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#和風ファンタジー
#異能
#和風ファンタジー
柴崎ゼナ:
資料コードBKT-7-2、分類は古民具。
名称は「無貌」。
マスコミは例の事件で能面と報じていたが、正確には違うな。
観阿弥・世阿弥親子によって能が成立したのが室町時代だが、分析班によるとあの面はもっと古い。
恐らく奈良時代の田楽猿楽、もしくはそれ以前の神事に用いられたのだろうということだ。
材質は恐らく木材から削り出していると思われるが、樹種が何なのか、未だに判定できていない。
……で、この施設に回収されてすぐ、我々はあの仮面を破壊処分しようとした。耐久テストのつもりでね。
トウヤ:
そ、それでどうなったんですか?
柴崎ゼナ:
ん。やっぱり、というか思いついたことは全部試してみたけどダメだったね……。
火炎放射器でいくら燃やしても、粒子分断カッターで何度斬りつけても、高調圧プレス機で圧し潰そうとしても傷一つ付けられなかったよ。ホント、嫌になってしまうね……。
(画面切り替わり、再びゼナのオフィスへ)
トウヤ(オフ):
あの、面に伝わる伝承の類はないんですか?
子供向けの妖怪大図鑑とかに載ってそうなシンプルな情報でも何かの参考に――。
柴崎ゼナ:
ない。
トウヤ:
……。
柴崎ゼナ:
歴史資料分析班が文献を漁っているが今のところ、目ぼしい成果はないね。
……それで、だ。今回の事件の加害者、あるいは被害者とも言うべき少年Aについてだが――。
(画面切り替え、小さな病室を斜め上の天井カメラから見下ろした映像)
(ベッドで寝かされているのは顔をモザイクで覆われたAと思しき少年)
(全身に拘束具を着せられているが、暴れているのかベッドが激しく揺れている)
音声:
ああああああああああああああああああああああああ!
いない!いない!僕がいない!いないない!どこにもいない!
誰だよ僕は誰なんだよなあ誰だよなあ誰誰誰誰誰誰誰誰誰ェ!
(画面切り替わり、再び柴崎ゼナのオフィスへ)
柴崎ゼナ:
これぐらいにしておこうか。私はこれでも医者だからね。苦しむ人間の姿を晒すのは気が引けるよ。。
トウヤ(オフ):
え、ええ……。これは胸が痛むってレベルじゃないですね……。
柴崎ゼナ:
Aの状態は典型的な自己同一性の崩壊だ。加えて周囲に対する強い攻撃性……。恐らく「無貌」を着用したことによって彼は日常的なイジメのストレスを刺激され、心の輪郭を破壊されたんだろうね。
トウヤ(オフ):
……心の輪郭?
柴崎ゼナ:
言い換えれば、アイディンティーだ。「自分は自分である」と言う認識。
例えば塚森トウヤ。君は自分をどう定義する?
父親で夫、塚森家の外縁。外法の継承者。そして組織の一末端。
そのグラデーションに強弱はあると思うが、肩書だけでも君には様々な「顔」があるわけだ。
もし、「無貌」の能力がそれらを一つに統合、着用者の精神構造をたった一つの感情、例えば憎悪で固定化することだとすれば……?
トウヤ:
……感情を固定化する?
柴崎ゼナ:
そうなると着用者は生涯、憎悪の感情に支配され続ける。つまり、自分の「顔」がわからなくなるんだ。
……憎悪に限らず、強い感情にはそれだけの力があると私は思っている。感情とは魂の具現化、ほとばしりでもあるからね。
(トウヤ、息を詰まらせる音)
トウヤ(オフ):
む、難しい話は俺にはよくわからないけれど……。
何とか、Aくんを元には戻せてあげられないんですか?
柴崎ゼナ:
リスペリドンやハロぺリドールと言った抗精神病薬、強い不安やパニックを抑えるための抗不安薬の服用に加え、専門医による記憶操作などは行っているが……。
あまり改善効果は期待できないね。
(沈黙)
トウヤ(オフ):
……あの、ちょっとわき道にそれた質問してもいいですか?
