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帰り道は静かだった。
氷王の城を出てから三日が過ぎていた。
戦いは終わったのに、まだ少しだけ現実感がなかった。
山道を歩く。
雪が残っていた。
来るときよりも、少しだけ溶けていた。
陽和はいつも通り真ん中を歩いていた。
レオルが前。
ミナが後ろ。
フィルが横。
いつもと同じ並びだった。
レオルが言った。
「もうすぐ町です」
陽和は言った。
「そうですか」
ミナが言った。
「反応が薄いわね」
陽和は少し考えた。
「終わった感じがしなくて」
フィルが言った。
「氷王は確かに討たれました!」
確かだった。
間違いなかった。
だが。
陽和は言った。
「帰るまでが勇者って感じがします」
レオルがうなずいた。
「その通りです」
少しだけ歩く。
ミナが言った。
「最初から最後まで動かなかったわね」
陽和は言った。
「少しは動きました」
「転んだくらいでしょ」
否定できなかった。
フィルが言った。
「しかし祝福は偉大でした!」
レオルが言った。
「本当に助かりました」
陽和は少し照れた。
「三メートルですけど」
ミナが言った。
「狭いけど役に立ったわ」
その言い方は少しだけ嬉しかった。
その日の夜。
野営になった。
久しぶりだった。
焚き火を起こす。
火が安定する。
四人で座る。
いつもと同じだった。
空は晴れていた。
星が見えた。
フィルが言った。
「平和ですねえ」
ミナが言った。
「急に終わった感じ」
レオルは黙って火を見ていた。
陽和も火を見ていた。
暖かかった。
火の暖かさ。
そして。
少しだけ違う暖かさ。
自分の祝福だった。
レオルが言った。
「勇者様」
陽和は言った。
「はい」
「この旅をどう思われますか」
少し考えた。
難しかった。
だが。
言葉は出てきた。
「役に立ったならよかったです」
レオルが言った。
「もちろんです」
ミナが言った。
「かなり助かったわよ」
フィルが言った。
「伝説になります!」
それは困る気がした。
陽和は言った。
「盛られませんかね」
ミナが言った。
「盛られるわね」
レオルが言った。
「多少は」
フィルが言った。
「偉業として語り継がれます!」
たぶん違う形になる気がした。
火が小さく揺れた。
静かな夜だった。
しばらくして。
レオルが言った。
「勇者様は特別でした」
陽和は言った。
「そうですか」
「はい」
少し間があった。
レオルは続けた。
「強さではなく」
火を見たまま言った。
「一緒に戦える場所を作ってくださった」
陽和は少し黙った。
そんなふうには考えていなかった。
ただ立っていただけだった。
ミナが言った。
「まあ確かに」
フィルが言った。
「祝福の力です!」
陽和は言った。
「三メートルですけど」
レオルが少し笑った。
珍しかった。
「十分でした」
夜が深くなった。
火が小さくなる。
陽和は毛布にくるまった。
暖かかった。
火のせいか。
祝福のせいか。
分からなかった。
目を閉じる。
少しだけ考えた。
戦ったこと。
宿屋のこと。
村のこと。
野営のこと。
そして氷王の城。
どれも同じだった。
自分はいつも真ん中にいた。
ただそれだけだった。
でも。
それでよかったのだと思った。
翌朝。
陽和が起きたとき。
霜が降りていた。
空気が冷たかった。
だが。
三メートルの範囲だけ。
少しだけ違った。
ほんの少しだけ暖かかった。
ミナが言った。
「やっぱりぬるいわね」
陽和は言った。
「はい」
フィルが言った。
「祝福です!」
レオルが言った。
「出発します」
四人は歩き出した。
勇者は真ん中を歩いた。
三メートルの暖かさが一緒に動いた。
ほんの少しだけ。
確かに暖かかった。
この勇者は。
ちょっとだけ暖かかった。
完。
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