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8 外法頭③
アンディーは弾けて消えた。
風にあおられたシャボン玉みたいに。
一瞬、世界から全ての音が失われたかのような感覚にうちは捕らわれる。
と、舌打ちする音が聞こえた。
コウだった。
「全く余計な仕事させやがって」
自分のお母さんの頭蓋骨――、外法頭を呪術的な装飾のある箱に収容しながらコウが言った。
「組織との契約は一か月、あいつの監視と報告書の作成だからな。お陰で報酬がパァだよ。どうしてくれるんだ?」
「コウちゃん、あんた……」
思わずうちは従兄弟を睨んでいた。
お腹の底から絞り出した声は自分でも耳障りなほど濁っていた。
そんなうちには構うことなく、コウは言葉を続ける。
「言っておくけど、経費分はレイジおじさんに払ってもらうからな。……ほら、立てよ。人目についたら何かと面倒だからな」
そう言ってコウが手を伸ばして来る。
ブツッとうちの頭の中で何かが音を立てて切れた。
「――なんで!? なんで、あんなことすんねん!? やめてって言うたやろ!?」
差し出された手を払いのけ、うちはコウにつかみかかっていた。
間違った行為だと頭では理解していた。だけど、うちは自分の感情が押さえきれなかった。
バンバン、とコウの胸元を平手で叩き脛を蹴飛ばそうと爪先を飛ばす。
腹立たしいことに全部、寸前でよけられていたが。
「あの子は、アンディーはただパニックを起こして他だけや! それやのに、よくも、こんな酷いこと……!」
「あぁ、もう! 鬱陶しいなぁ!」
短く怒声を張りあげるコウ。
肩を――怪我をしていないほうを指先でトンと押される。
軽く触れられただけのように感じたが、それでもうちは後ろに身体を派手に転倒させられていた。
「ギャーギャー騒ぐなよ。……頭の上の蠅も追えない子どもの分際で」
コウの口調には、溢れた悪意が滴り落ちるような響きがあった。
冷たくうちを降ろす瞳には煮えたぎるような光――、鬼火が宿っているのが見えた。
東雲さんやさっきのアンディーと同じ……。
「大体、こうなったのは誰のせいだ? 僕はあの怪異にかかわるなって警告したよな? それを無視して……そんな大怪我まで負いやがって」
そう言ってコウはうちの鼻先に人差し指を突きつける。
「お前だよ、キミカ。お前が、お前のその無責任な善意とやらが僕にこんな胸糞の悪い仕事をさせたんだ」
「……」
反論はできなかった。
当然だ。コウの言うことはすべて正しい。
だけど、それでもうちには受け入れがたかった。
唇を噛みしめるようにして顔を背ける。
「……ああ、そうかい。じゃあ勝手にしなよ」
うちの拒絶にコウが鼻を鳴らす。
「だけど、一つだけ忠告しといてやる。……この程度のことでベソかいてるようじゃ塚森家の人間でいることなんて到底無理だ。恋人でも何でも、守ってくれそうなやつを見つけけて――、さっさっと出て行け」
うちは答えず、荒れ果てた庭の地面を睨みつけていた。
呆れたようにコウがため息をつき、足音を立ててこの家を去るまでずっとそうしていた。
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