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週末は家族連れで賑わう関西は地方の大型ショッピングモールの四階・・・・
十個の教室が並ぶカルチャーセンターの、一番奥まった小さな少人数制の教室、蛍光灯の白い光がやけに冷たく感じられる文化教室
毎週水曜日、月四回のこの教室で、『美樹桜子の小説教室』は行われていた、ホワイトボードの前に立って講師の美樹桜子が微笑んで生徒に話しかけている
十年前、自信の著書が二十万部を売り上げ、読売新聞の一面を飾った小説家――それが美樹桜子、四十歳の肩書きだった、もっとも、その肩書きを覚えている生徒は、この教室にはほとんどいない
「今日は『キャラクター設定』を学びます」
桜子はマーカーを持つ手に力を込め、静かに言葉を続けた、
「物語でキャラクターはとても大事な要素の一つです、ありきたりな設定でも、キャラクターを生き生きと書いていると読者の心を掴み、読まれやすくなります」
そう言いながら、桜子は教室に座る作家志望の生徒達をぐるりと見渡した、本来なら今日の予約数は二十五人にならなければいけないのに、ドタキャンが五人も出ている、頭の中で反射的に計算が走る
一か月の受講料一人七千円、それが五人分消えた計算になる・・・また日割りで授業料の払い戻しをしないといけない、教室のレンタル料は月に八万円、残ったわずかな金額が桜子の生活費のすべてだった
―来月になればまた新しい生徒が入ってきてくれますように―
そう自分に言い聞かせるのが、もう習慣のようになっていた、十年前に書いた自著『花乱』は、当時二十万部を売り上げ、桜子をベストセラー作家の片足だけ踏み入れさせてくれた、だが、桜子はもともと「作家になりたい」と強く願っていたわけではなかった
コミュ障で内向的な性格、加えて家が貧しかったこともあり、幼い頃から図書館で一人過ごす時間が長かった、おのずと人生における読書量は普通の人よりずっと多くなった、読んでいたのは各出版社が世に送り出すベストセラーばかり、おかげでそれぞれの出版社が好む「作風の傾向」までもが、自然と桜子の中に蓄積されていった
最初に死体を転がすのはあそこの出版社、シンデレラストーリーが得意な出版社は、まず主人公が身内から徹底的にいじめ抜かれなければいけない、中には身内が皆殺しにされるところから物語が始まるものさえある、浮気された主婦の断罪ストーリーは、ヒーローとなる人物のキャラクター造形がすべてを決める
桜子は趣味半分で、そうした各出版局の「傾向と対策」をノートにまとめていた、だからこそ自分が目星をつけた出版局の公募に、その出版局が求めるテンプレート通りの作品を書いて応募し、賞を受賞したときも「当然だ」とどこかで高をくくっていた
心の中から創作の泉が花を開き、奇跡の様に才能を発揮させて、心躍る物語を独自で紡いだのではなく「何かの模倣」が得意だったのである、桜子は自分の得意なそれを密かに「パッチワーク執筆法」と読んでいた、あっちの良い所を拝借して貼り付け、こっちのエピソードをひっつける、設定はどこかの誰かが書いたものを取って来て、そうしてごちゃまぜにミキサーに入れて攪拌したものがたまたま賞を取って20万部売れたというだけ
なのにあの頃、桜子は本気で思っていたのだ、自分は宮部みゆきになれると、第二の村上春樹にも、東野圭吾にもなれると思っていた
コメント
2件
今はその方法に虚しさも去来するんだろうな
うわあ、このエピソード、じわじわと胸に来るものがありますね……。桜子先生の「パッチワーク執筆法」という自己分析、読んでいてすごく生々しかったです。あれだけ売れたのに、自分の中から湧き出たものじゃないって自覚している苦しさ。でも「第二の村上春樹になれると思った」っていう過去の自分の純粋な驕りも、痛いほど伝わってきました。ショッピングモールの片隅の教室と、かつての栄光のギャップが、静かに残酷で。この先どう転ぶのか気になります。
ruruha
2,018
ruruha
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MaruM
19
ruruha
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