その日、昼の休憩で優羽はアイスコーヒーを持って自室へ戻った。
机に座りながらぼんやりと窓の外を眺めていると携帯が鳴った。
見ると岳大からの着信だったので、優羽は慌てて電話に出る。
「はい、森村です」
「ちょうど昼休みかな? ちょっとバタバタしていて連絡遅くなって悪かったね。そちらはどうですか? 変わりはない?」
「はい、あ、いえ、実は今日舞子さんのお母様がお亡くなりになって……」
優羽はそう言ってから、仕事に全く関係ない話をしてしまった事に気づきハッとする。
しかし岳大は気にする様子もなくこう言ってくれた。
「舞子さんて、たしか花嫁さんのブーケを作って来た方だよね? それはお気の毒に。お母様もまだお若かったのでしょう?」
「はい。まだ六十歳前後だったと思います。舞子さん、身体の弱いお母様の為にいつも一生懸命お世話していからかなり気落ち
していると思います」
優羽がしょんぼりしてそう言うと岳大が言った。
「精一杯お世話をして差し上げたのがせめてもの救いですね。きっとお母様は天国で感謝されていると思いますよ。舞子さんは
まだお若いから、これからは自分の人生をしっかりと歩まれるといいですね」
優羽も心からそう思った。舞子はいつも自分の事を後回しにして母親の介護に明け暮れていた。
これからは、自分だけの人生、自分の為だけの人生を楽しんでいってほしいと心から思った。
舞子の話題が一段落すると、岳大が言った。
「今日電話したのは『peak hunt5』の新しいカタログについてなんです。新作が出来上がったのでウェアや小物類の写真を送
りますので優羽さんなりにコーディネートを考えて貰えますか? 服と小物の組み合わせや、どんなイメージの人に着てもら
うか等。で、どういう場所で撮影したらいいかなど、とにかく思いついた事を何でもいいので具体的にイメージしてみて下さ
い。大体のイメージがまとまったら、僕のパソコン宛てに送ってくれると助かります。期限はそうだなぁ…十日以内で。山荘の
仕事とかけもちで大変だとは思いますが、よろしくお願いします」
「いよいよリニューアルですね! 承知しました。頑張ります!」
優羽は岳大にそう言った後続けた。
「あの、この間は帰り際に写真を二枚、ありがとうございました」
「いえいえ、プレゼントするとお約束していましたからね。気に入っていただけましたか?」
「もちろん! 星空なんて見違えるほど素晴らしくなっていてびっくりしました。あと、流星との写真もありがとうございま
す。とても素敵に写していただいて……」
「いえ、僕は人物写真はあまり撮らないので苦手なんですが、でもそう言っていただけて嬉しいです」
「はい。早速部屋に飾っています。流星もあの写真を見てたけちゃん元気かなぁと時々言っていますよ」
すると岳大は優羽にこう告げた。
「そうですか。だったら伝えて下さい。また近いうちにそちらに行くからと」
電話をしながら優羽がふと窓の外に目をやると、そこには今まで見た事がない青色の小鳥がやって来た。
その時優羽の頭には、子供の頃に読んだ『幸福の青い鳥』の物語が浮かんできた。
コメント
3件
岳大さんの言葉って何があっても前向きにしてくれるよね。そして幸せを呼ぶ青い鳥が舞い込んで来た?
岳大さんの言葉使いが好き😍 デスマス調だけど、2人を想う気持ちがこもってるなぁって💝
優羽ちゃんから舞子さんのお母さんの話が出て岳大さんの気遣いの言葉が優しい🍀 優羽ちゃんと流星君の写真のお礼もしっかり伝えて優羽ちゃんへの仕事の件も少しずつ順調に進んでるのがとても幸せ😊❣️