳アリっぽいな…わかったよ…ちょっと待ってろ」
清水はそう言うと写真を拓に転送してくれた。
「ありがとうございます」
「だったらお前本気でコンペ頑張れよ! この仕事を勝ち取ったら彼女に会いに行けるんだからな」
「はい、俺死ぬ気で頑張ります」
「その言葉を信じてるぞ」
清水は微笑みながら言うと、拓の頭をポンと軽く叩いてから自分の席へ戻って行った。
それから拓は死に物狂いで仕事に集中した。
通常の仕事の合間に、社内コンペの設計を進める。時には夜遅くまで事務所に残りその作業に没頭した。
その間中頭から離れないのは、写真に写る大人になった真子の姿だった。
8年経って見た真子は、ため息が出るほど美しく成長していた。
拓は何度も真子の写真を見ながら、精一杯の力を振り絞ってコンペに出す設計を仕上げた。
そしていよいよ社内コンペの発表の日が来た。
社員全員が集まったところで、社長の加納は声を張り上げる。
「えー、北海道のミュージアムの案件は、長谷川拓君、君にやってもらう事にしました」
その瞬間、
「よっしゃーーー」
拓は叫んでガッツポーズをする。
そんな拓に加納は笑顔で言った。
「なんだか凄い喜びようだな。拓、これにはお前にとっての分岐点だ。その若さでこの大きな案件を成功させたら、お前にと
っては大きな実績にもなるし名前を売るチャンスだ。その事を忘れずにしっかり頑張れよ!」
「わかりました。精一杯頑張ります」
その時、他の社員達からは拍手が沸き起こった。
「拓、頑張れよー」
「拓ー、北海道で食い倒れんなよー」
「拓ちゃん蟹のお土産待ってまーす♡」
同僚達からはからかうような声が飛んでくる。
しかしそこにいる誰もが拓の事を応援してくれていた。
それから拓は長期出張の準備を始めた。
コメント
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真子ちゃん、別離のつもりの連絡断ち✂️ でも拓君が自分の立場だったら、って考えてみて欲しかった。 8年後の北海道出張で「岩見沢の奇跡」は起きるのか⁉️