「無貌」の能力って、感情や魂を「統合」し、「固定化」するって仰いましたよね?
柴崎ゼナ:
……ああ、言ったな。
それが何か?
トウヤ(オフ):
い、いや、それって逆を言えば――。
上手く調節すれば離れ離れになった魂と身体を一つにすることも……。
柴崎ゼナ:
(鋭い視線でトウヤを見つめながら)
……塚森トウヤ。君、何を考えている?
トウヤ(オフ):
い、いや!何でもないです!(愛想笑いの声)
素人の戯言だと思って忘れてください!
柴崎ゼナ:
……まあいい。
後は――、そうだな……。
「無貌」を使ったちょっとした実験を行ってみたんだけどそれについて聞きたいかい?
トウヤ(オフ):
じ、実験って――、どんな実験なんですか?
柴崎ゼナ:
至ってシンプルなやつだよ。
かぶったんだよ。「無貌」を。私を含めた、白虎機関の人間から有志を10人ぐらい集めてね。
スタジオ・マリン:
は……?
柴崎ゼナ:
そんな顔することないだろ?(苦笑い)
そもそも私達白虎機関の研究者と言うのは、怪異と呼ばれる現象を解明するためなら死んだって構わないぐらいのことは普通に思っている変人ばかりだからね。
呪われた仮面をつけるなんてチャンス、そうそうあるもんじゃなし、希望者も今回の定員を遥かに上回っていた。確か五十人は下らなかったんじゃないかな。
もちろん、誰にも無理強いなんてしてない。
トウヤ(オフ):
いや、俺にはちょっと理解できませんね……。
自己犠牲の精神ってことですか?
柴崎ゼナ:
もちろん、違う。(笑い声)みんな、いろいろ事情があるんだろうが――、少なくともこの私は違う。
百パーセント、自分のためだ。
四年前、怪異から受けた霊毒のせいで異形化し、それ以来ずっと腹の中に居続ける我が子に会えるヒントを少しでも掴めるなら何だってするよ。
……私って意外と普通の母親だろ?
トウヤ(オフ):
……。
柴崎ゼナ:
だから、絶句するなって。(笑い)
そんな顔をされたら、さすがに気まずくなるじゃないか。
と言うことで――。
実験内容をまとめてみたから確認してくれ。
(画面が切り替わり、解説ボードが表示される)
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【実験対象】
怪異医学博士柴崎ゼナを含めた白虎機関職員10名。
【手順】
呪符などによって霊的防御を施された対象者が呪物「無貌」の正面に座って手に取り、60秒間着用する。
不測の事態に備え、実験室には武装した青龍機関【警備員】を二名以上配置。
【実験結果】
対象者は呪物の前に着席 →変化なし。
対象者は呪物を手に取る →変化なし。人によっては微かな不快感。
対象者は呪物の目孔と視線が合う →面をかぶりたいという強烈な欲求が湧いて来る。
着用五秒後 →着用した面の縁が次第に皮膚のめり込むような感覚。
着用十秒後 →呼吸が浅くなり、冷や汗があふれる。
着用十五秒後 →目の焦点が合わなくなり、激しい頭痛。
着用二十秒後 →対象者の過去のトラウマがフラッシュバック。対象者は激しく動揺した様子を見せる。
着用三十秒後 →感情の統合が開始。
着用六十秒後 →自我の分離が開始。
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(画面が切り替わり、再び柴崎ゼナ博士のオフィス)
トウヤ(オフ):
いや、いやいやいや!
これ、どう考えてもダメなやつじゃないですか!?
柴崎ゼナ:
むしろ、「ダメ」でなきゃダメなんだよ。
これはできるだけダメージを抑えつつも、少年Aの身に起きたことの再現――「無貌」による霊的汚染、つまり、呪いがいかにして進行するかを確認するための実験なんだから。
トウヤ(オフ):
それで?……実際、何か成果はあったんですか?
柴崎ゼナ:
悲しい報告とまあまあ喜ばしい報告の二つがあるよ。
どっちから聞きたい?