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一週間後、岳大はアシスタントの井上と共に都内のカフェにいた。
二人がカフェに入ってからしばらくすると、山岳出版の前田が三十歳前後の女性を伴って現れた。
前田は岳大を見るなり、
「いやー、佐伯君、お久しぶりです。今年の夏もよろしくお願いしますよ」
そうにこやかに話しかけて来た。
前田は五十代の男性で、出版社の編集長をしている。
彼は岳大が二十代の頃からの知り合いで、もう二十年近くの長い付き合いだ。
最初に二人が出会った時、岳大はまだ写真家としては活動しておらず、
登山家として度々前田の雑誌に取り上げられていた。
その後、岳大が山岳写真家として本格的に活動するようになると、
前田の雑誌に岳大の写真が度々採用されるようになった。
今ではその雑誌には岳大の写真は欠かせないものとなっていた。
「前田さん、ご無沙汰しております。今回もよろしくお願い致します」
岳大は無精ひげを生やした山焼けの真っ黒な顔で微笑んだ。
すると前田は、岳大の隣にいた井上を見て、
「井上君も今回の企画では頼りにしていますので、よろしく頼みますね」
と声をかける。
すると井上は嬉しそうに、
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
と笑顔で返した。
それから前田は横にいた女性を二人に紹介する。
「彼女は今回一緒に立山について来てもらう朝倉亜由美さんだ。こういった現地での仕事は初めてなので、
イチから指導してやって下さい」
「朝倉です。編集者としてはまだまだ未熟者なので、ご指導よろしくお願い致します」
朝倉はそう挨拶をすると、二人に名刺を渡す。
名刺を受け取った岳大は穏やかに微笑みながら、
「朝倉さん、こちらこそよろしくお願い致します」
と言った。
隣にいる井上もぺこりと頭を下げた。
それから四人は席に座ると打ち合わせに入った。
今回は夏山特集という事で、佐伯が得意とする山での天の川撮影をメインとした企画が組まれている。
岳大が撮る山と星空の写真は、岳大の写真の中で一番の人気だ。
今回撮った写真の一部は雑誌の年末付録のカレンダーにも使う予定なので、
様々な表情の写真を撮る必要があった。
標高の高い立山の夏は、ガスがかかる日も多くクリアな星空が見られる日は少ない。
その為少し余裕のある日程を組み、天候のいいチャンスを見計らって
岳大に立山と天の川の大絶景を捉えてもらおうという計画だ。
撮影期間は一週間を予定しており、山の麓の宿を拠点にして撮影を行なう。
前田が手掛ける雑誌「peak hunt(ピークハント)」は、今までにないタイプの山岳雑誌という事で
かなりの人気を博していた。
昔からあるありきたりの登山雑誌とは一味違い、
初心者からベテランまでが楽しめるようなページ構成になっており多くの女性ファンもいる。
少し前に起きた登山ブームに合わせ、
お洒落なアウトドアファッションやキャンプ用品に重点を置いたり、
山登りへのハードルを下げる初心者向けの企画なども多数採用し、
幅広い年齢層の読者を増やしている。
それ以外にも、岳大がプロデュースしているアウトドアブランドとの提携も行なっていた。
立山は、佐伯が山岳写真家として成功した山でもあった。
岳大が撮影した『みくりが池』と星空の写真は、岳大の代表作と言えるほど有名になった。
今ではその写真は、鉄道会社のポスターやロックバンドのアルバムジャケット、
大手カメラメーカーや大手自動車会社のパンフレット等、様々な企業に使われている。
岳大は打ち合わせをしながら、今回の立山での仕事では何かが起こりそうな予感がしていた。
それが何なのかは全く想像がつかなかったが、今までとは違う何かがあるような気がした。
しかしそんな逸る気持ちを押さえながら岳大は打ち合わせに集中した。
コメント
5件
もしかして〜ロックバンドのアルバムジャケットって?あの海斗さんの? ここでも繋がります?🤭
この朝倉が後から絡んで来るの?🤔🤔🤔
ムムムッ🤨🤨🤨 ↓私も気になりました🤭岳大さん狙い❓ 無精髭に山焼けの色黒🤭🤭🤭 岳大さんワイルドだぜぇ🩷 タイプかも🤭🤭🤭 岳大さんにとって 運命の出会いが待ってるのかもですね(*´艸`*)✨