それからの拓と真子は、いつも一緒に帰った。
拓は部活を引退後バイトを始めていたが、引越し会社の単発バイトだったの土日限定だ。
真子が週三回美術の予備校へ行く日は、海やカフェに行きお喋りをする。
真子の予備校がない日には、駅ビルの中をぶらぶらしたり、
書店やファミレスに寄ったり、時には図書館に行って勉強する事もあった。
拓は頭がいいので、真子が解らないところを質問すればすぐに教えてくれる。
また週に1~2回は友里と敦也と合流し、四人で遊ぶ事もあった。
そんな日々を過ごしていると、いよいよ修学旅行が間近に迫っていた。
四人が通う高校の修学旅行の行き先は、ありきたりな京都だった。
「中学も京都だったのにまたかよー。どうせなら沖縄とか北海道が良かったな―」
敦也はついつい愚痴を漏らす。
しかし真子と友里の女子二人は、
「京都は風情があっていいじゃーん」
「そうそう、京都大歓迎!」
と嬉しそうだ。
そして修学旅行を目前にした日曜日、真子と友里は修学旅行で着る私服を買いに出かけた。
観光の際には制服での行動が決まりだったが、宿泊先での自由時間では私服がOKだ。
女子生徒達はここぞとばかりにおしゃれをするのが習わしだ。
二人は地元の大型ショッピングモールへ出かけた。
そこで気になる店を片っ端から覗いていく。
そして互いにあーだこーだとアドバイスをしながら欲しい服を探す。
その結果、二人ともお気に入りの服を無事に買う事が出来た。
友里はグレーの小花柄のミニスカートにオフホワイトのブラウス。
真子はデニムのミニスカートにベージュのリネンのセーター。
友里は可愛いタイプ、真子はボーイッシュなタイプに落ち着く。
ショッピングが一段落すると、二人はオムライスが美味しい店に入った。
デミグラスソースのオムライスを注文した二人は、
早速ドリンクバーから飲み物を持ってくる。
そこで友里が言った。
「実はさ…昨日しちゃった」
「えっ?」
突然友里が告白したので真子は驚く。
「したって言っても『キス』だけどね」
友里はそう言って笑った。
「そうなんだ…びっくりしたーいきなり最後までかと思ったよ」
「違う違う。でもね、敦也ったら意外と真面目なんだよ。以外とチャラくないの」
「へぇーそうなんだー。でもそれってなんかいいね。だって友里の事を大切にしている感じがするもん」
「そう思う? キャーッやっぱりそうなのかなー!」
友里は嬉しそうに叫んだ。
「で、どこでしたの?」
「私の部屋。ほら、時々うちに来て勉強してるから」
「キャーッ、部屋でイチャイチャかぁ…なんかいいなぁ」
「真子は? どこまでいった?」
「うーんとね、ほっぺにチュッかな」
「おーっ、おめでとうっ! 真子のほっぺたバージンは拓に捧げたのかぁ」
「ちょっと大げさ過ぎ」
「じゃあ次は唇キスだね。私の予想だと修学旅行辺り?」
「旅行中はみんながいて無理でしょ」
「そんな事ないよ。自由時間で二人っきりになれる場所に行けばいいんだよ」
「三年生がいっぱいいるんだよ。それは無理!」
真子はそう言うと、メロンソーダを口にした。
それから二人は恋バナを続けながらオムライスを食べる。
食事の後は雑貨の店をぶらぶらと見てから、その後二人は別れた。
真子はバスに揺られながら家へ帰る。
自宅に着いた真子は玄関を入ってから言った。
「ただいまー」
「おかえり。気に入った服は買えた?」
「うん。友里に一緒に見て貰っていいのが買えたよ」
真子はそう言って、買ったばかりの服を母親に見せる。
「あら、可愛いじゃない。私服はそれでいいとして…あといる物は?」
「特にないよ」
「そう? なら準備は大丈夫ね。それはそうと今度の病院お母さんもついて行く事になったわ」
「え? どうして?」
「そろそろ手術の事で先生が話をしたいんですって」
「手術?」
「そう。手術は高校を卒業した後かなーって思ってたんだけれど、この前の検査の数値が悪かったのかしらね? ちょっと早ま
るのかもしれないわ」
母の英子が言った。
「そうなんだ…」
「とにかく次の診察にはお母さんも一緒に行くからそのつもりでね」
「うん、分かった」
真子はそう返事をすると、階段を上がり自室へ向かった。
部屋に入った真子は、買い物袋を床へ置くとベッドに腰かける。
(もう手術しなくちゃなんだ…)
あまりにも急な話だったので、これから先の事が不安になる。
受験時期に重なったらどうなるのだろうか?
それ以外にも不安がもう一つあった。
それは真子がずっと考えていた不安だ。
真子は今の担当医である杉尾隼人にだけは手術をして欲しくないと思っていた。
だからもし具体的に手術の話が決まったら、
両親には他の医師に替えて欲しいと伝えるつもりだ。
『なぜ杉尾先生ではダメなの?』
もしそう聞かれたら、どう答えていいのかわからない。
しかし、単なる我儘だと思われても困る。
そう思うと、真子は一気に憂鬱な気分になった。
重苦しい雰囲気の中、突然真子のスマホが鳴った。
スマホを見ると拓からメッセージが来ていた。
【友里ちゃんとの買い物どうだった?】
真子はすぐに返信する。
【可愛いのが買えたよ】
【そっか。旅行で見るのが楽しみだな】
【拓はバイトどうだった?】
拓は今日は引っ越しのアルバイトだった。
【今日は金持ちの家の引っ越しだったからチップをいっぱい貰えたぞ】
【良かったねー】
【うん。だから明日カフェで奢ってやる】
【やったー! コーヒーゼリーも食べたーい♡】
【…ったく、「♡」をつけられたら奢るしかないだろう? この卑怯者!(笑)】
拓とやり取りをしていると嫌な事は全て忘れられた。
そして先ほどまの重苦しい気分も軽くなる。
気付くと真子の憂鬱な気分がすっかり消えていた。
(病院は修学旅行の後だし、とにかく今はあまり考えないようにしよう…)
真子はそう心に決めると、しばらく拓との他愛もないメッセージのやり取りを楽しんだ。
コメント
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友里ちゃんとお互いの恋バナに花咲かせてとても楽しそう⤴️😊💞でも手術の話を聞くとあのセクハラ医師の悪行を思い出す💢なんとか他の先生で出来ないのかな。。。