テラーノベル
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翌朝、真子は工房に出勤した。
今日の染色教室は午後からだったので、午前中は美桜と二人それぞれの作品作りに没頭していた。
真子はこの日ボーッとしていた。そんな真子の様子にさすがの美桜も気付く。
「真子、二日酔い? なんかぼーっとして変だよ?」
「うん……」
「ちょっとぉー、大丈夫? 体調でも悪いんじゃないの?」
美桜はそう言うと織機に添えていた手を止め、真子の傍へ来ておでこに手を当てた。
「熱はないわね、一体どうしちゃったの?」
美桜はそう言いながら、ミニキッチンへ行き二人分のコーヒーを入れた。
真子のカップにはミルクをたっぷり入れカフェオレにしてから真子に渡す。
「そろそろ休憩にしましょ。で? 何があったの? 話聞くわよ」
美桜はそう言ってコーヒーを一口飲んだ。
美桜はいつもそうだ。
真子が悩んでいるとすぐに気づいていつも親身に相談に乗ってくれる。
そんな美桜の思いやりに感謝しつつ、真子はカフェオレを一口飲んでから話し始めた。
「昨日拓に会ったの」
一瞬美桜は「えっ?」という顔をする。
かなり驚いているようだ。
それから急にハッとしてから言った。
「えっ? えっ? 拓ってあの高校の時の?」
「うん」
真子はこれまでの事を全部美桜に話していた。
心臓病の事
高校時代に拓という彼氏がいた事
その後拓から逃げるようにして北海道へ引っ越して来た事など全てだ。
だから真子の言葉を聞き、美桜はすぐに状況がわかったようだ。
「昨日って? えっ? 居酒屋では何も言ってなかったじゃん。いつ会ったの?」
「居酒屋の帰りに声をかけられたの」
「…………」
美桜は驚きを隠せない様子だった。
美桜が知っている限り、拓という男性は真子の居場所を知らないはずだ。
それなのに二人はこの町で再会したという。
だから余計に美桜は驚いていた。
そこで真子は昨夜あった事を全て美桜に話した。
もちろん、拓とキスした事以外をだ。
「へぇー、そんな偶然ってあるんだぁ。びっくりだねぇ」
「うん、びっくりだよ。一瞬頭が真っ白になったもん」
「でもさぁ、写真で真子を見ただけでここまで来るって凄いよね。だってその仕事を勝ち取れなかったら別の人が来ていたかもしれないんでしょう? それって凄くない? まさに愛の力ってやつだわー」
「そうかなぁ?」
「そうだよ。その若さでそんな大きい仕事普通出来る? 私達だってまだまだじゃん。それを彼は真子に会うために必死で掴み取ったんだよ、凄いよねー。まあ何がなんでも真子に会いたかったんだろうなー」
(拓は本当に私に会いたくて頑張ったの?)
真子がそう思っていると美桜が言った。
「お揃いのシルバーリングもはめてたんでしょう? 真子だっていつも肌身離さず着けてるし…それってただの両想いじゃん」
美桜はクスクスと笑いながら言った。
「そうなのかな?」
「うん、そうだよ。男が指輪をしていたら特定の人がいると思われてモテないじゃん。それなのにずっと身に着けていたなんて…なんかいじらしくて涙出そう」
美桜が大袈裟に目を指で拭うふりをしたので、真子は思わず笑った。
「嘘泣きバレてまーす」
「あ、バレちゃった?」
そこで二人は声を出して笑った。
「とにかく日曜日はデートなんでしょう? だったらいっぱい話しておいで。今まで話せなかった事も全部ね。ちゃんと自分に正直になるんだよ。せっかく運命の再会を果たしたんだから」
「わかった。美桜ありがとう」
「うん。じゃあそろそろ午後の準備を始めよっか」
美桜はそう言うと、コーヒーを飲み干した。
そして日曜日がやってきた。
真子はなぜか緊張して朝早く目覚めてしまう。
ベッドを出ると、カーテンの隙間から外の景色を覗いた。
すると東の空が徐々に白んでいくのが見える。真子はしばらくそのまま空の色の変化を楽しんだ。
朝食は拓が一緒に食べようと言っていたので、コーヒーを入れて飲んだ。
今日は拓と一日中一緒にいられると思うと胸が高鳴る。
(何を着て行こうかな)
真子は飲みかけのカップを置くと、クローゼットの中を覗いた。
(車の乗り降りをするから、パンツの方が動きやすいかな)
そう思った真子は、普段仕事で履く機会のない白いパンツを選び、
ラウンドネックのラベンダー色のブラウスを合わせる事にする。ブラウスはリネンなので涼しくて肌触りも良い。
真子は長い髪を後ろで一纏めにすると、化粧を始めた。
デートの為の準備をするなんて何年ぶりだろう。
真子は高校生の頃、休日に拓と会う前におめかしをしていた頃を思い出していた。
あれから8年が経過していたが気持ちはあの頃と同じままだ。
気付くと真子は鼻歌を歌っていた。
支度が終わり鏡を見た瞬間、ふとネックレスに目が留まった。
真子はネックレスを一度外すと、細いチェーンから指輪を引き抜く。
そして拓と同じように右手の薬指にはめた。
そして三日月のネックレスは再び首に着けた。
仕上げに拓がいい香りだと言っていたバラの練り香水をつけて準備は終わった。
「よしっ! これで準備OK!」
真子はそう呟くと鏡を見てニッコリと微笑んだ。
コメント
1件
美桜ちゃんの言葉で拓君が北海道に来てくれた理由に気付けたね🤭 ほんとに両思いなんだよ👩❤️💋👩🌙のネックレスもペアリング💍も肌身離さず持ってるし🤭 真子ちゃんもデート仕様もばっちり👌です✨💞 さぁこれから8年分の思いを詰め込んでたくさん話してお互いの思いを伝えてね😊👍💕❤️