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#和風ファンタジー
#伝奇
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昨日と同じように電車に乗ってうちは隣町――、夢ノ宮に向かった。
駅の改札を出て、すぐにアーケード街に向かう。
時間帯は夕暮れが迫る買い物時になっていた。
そのせいか、大通りは日曜日と代わらないぐらい大勢の人であふれかえっていた。
むせかえるような熱気を感じながら、うちは雑踏の中を歩き始める。
少し緊張していた。いくら見た目がかわいいとは言え、相手は怪異。
これまでうちが受けて来た仕打ちを考えれば、思わず膝が震えてしまうのも当然だと思う。
だけど、今回は童ノ宮の神様が直々にゴーサインをくれた。
だからきっと大丈夫……。
「あっ……」
思わず声をあげ、うちは立ち止まっていた。
前方の人込みのなかにそれはいた。
後ろ足で立って歩くゴールデンレトリーバー……と言うか、犬のキグルミのような姿をした怪異が。某夢の国のキャラクター達のように両手に白い手袋をはめていることからシロテブクロと呼ばれているらしい。
昨日と同じように通りを急ぐ人々に何事かを話しかけ、無視され、大げさなぐらい肩を落としてションボリした仕草を見せると言うことを繰り返している。
うちとの距離は十メートルちょっと。その間を右へ左へと流れる人達で埋め尽くされているため、用意に近づけそうにない。
このままじゃ見失ってしまうかもしれない。
何とか回り込んで、話しかけないと……。
そう、うちが考えた時だった。
ポン、と肩に柔らかなもので軽く叩かれる感触。
それは肉球の感触だった。
はっと息を飲んで、うちが肩越しに振り返ると――
「こんにちは、お嬢さん」
キラキラと光る、緑色の瞳が顔を覗き込んで来る。
胸元まで長く垂れ下がったピンク色の舌からはハッハッという息づかいとともに湯気が立ち昇っているのが見えた。
思わずうちが後ずさりすると、シロテブクロは首を傾げ言った。
「あなた、アンディーをお探しでしたよね? 何かゴヨウでしょうか?」
シロテブクロが流ちょうな日本語で話しかけてくる。
いや、よく見ればその口は微塵も動いていない。動いたところであの口の形状では人の言葉ははなせないだろう。
こう言うとナンセンスに聞こえてしまうだろうけど、シロテブクロはテレパシーのような能力を有しているらしい。
「え、ええっと……」
うちは少し逡巡し――、右肩にかけていた愛用のポーチのなかをまさぐる。
取り出したのは犬用のオヤツ。うちの手のひらでは収まり切れないほど、ビッグサイズな骨型のクッキーだ。
何かの役に立つかもしれないと、さっき駅前のペット用の洋品店で買っておいたのだ。
「取り敢えず、これ。ご挨拶に――」
「お、おおー、これはこれは……」
うちの手から奪い取るようにしてオヤツをひったくり、シロテブクロは口のなかにそれを放り込んでいた。
ムシャムシャ、ボリボリと音を立てて食べながら、よっぽどオヤツが美味しかったのか、お尻の上に生え伸びた長い尻尾を千切れんばかりの勢いで左右に振り続けていた。
ほんの少し、間を置いて――
「ごちそうさまでしたぁ」
長い舌で口元をペロペロなめながらシロテブクロがうちを振り返る。
「あの、出来ればもう一つ……」
「ごめんな。持って来たオヤツは今のだけなんよ」
うちの返答にシロテブクロの犬そのもの瞳が悲しみに潤む。
キューンと悲痛な鼻声をあげている。
何や、このかわいい生き物……?
いや、怪異か。こんな怪異ばっかりなら、うちもお父さんも苦労なんかしないのに。